第5回 魅惑の餅園(2)

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ケロミは全速力で走り、もちもち飲食ゾーンの入り口にたどり着いた。

「どーん!」

「ペタン」

音は大きくなり、地鳴りと共に響く。

ゾーンの中に入ると、そこには、「横綱山」の刺繍が施されたまわしを締めた大きな相撲取りが軽やかに大きな杵で餅をついていた。ケロミ10人分ぐらいの大きさの横綱である。

また、巨大な臼の中の餅をひっくり返す相棒役は「大関之里」の刺繍まわしの相撲取りだ。この大関はケロミ9人分ぐらい。それでも大きい。

横綱が杵でついた。

「どーん!」

つかれた餅の一部は、その衝撃で幾つかの小さな塊に千切れて四方に飛び散った。見ると空中で千切れた餅はオモッチーナに変態してニコニコ笑っている。可愛い、そして、美味しそう…。小さなオモッチーナ達は、「もっち~ん!」と言いながら、そのまま取り囲む観客の口の中に嬉しそうにダイブしていった。すでに到着していた姉のネ子、ウサ子、弟の鷹蜜の3人は、口を大きく開けて出来たてのオモッチーナを他の観客同様にキャッチしていた。ケロミもネ子の隣にスルッと並ぶと口を一杯に開けた。するとすぐに1匹のオモッチーナが「もっち~ん!」と飛び込んできてくれた。

「わぉっ!」

最高だ!つき立てのお餅は、素材の旨さが最高に際立っている!うまし、うまし、激烈うまし!

ケロミは、餅パワーで体力がみるみると回復していくのを感じた。

「ケロねぇ、お餅美味しいねぇ」

鷹蜜がもぐもぐしながら嬉しそうにケロミの方を向いた。

「うむ、出来立ての餅は格別じゃ!」

ケロミは2つ目のオモッチーナを口でキャッチしながら応えた。

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しばらくして、

「他も色々あるから見ましょうよ」

と、ネ子は、夢中になっている妹弟に言った。

そう、オモッチーランドの魅力はまだまだ無尽蔵にある。底知れないのだ。終わりなく続く横綱&大関の餅つき大会に足止めされている場合ではない。若人達よ!今こそ新しい一歩を踏み出すのだ!……ということで、若い4人は、餅つき大会会場の周りから奥に広がる数多くの飲食ブースを見て回ることにした。

どのブースも、朝食をオモッチーランドで摂るつもりで来た腹ペコ客達でにぎわっていた。

「お餅」と一口に言っても、種類が多数あるのは周知されていることだろう。有名なものは、磯辺焼きや雑煮や煎餅などショッパイ系のお餅。また、大福や求肥やおはぎなどスイーツ系お餅も有名だ。このほか、この国独自の変わったお餅も多数ある。また、オモッチーランドでは日々新しい餅の研究が盛んに行われている。(お餅の研究施設も併設されているらしいYO。)そう、お餅の可能性は無限大なのである。イッツ・オモッチー・ワールド!

ケロミ達はブースごとに異なるお餅を楽しんだ。ショッパイ系やスイーツ系やアウトロー系やオレオレ系や癒し系…飽きさせない多様性はなんとも素晴らしい。

色々なお餅を食べて腹を満たした4人は、シメのお餅ソフトクリームをなめながらゾーンの中をプラプラ歩いていた。すると、子供に人気の「餅風船」が売られているのを鷹蜜が発見した。

「欲しい!」

鷹蜜とケロミは走って餅風船の列に並んだ。どうやら餅風船も出来立てを提供しているらしい。ぷかぷか浮いている様は、普通のパステルカラーの風船に見えるが、切り餅型や鏡餅型やオモッチーナ型も混ざっている。もちろん、100%お餅できていて、浮かせて遊ぶことだけでなく、食べることも可能だ。(かじった時の弾ける感覚もまた楽しいのでR。)そして、この餅風船を膨らましているのも相撲取り達であった。

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ケロミ5~8人分の関脇らしき相撲取り達が、5人並んで競うように餅風船を膨らませている。膨らんだ餅風船は、各関脇の付き人の、ケロミ0.5~0.8人分くらいの小さな力士見習いに渡していた。この小さな力士見習いはおそらく入門したてなのだろう。先輩の関脇達が次々とふくらます餅風船を受け取り、客に渡すので、おたおたと大慌てだ。中でも一番小ぶりなケロミ0.5人くらいの大きさの見習い君は、餅風船を持ち過ぎているため体が少し浮いている。しかも、担当する関脇は、5人の関脇達の中でも餅風船製造がダントツに早い……。そのため、見習い君は、出来た餅風船を客に渡す暇もなく、関脇から餅風船を受け取ることだけで必死である。見習い君の持つ餅風船の数はどんどん増えていく一方。それに比例し、見習い君は浮いて地上からさらに離れていく。ケロミ達は、ひやひやとその様子を見ていた。

