第4回 魅惑の餅園 (1)

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「わぁ~すご~い!」

ケロミは思わず感嘆の声を上げた。

「本当にあったのね」

「夢みたーい!」

「すっげぇ!」

同行の3人もはしゃいでいる。

ケロミは、姉のネ子、ウサ子、弟の鷹蜜の4人で、今、憧れの場所の前に立っている。

「なかなかチケット取れないらしいわね」

猫頭巾の長女、ネ子がゆっくりとしとやかに言った。

「うちの高校で、100年間毎年チケットを取るのにトライしてもダメな先生がいるよ」

ネ子と双子である兎頭巾の次女ウサ子が、少しハスキーな明るい声で話した。

「闇チケット屋では500万で取り引きされてるってクラスの女子が言ってたー」

弟の小学3年生の鷹蜜はそう言いながら、繋いでいたケロミの手をクイクイと引っ張った。すると、頭の鳥頭巾の翼部分が軽やかに揺れ、まるで飛び立つ鳥のように見えた。

「ケロミに感謝だよね」

ウサ子がそう言うと、ケロミはニヤリと笑い「エッヘン」と左手を腰にあて右手人差し指を横に曲げて鼻下を左右にこするという古典的な「偉い人」ポーズを取った。

「というより、マイちゃん先生に感謝よね」

ネ子は優しい笑顔でそう言うと、ケロミはまたもおどけてペロリと舌を出した。

4人の姉弟の屈託のない笑い声が響いて、いかにも楽しそうだ。皆、ちょっとした事でも笑ってしまうくらい気分が高揚していたのだ。

そして、ひとしきり笑った後、4人は、猫、兎、蛙、鳥の大中小の頭巾の影を後方へ伸びばしながら、朝日でまぶしい目の前のゲートを改めて見上げた。

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彼らの前には、大きなゲートがそびえている。ゲートには「オモッチーランド~餅園~へようこそ!」と書かれている。そして、そのゲートは公式キャラクターのオモッチーナにかたどられ、福々しくにこやかに笑みをたたえている。憎たらしいくらいに可愛いらしい。もちもちの餅肌は、食べてしまいたいくらいだ。(実際、オモッチーナは食べられることに喜びを感じる超ドMキャラなので食べてもOK。)

そう、ケロミたちはあの幻のアミューズメントパーク「オモッチーランド(正式名称:餅園)」に来ているのである。オモッチーランドは、その名の通り「お餅」をテーマにしたランドである。とても美味しく楽しくナイスなランドだ。そして、なかなかチケットを取れないことでも有名だ。なぜなら、オモッチーランドは1月のみの限定オープンだからである。開催場所も毎年異なる。運良くチケットを取ることが出来た人にしか詳細が明かされない。しかし、入園料だけ払えば、お土産代以外は、ランド内では何をしても何を食べても全て無料という嬉しい仕組みになっている。とてもツンデレなランドなのである。そして、そのチケットは毎年抽選で選ばれる。秘密の抽選会が開かれているようだ。「良い子にしてるとチケットが当たる」「当選率は収入に反比例する」「幸運の純金ハンコを買うと当たる」など説も様々あったが、どれもそんなこともなく、悪人でも金持ちでも三文判の人でも当たる時は当たり、当たらない時は当たらない。非常に公正かつ単純な抽選なのだ。

そう、なぜケロミ達が、そんなプラチナチケットを持っているのか…。それは、発光米(はっこうまい)先生が「中2病事件ではお世話になったから」と、こっそりケロミにチケット4枚をくれたからである。発光米先生とランドの支配人の餅米粘(もちごめねばる)氏とは、親戚筋らしく、比較的簡単に親戚枠でチケットが入手できるらしい。

「僕、今日のために三日間何も食べてないよ」

弟の鷹蜜は言った。小学3年生の鷹蜜は、空腹のため顔がゲッソリして頬がこけている。いつもより大人びて見える。

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「私も腹ペコ~」

ケロミは、実は朝から景気付けにこっそり磯辺焼きを2個食べてきたので、それほど空腹ではなかったのだが、オモッチーランドを目の前にすると急に腹ペコになった。これこそ、オモッチーマジックである。

「グーきゅるる~」

「あ、お腹鳴ったの誰だ~」

ケロミが言うと、ネ子が小さく、

「あらやだ」

と言い、顔を赤らめた。

「いいから、もう入りましょう」

とネ子が言うと、

「グー」

「ぐるる」

「きゅるぐっぐー」

と3人は返事の代わりにそれぞれのお腹を鳴らして、ネ子の後に続き朝日で輝くゲートをくぐった。

入園口のチケット係員は、おミカンを頭に乗せたペンギン族の赤ちゃんだった。まるで灰色の鏡餅のようである。餅腹がふわふわであどけない顔もまん丸。頭に器用に乗せたおミカンもベリーグッドだ。かわいさギガ半端ない。超パネェ。

