第3回 マスクと中学生(3)

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「あぁ、先生まで感染している…」

今年の中2病は、感染力が強いのだろう。中2クラスの担任教師まで感染したのだ。

しかも大人の中2病は症状が激しい。既に成長しきった大人なので、「背伸び」をすると強烈にすっとこどっこいな症状になる。中2病を発症した大人100人にアンケートをとったところ、憧れの人ナンバーワンは、「断然、シモダカゲキ先生!」と回答したという調査結果もある。(※シモダカゲキ先生は独特なファションセンスが特長のステキな年配の小説家。)

発光米(はっこうまい)先生のリーゼントはシャチホコ型だ。しかも、金色に光っている。そして、ガングロにしたお米型の顔には赤い判子がたくさん押されている。タトゥーのつもりだろう。「よくできました」「がんばりましょう」「重要」といった教師用業務判子である。公職の教師が業務用品を私用に使用するのはよくない。(しかし、このハンコタトゥーは偶然にもアバンギャルドでハイセンスに仕上がっているので良しとしよう。)服はすべて表裏逆だ。反逆精神の表れだろう。かつ、ジャージのズボンをトレンディに首にまいている。トレンディ過ぎて、ナニが何だか分からない感じに仕上がっている。とにかく、とても目立ちたいようなのはビンビンに伝わってくる。

ムーンウォークで教壇に立つと、発光米先生はすぐさまエアギターたちを見つけた。握った金色のマイクを口に近づけ、おもむろに

「バンドやろおうぜぃ!」

と叫んだ。

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あぁ、ラストワードだ!これで、ついにバンドが結成されてしまう。中2病が悪化し、このままだと永遠に中2、決して中3になれない…!

大人になりたい、と言いつつも、本心は大人になんてなりたくなーい、というのも中2病の症状のひとつだからだ。

「中2菌を絶たなければならぬ…どうしたら…」

ケロミは恐怖におののき、よろけた。その拍子にケロミの背中にしょった通学リュックが揺れ、中から金属音が響いた。そして、その音を聞くと、ケロミのカエル頭巾がぴくりと反応した。

「これだ!」

ケロミは、思い付いた!

菌は消毒すれば死滅するのだ!そう、それはこのリュックの中の弁当箱にあるもので!

ケロミはリュックから弁当箱を取り出した。そして、かっこよくダンディーに(女だが)自らのマスクをはがし、フンドシ…否、エプロンを強めに締め直した。戦闘モードである。カエル頭巾の色も輝きを増している。そして、弁当箱を膝に乗せて正座をし、静かに両のまぶたを閉じた。精神統一をするケロミから緑色のオーラが漂った。緑茶のような芳香さえ感じられた。

10秒ほど経ったであろうか、精神統一を完遂したケロミは、カッと両の目を開いた。そして、おもむろに膝に置いた弁当箱のフタを開くと、箸で中からオカズのシメさばをつまみ、そして、それを食べた。1個、2個、3個と次々と食べた。いや、正確には食べてはいない。咀嚼しただけで、飲み込んではいないのだ。ぐちゃぐちゃなシメさばが口いっぱいな状態である。

ケロミは、シメさばで口をいっぱいに満たし終えると、丁寧に弁当箱のフタを閉め、立ち上がり、一礼をした。

そして、隣でカクカク踊りまくるダイス君をむんずと捕まえ、プハーと息を吹き掛けた。酸っぱい息を吹きかけられ、ダンスの動きを徐々に止め、パタリと倒れるダイス君。六面体全ての面の合計21個の丸い目が全部一文字になっている。気絶して眠っているのだ。これは、シメさばの酢の匂いが咀嚼されることにより一層酸味が効き、かつ、ケロミ酵素と反応し、消毒成分が格段にアップしたためによる効果である。ケロミは、父上から聞く家訓、「困った時は、シメさば頼み」を初めて実感した瞬間でもあった。

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「一息で充分だな」

ケロミは呟いた。緑色のオーラは発せられたままである。この様子をぼんやり眺めていた中2病の生徒たちは、ダイス君が倒れて、どうやら中2病が治りそうなことを知ると、

「やだ、治りたくない…、ずっと中2でいたい…」

と口々に言い、教室内を右往左往しだした。粋がっていても、クラス外に出られないところも、中2病の症状である。そこを逆手にとり、ケロミは教室内で獲物を次々と捉え、息をふきかけていった。ヤンキー症状発症者も、サブカル症状発症者も、エアー達も、ブリクサも……ケロミの強力な消毒息を受け、倒れていった。

