第6回 魅惑の餅園(3)

「えっ…?」

ザバッと白濁したお湯から現れたのは、立方体だった。あの馴染みのある形…。

「やっほー!ケロミちゃん達!」

そう、現れたのはダイス君。しかも、やけにツヤツヤで白光っている美しいダイス君だ。

「ヤだ、ダイス君、驚かせないでよ!」

仁王立ちしてゲハゲハ笑うダイス君に、ケロミとネ子とウサ子が怒ってお湯をかけた。

「ダイス兄ちゃんだ!」

鷹蜜だけは喜んでいるが、やはり思いっきりお湯をかけている。(ダイス君は性別がないので、厳密にいうと「ダイス兄ちゃん」ではないが、何となく男子っぽいので、これでいいだろう。いいよね?)

「やめれ!やめれよ~!」

ダイス君は、お湯攻撃を避けるように肩まで浸かって逃げた。しばらくして、ケロミ達の怒りが収まるとダイス君が近づいてきて言った。

「お湯に潜ってたら、ケロミちゃん達が見えてさ」

「白いお湯の中でよく見えたわね」

ネ子は感心したような呆れたような態度だ。

「目はいいんだ。いっぱいあるし」

ケロミ達は、ダイス君の合計21個の目がある六面体を見て「なるへそ」と納得した。

「ケロミちゃん達、チケットの抽選当たったんだね」

「ま、まぁね…」

バツの悪い返答をするケロミに、

「ダイス君も当たったの?」

と、助け船をだすようにウサ子が尋ねた。

「うん。でも毎年当たってるよ。勝負運は滅法いいんだ。なんたってサイコロ族だからね」

と答えるダイス君の六面体を見て、ケロミ達はまたまた「なるへそ」と納得するのだった。

「今年はさぁ、『あなたが考えるニュー餠レシピコンテスト』をやってるよ。僕、もう応募した。ケロミちゃん達も出しなよ」

「何かもらえるの?」

「優勝には100万円分」

それを聞くと、4人の餅ビニールキャップの中の頭巾がピクリと反応した。中でもネ子は、

「おっしゃっー!」

と水しぶきをあげ雄々しく拳を握り立ち上がったが、

「あら、やだ」

とすぐに顔を赤らめながら「おほほ」とわざとらしく笑い浸かり直した。

妹弟も、

「いいね」

「応募しようよ」

「でも『100万円分』の『分』て?」

と既にやる気満々になっている。

ダイス君は、

「じゃあ、僕は自慢の純白美肌の為にまた潜るよ。サラバじゃ!」

と意外にさっぱりと後腐れなく、ぶくぶく潜っていなくなってしまった。

「ダイス君は美白への熱い想いはモノホンだな…」

ケロミがつぶやくと、遠くのモヤの中で六面体が水面から顔を出し、そして手を振ったのが薄っすら見えた。

「ダイス君は耳もいいんだね」

「でも耳ってドコだろう」

「個性的だよね」

と姉弟はのんびりとどうでもよい話をしながら美白の湯を堪能したのであった。

すっかりくつろぎ、ツルツルのモチモチ肌になったケロミ達は、もちの湯を出た。4人の体からは、しばらくの間、湯気オモッチーナがほかほかと出現しては消えてを繰り返していた。なんともマッタリしたE雰囲気に仕上がった姉弟である。

「次は、ドコ行く?」

ほかほかマッタリ気分を壊すように、せっかちのウサ子が、大きく広げたランドの地図を凝視して言った。

「餅ろん、『もちもちアトラクションゾーン』!」

ケロミと鷹密が揃えて声を上げた。

「今の『もちろん』は『餅ろん』ですからにぃ」

ケロミは、念のためつけ加えた。

ネ子とウサ子も、「餅ろん」と同意し、姉弟は、『もちもちアトラクションゾーン』のあるエリアへと向かった。

ゾーンに向かう途中、ケロミ達がぽくぽく歩いていると、前方に賑やかなブースが見えてきた。近づいてみると、「あなたが考えるニュー餅レシピコンテスト」の看板が設置されている特設ブースであった。入り口付近には、数匹のオモッチーナがいて、

「100万円分のチャンスはこちら~!もっち~ん!」

と盛んに呼び込みをしていた。

「あれ、ダイス君の話していたやつだ!」

「先にこっち寄ってから行こうよ」

「100万円分ゲットだ!」

と『100万円分』に目が眩んだ姉弟は、特設応募ブースへと迷いなく入場するのであった。

ブースの中に入ると、応募用紙と筆記具が用意されていた。テーブルの上には、お茶セットと餅菓子があり、ちょっとした喫茶店のようである。ケロミ達は、湯上がりにちょうどよいと、茶を飲み餅菓子を頬張った。一段落ついたところで、応募用紙に向かい、戦略家族会議開始だ!

