第1回 マスクと中学生(1)

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ケロミはダイス君を足でぞんざいに蹴った。ダイス君はコロコロと何回か転がり、そして、止まった。

「もう!足はダメって言ったじゃん!」

ダイス君は、むくりと上半身を起こすと、正六面体の顔面の4の目をこちらに向けながらぷりぷり怒って言った。

「はい、はい。分かりましたよ」

「ケロミちゃん、今のはカウントなしだからね!」

ケロミは、仕方なしにダイス君の正六面体の頭部を両手で持ち、丁寧に、しかし、思いっきり転がした。ゴロリーン…と。

「いいね~!ケロミちゃん………!」

勢いよく転がされて喜ぶダイス君に、ケロミは、「めんどくせ…」と呟いたが、既にはるか前方に転がっているダイス君には聞こえなかったようだ。

ケロミはポクポクふてくされたように歩き、2の目を天に向けて転んだままのダイス君に追いついた。ダイス君の2の目を上から見下ろしながら言った。

「今ので転がし10回目。今日の分は終わり!」

「うん、わかった。ありがと」

ダイス君は満足した様子で素直にスクッと立ち上がり、ケロミと並んで歩き出した。

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「ねぇ、ダイス君って『M』なんじゃない?」

ケロミはニヤリと笑った。

「なんで分かるの?」

ダイス君は1の目をこちらに向けている。1の目は、照れて赤くなっている証拠だ。そう、赤く、そして、丸い。

「さっき転がした時分かった」

「やっぱ分かる?」

ダイス君は鼻(らしきあたり)を微かに動かし言った。

「だって、もう『S』じゃないでしょ」

「うん、でもまだ『L』でもないよ」

「だよな。投げるとき、前より少し重くなった感じがしてたんだよねー。憧れの大人サイコロ『Lサイズ』に一歩近づきましたな。よ!成長期!」

ダイス君は照れた様子で、「ケロミちゃんにはかなわないなぁ」と言った。1の目の赤い丸がさっきより少し大きくなっている。相当嬉しかったと思われる。ダイス君はとても分かりやすい。

「そうそう、ケロミちゃんも背が伸びたよね」

ダイス君は、エメラルド色のケロミのカエル頭巾を見ながら言った。

「ふふ…ダイス殿…だまされたのぉ。なんと…今日は頭巾の中に詰め物をしてるのじゃ!」

ケロミが、カエル頭巾の目玉部分の最上部の出っ張りを軽くたたいてみると、ぽむぽむと中に綿が詰められているような鈍い音がした。

「ケロミちゃん、裏技だね!すごいね!」

ケロミもダイス君に誉められ、少しこそばゆさを感じ、カエル頭巾の目玉部分を痒くもないのにポリポリと掻いてみた。

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ケロミは常にカエル頭巾を被っている。家は老舗のシメさば屋。頭巾着用はシメさば屋の身だしなみの基本だ。ケロミはこのカエル型の頭巾を小さいころから着用しているためトレードマークとなっている。もはや、体の一部、皮膚のようなものだ。よって、この頭巾を取ると内蔵を見られているかのごとく途端に恥ずかしがり屋になるのであった。(※いつもはそこそこ積極的な娘です。)

また、ケロミ達が住むこの国は、あらゆる種族が混在している。ケロミはヒトモドキ族だが、本当にカエルのカエル族もいるし、魚族もいるし、無数の種族がいる。種族の外形も生態も様々なので、ひとつの規則に納まらないことがとても多い。よって、おのずから学校での校則もゆるくなってくる。ケロミの通う中学校も、カエル頭巾にシメさば屋エプロンでの通学でも全く構わないのだ。どちらかと言えばドレッシーでさえある。サイコロ族のダイス君など全裸だが、誰からもとがめられたことはない。(ちなみにダイス君が男なのか女なのかも不明。)かなり大雑把でゆるめの国なのだ。……否、とてつもなく平和で最高に良い国なのでR。

ケロミとダイス君は「おミカンはSやLよりMがいいよね」「おミカンのSは廃棄率が高いよ」「だけど甘いのが多いような気がする」などと他愛ない話をしながら、いつもの通学路を歩いていった。彼らの学ぶ昭和ヶ丘中学の球体群の校舎に近づいてきた。

ケロミとダイス君が虹アーチの校門に入ったとき、おミカン談議に熱中する二人は、自分たちのクラスがある球体が澱んだ野ネズミ色に変わっていることに気づかないままであった…。

「おンはよー!」

ケロミが教室の扉をガラガラと開けると、マスクをしたクラスメート達が一斉にこちらを向いた。「あれ?なんか変だ…」マスクの生徒は、クラスの半分ほどである。それらの生徒は皆、人差し指をマスクにあて『静かに』のジェスチャーをした。

そのマスク生徒の中の一人、ドイツ族のブリクサが、素早く超抗菌マスクをケロミとダイス君に投げて寄越した。そして、

『ケロミチャン、ダイスクン、キケン!マスク、ツケテ!』

と手旗信号を送ってきた。

ダイス君はマスクを6つキャッチして、早速、正六面体の頭部全面にマスクをかけている。ケロミは手旗信号を読み取るのに気を取られ、マスクを取り損ねてしまった。落ちたマスクを拾う時、マスクに印刷された「中学2年生用マスク」の文字を見て、ハッと気づいた。

「もしや…」

クラスを見渡し、マスクをつけていない生徒の様子を把握した。そして、ケロミは、「あれ」がこのクラスにも、とうとうやってきてしまったことを確信したのだった…。

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マスクと中学生(2)に続く

次回もお楽しみに!