「あれ~、どんどん上がっていく~」

とうとう、ケロミ達の目前で見習い君は餅風船を持ったまま空高く上がり、ゆっくりと風に乗り流されていってしまった。

風に流されていく見習い君の

「ごっつぁんで~す」

と言う切ない声が小さく聞こえた。

「大丈夫かねぇ」

心配になったウサ子が、列から抜けて関脇に聞きにいくと、

「よくあることでごわすから」

と言われて、ウサギ頭巾の耳を少したらして

「だってよ」

と言いながら帰ってきた。見ると、代わりの新しい見習い君が後釜に既に入っていた。

「これも修行のうちかもしれないね」

「相撲族は、噂とおり厳しいね~」

ケロミ達は、心配しつつも、相撲取りの世界のシキタリに口出しするのも悪いと思い、4人で、遠く小さくなった見習い君に向かって、

「困難を乗り越えろー!」

「たくましく生きろー!」

「大きくなれよー!」

「横綱目指せよー!」

と応援のメッセージを叫んだ。

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そうしているうちに、列も進みケロミ達はやっと餅風船を手にいれることができた。

「はい、のうぞ。ごっつぁん!」

パステルカラーの餅風船を4人でぷかぷか浮かせながら、次はどのゾーンに行こうかと相談をした。

「『もちもちアトラクションゾーン』もいいね」

ケロミが言った。

「でも、お腹がいっぱい過ぎてあまり動きたくないわ」

ネ子がそういうと、絶叫オモッチーコースターに乗ったら、せっかく食べたお餅が口から飛び出てしまうかも…という懸念がある事に皆気付き、

「じゃあ、とりあえず、次はのんびり『秘湯もちの湯』に行こうよ」

とウサ子の提案に同意することにした。

『秘湯もちの湯』は『もちもち飲食ゾーン』の隣にあった。

古く由緒あるE感じの温泉旅館を模した館内に入ると暖かい湯気がふわふわと浮遊していた。湯気もオモッチーナだ。手で触ると湯気オモッチーナは「もっち~ん」と微かに音をたて、ふんわりと分裂してさらに小さな湯気オモッチーナになってキャハハと笑った。

もちの湯は混浴のみで、希望者は餅糸で出来た水着を貸し出してくれる。ケロミ達は餅水着に着替え、餅製ビニールキャップを大切な頭巾に被せて、巨大温泉『もちの湯』へと入っていった。

「おわっ」

皆、暖かい湯気に包まれた白い世界に驚いた。

天然露天風呂として作られた温泉は、岩が自然に美しく配置され、その岩は温泉成分が付着し凝固しており、真っ白になっていた。白い湯気がもわもわ出ている。大きな湯気オモッチーナが温泉の奥の方で、おいでおいでをしているのに気がついた。

洗い場から温泉に近づいていくと、いかにも効能がありそうな白濁したトロミのある湯が満々と湯船から溢れんばかりだった。

効能書きの看板には、「お餅を作る時に廃棄される部分を浴用にしております。効能は美肌・美顔・美尻。飲用も可。」と書かれていた。

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「これが、餅肌になると評判の白いとろとろ湯なのね」

かぶり湯を済ませたネ子が白い湯を手でそっとすくった。微かにトロミがある。

ケロミはその横でそろっと足をつけてみた。

「お、いい感じ~」

熱くもなし、ぬるくもなし。ちょうどよい湯加減である。

ケロミは肩まで浸かった。

「ほにゃらん、ほにゃらん、ほへほへの~、にゃったらり~のぽってぽて~」

湯けむり温泉極楽気分だ。ケロミの歌う、最近の流行歌「ほにゃらんLove」が湯船に響いた。

温泉は巨大だ。ケロミ達4人の他に客が沢山いるはずなのだが、湯気の遥か向こうで見えなかった。まるで貸し切りのようである。4人仲良くのんびり気分で浸かっていると、4人の目の前の水面が突然揺らめいた。

「ネ子ねぇ、温泉にお魚いるのかな?」

それを見た鷹蜜が、つるつるの紅潮した顔で無邪気に尋ねた。

すると、それに応答するように揺れていた水面部分がザバッと大きく膨らみ、温泉の中からいきなり何かが飛び出してきた。姉弟達は驚きの声をあげた。

「ひゃ!」

「ぐぉっ!」

「どぇっ!?」

「……って、……あれ?」

魅惑の餅園 (3) に続く


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次回もどうぞお楽しみに!