「ふふん、訳もない……」

くちゃくちゃとシメさばを噛みしだきながら、ケロミは勇者気取りで倒れ込む救出者たちを見下ろした。もう、クラスメート全員がケロミの息にかかり、中2菌を死滅させられていたのだ。

だが……、

「バンド組もうぜぃ!」

懲りずにシャウトする大きな敵がここに一人残っている。ラスボスである発光米先生は、仲間の中2病生徒たちが陥落しても、全く意に介せず、相変わらずの素っ頓狂ぶりだ。手強い……。しかも、何だか見た目がますます気持ち悪くなっている。いつものツヤツヤなササニシキの発光米先生なら、食べてしまいたいくらいにお近づきになりたいが、黒色の脂汗が滲み出て、まだら黒くなっている先生にはなるべく近づきたくない。

「嫌だなぁ、この人」とケロミが思っていると、気絶していた生徒達が気がつき起き出した。ダイス君が初めに蘇生した。

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「なんか、嫌な夢を見ていたみたい……。ケロミちゃんが助けてくれたんだね、ありがとう!」

ブリクサも、眠そうな顔をして起きあがった。

「……あぁ、生き返ったようだよ……。ケロミちゃん、まんじゅうの具にされた時は助けてくれなかったけど、こんな秘策があったんだね。さすがだね!」

「ま・まぁね…」

ブリクサの勘違いにケロミのココロがチクリとうずいたが、まぁ、結果がよいからこのままにしておいた方が無難だなと思い直して、話をそらすように、発光米先生を指差した。

「ねぇ、あれ見て。発光米先生がさぁ、なんかヤだよね」

「あ・ホントだ」

「マイちゃん先生、ひどいね」

「また嫁に行き遅れるちゃう」

マイクを握り、「らぶいずおーばー」と絶叫する発光米先生を取り囲み、クラスメート達は、色々と話していたが、なんだかんだ言いつつ、みんな発光米先生のことが好きなので、治してあげようという結論に達した。

しかし、ケロミは、口の中のシメさばがほとんど残っていないため、一人での消毒はすでに難しい状況であった。

「じゃあ、みんなでシメさば噛んで、息ふきかけてあげようか。多分先生の中2菌は強力だろうからさ」

ダイス君の発案で、そういうことになったが、肝心なシメさばがケロミの弁当箱にもうほとんど残っていない。

「うちのシメさばは出前もやっているから大丈夫」

「じゃあ、出前で」

「誰がお金払うの?」

「やっぱり発光米先生じゃね?」

「じゃあ、請求書はマイちゃん先生で!まいど!」

意見もまとまり、ケロミは、シメさばの出前を頼んだ。

しばらくしてシメさばが無事に届き、クラスメート全員で咀嚼したシメさばを発光米先生にふきかけた。

さすがに大人の中2病患者も38人に囲まれての消毒には勝てず、マイクを握りしめたまま、倒れてしまった。

「じゃあ、先生が蘇生するまで自習ということで」

学級委員長のブリクサが皆に告げた。

クラスメートたちは、皆でシガレットチョコでタバコごっこをしたり、エアギターを弾いてギターごっこをしたり、サブカル本を読んでみたりして、中2らしい遊びを散々して過ごした。そして、もう5時限目も終わりになろうとした頃、やっと発光米先生が目を覚ました。

「あら・やだ、私ったら……、きゃっ!何この格好!?」

顔を赤らめる(まだら黒くてよく分からないが)発光米先生に、ケロミは、そっと領収書を渡した。

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「先生、お安くしときましたから……」

請求書の「発光米先生の中2菌消毒用シメさば代金」という文字を見つめ、さらに顔を赤らめ恥じ入る発光米先生に、

「仕方ないよ」

「誰だってあることだから」

「さぁ、元気だして」

とクラスメート達は妙に大人っぽく慰めるのであった。

今回の小冒険で、ケロミは、シメさば屋の経営者の娘として、売り上げアップにも貢献でき、皆を救出した勇者として讃えられ、そんなに悪いことでもなかった。

しかしながら、読者の皆様は、この時期、くれぐれも中2病にかからないよう、普段のうがい・手洗いを徹底して注意して頂きたい。もし、貴方が大人であったらなおさらのことです。

なぜなら、発光米先生は、中2病の後遺症として、しばらく金のしゃちほこリーゼントだけは続いて、あだ名が「金しゃち先生」となり、さらに婚期を延ばしてしまったからである。

(マスクと中学生/完)


「マスクと中学生」は今回で完結です。

次回のケロミの小冒険もどうぞお楽しみに!