その可愛すぎる係員に、年賀状に酷似したチケットを渡すと、

「楽しんできてね(-◇-)」

と係員はよちよちした可愛い声で、パタパタと短い手を振った。そうして、ケロミ達は、可愛すぎる赤ちゃんペンギン係員に見送られながら、とうとうランドの中に足を踏み入れたのだった。

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ランドのエントランス広場には、朝だというのに既に数多くの客が入園していた。客に混ざって、公式キャラクターのオモッチーナが何匹もいた。(オモッチーナは一匹だけでなく、どんどん生まれるので何匹もいる。そしてどんどん食べられる。サイズも米粒サイズからクジラサイズまでまちまち。)

年少組のケロミと鷹蜜は、一番近くにいた大きめのオモッチーナにかけより、モフッと抱きついた。オモッチーナの適度な弾力のあるふわふわもちもちの暖かい懐に飛び込むと、それだけでケロミ達は満たされるものを感じた。

「いらっしゃーい!もっちー!」

オモッチーナはケロミと鷹蜜をふんわり抱きしめた後、頭をなでなでしてくれた

そして、オモッチーナは自らの体をつまみ、餅の小さな塊を4つ千切ると、それをふわっと空中に放った。

「はい、これのうぞ!」

オモッチーナの手から離れた餅はくるくると空中で回りながら星型になり、4人それぞれの目の前で光を放ちながらふわふわと誘うように舞った。

「ウェルカム餅だよ。早く食べて食べて!もっちもち!」

ケロミは目の前に浮いている一口サイズのウェルカム餅をぱくりと口で受け止めた。ウェルカム餅は、口の中でもちっとした後ふんわりと溶けてなんとも言えない甘い香りが口中に広がった。

「ん、んまい!」

鷹蜜とウサ子もぱくりと食べ、その美味さにうなった。

いつもしとやかなネ子でさえ、

「なんやこれ!?んまいやないかいっ!」

と思わず関西国の関西語で言ってしまったくらいだ。

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オモッチーナは、

「他にも色ーんなお餅がランドで君たちを待っているよ!レッツ、おもっちー!」

とケロミ達の背中をふんわり押し、先を急がせた。

ケロミも鷹蜜も、もっとウェルカム餅が食べたかったが、目の前に広がるランドの素晴らしさに魅了され、先へ先へと歩き出した。

ランドは、あらゆる所に色んなタイプのオモッチーナがいて、ランドを盛り上げていた。また、ふんわりと全体的に淡いパステルカラーで統一された街並みが心をなごませるとともに、楽しい気分をさらに盛り上げていく。

「ふんふん、すごい色々なお餅やアトラクションやイベントがあるみたいだよ」

ウサ子は、いつの間にか手に入れたランドの地図を広げていた。

「お腹すいたから、まずはこの『もちもち飲食ゾーン』から回ろうよ」

4人は、全員一致でランドの人気ゾーン『もちもち飲食ゾーン』に向かうことにした。

ケロミ達はワイワイとはしゃぎながら、ゾーンを目指して歩いていたが、ゾーンが近づくにつれ、甘い匂いや、辛い匂いや、甘じょっぱい匂いが濃くなり鼻と腹と脳を刺激した。いつしか、無言になった4人は、それぞれの腹の音だけを大きく響かせていた。そして、ケロミの腹からはついに最高潮に腹ペコな音「ケロケーロ」が聞こえるようになってしまった。

『もうダメ…不覚…磯辺焼き2個分のエネルギーは私にはもうない…』

ネ子もウサ子もランドでたらふく餅を食べるために朝食は食べてきていない。鷹蜜にいたっては3日間断食している。3人よりも腹条件が良いケロミであったが、姉弟の中で誰よりも大食漢のケロミには、もう限界であった。

ケロミは、極度の空腹でふらふらになり、前を歩く3人が霞んで見えた。

意識が遠退きそうになって「あ・召される…」と感じたとき、前方の『もちもち飲食ゾーン』から、

「どーん!」

「ぺたん」

とリズミカルな音とともに地響きがして、ケロミは見事に覚醒した。

『この音はもしや…』期待でケロミの心臓は高鳴り、瞳孔がカッと開いた。

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先にゾーンに入った鷹蜜の

「どわっ!」

という驚きの声に、ケロミのカエル頭巾の目玉部分が反応しピクリと動いた。

ケロミは空腹で召される寸前だったこともすっかり忘れ、自慢の俊足で、ゾーンの入り口へと向かったのであった。

魅惑の餅園 (2) に続く


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