……しかし、会議はすぐに終わってしまった。

「シメさば家といったらアレ!」

と、即座に全員一致であの食材を使ったシメさば家秘伝の餅レシピに決まったからだ。『あの食材』……そう予想通りのあれだ。(分かるよね?)ネ子が代表して応募用紙に記入して、応募箱に無事に投函した。

「当たりますように!」

姉弟は、声を揃えて言った。そして、『100万円分』を夢みながら、応募箱をじっくり30分ほど拝み、満足した4人は応募会場を出た。すると、次の部屋は投票会場になっていた。記入された応募用紙が沢山貼ってある。

ケロミ達は、掲示された応募作を見ていると、鷹蜜が声を上げた。

「ねぇ達、これ見て」

鷹蜜の指差す応募作を見て、ケロミは、

「絶対に…だよな…」

と笑った。その応募作のタイトルは「サイコロ餅」。サイコロ型の餅の各面に、黒豆やらチョコやらイチゴやらの丸いものを埋め込んだ図解が描かれている。中身はあんこらしい。見た目の珍妙さとは対照的に、味はスタンダードな現代和菓子の範疇に収まっている。

「…ダイス君だよな」

ケロミ達は、揺るぎない確信を感じた。案の定、応募者氏名の欄には「西郷ダイス」の名前が記されている。

「見た目は革新、味は保守…。ダイス…あなたって、あなどれないわ」

ネ子が、不要な深読みをし、神妙な面持ちで言うと、

「んなわけねーだろ」

と双子ならではのツッコミするウサ子に、

「他の応募作もすごく良いのが多いよ」

と他の応募作を見ていたケロミが焦って割って入った。

確かにどの応募作も力作ばかりで、『100万円分』のライバルは数多…。4人は、知らず識らずに歯ぎしりをしていた。姉弟の歯ぎしりの音は、キーキーと嫌な金属音で、投票会場にいた他の客が皆、耳を塞いで退散していったほどだ。

「あ、もう僕達の貼り出されてるよ!」

鷹蜜が歯ぎしりを止め、ある応募用紙をじっと見ている。

「どれどれ」

姉達も、歯ぎしりを止めて、鷹蜜の周りに集まってきた。

そのレシピ名は「シメさば餅」。

「…あれ、でも、これちょっと」

ネ子は、その応募用紙を見て、言葉を途切らせた。

「これ、違う」

ウサ子が横から覗いて驚いて言った。

ケロミ達が出したレシピも同じ「シメさば餅」で、これとは似ているが違う。貼り出されているレシピの方が、明らかに完成度が高い。

「…もしや……」

見覚えがある筆跡だ。

ケロミ達は、無言になり息を呑んだ。

「応募者名は、『S.S』……」

ウサ子がつぶやくと、

「……元気で良かった」

とネ子が応えるようにつぶやいた。驚いていた4人の顔は、嬉しそうな安堵の表情に変わっていた。ケロミ達は、S.Sのレシピを眺めて、

「さすがだね」

「これが優勝じゃない」

と語り合った。金属音がなくなった投票会場には、いつしか客が増えて出してきていた。そして、迷うことなく「S.S」のレシピに投票した4人は、レシピコンテストの特設ブースを後にしたのであった。

次の目標は、『もちもちアトラクションゾーン』だ!まだまだ時間はあるが、祖父母と父母へのお土産も買わないといけないので余裕はない。

急いで『もちもちアトラクションゾーン』に着いたケロミ達は、オモッチーナ達に歓迎された。「もっちーん」とオモッチーナにふわふわな体で体当たりをされると、トランポリンで弾んでいるように空に舞った。落ちてきたケロミ達をオモッチーナが受け止め、また弾んだ。

「絶叫オモッチーコースターにご案内するよ。もっちーん!」

4人は弾みながら、オモッチーコースターまで運ばれた。

「はい、楽しんで絶叫してね」

「もっちーん」

オモッチーナは、ケロミ達を上手にコースターの座席にスポリとはめた。オモッチーナ型のお餅でできた弾力のあるコースターだ。もっちりと包まれた安定感がある。しかし、コースターの高さは、地上100mと尋常ではない。

ケロミ達は、すぐにスタートさせられた。オモッチーナが笑って手を振っている。

「怖いよぉ」

あんなに楽しみにしていた鷹蜜は、既に半べそだ。

「もらしてもいいように皆オムツしてきて正解だったな」

ウサ子が飄々として言った。

「チョー楽しみだっぺ!」

ネ子は、猫のように目がランランと輝き、生き生きとしている。

コースターは、ゆっくりと頂上まで登っていく。

オモッチーランドの全景がよく見えてきた。

ケロミは、

「あっちのゾーンも行きたい」

と言ったが、目は無意識にS.Sの姿を探していた。

そして、100mに達したコースターは、一瞬止まり、

「夜の花火まで、まだ半日あるわ。存分に楽しみましょう!」

と言うネ子の陽気な声を合図に、絶叫と共に一気に下降していったのであった。

魅惑の餅園 / 完


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次回もどうぞお楽しみに!