第7回 ダイス式ダイエット(1)

今日は休み明けの久々の登校日。朝の太陽が清々しく気持ち良い。それなのにケロミは憂鬱である。今朝の通学だけで腕が筋肉痛になってしまったからだ。これはダイス君を転がしたせいである。しかし、「友情の証」としての毎日の「転がし」はいつも通りの10回のまま。回数が増えている訳ではない。休み前までは、筋肉痛になることなどなかった。

なぜケロミの腕が筋肉痛になったのか…。

そ・れ・は……mochi-butori !!(◎_◎;) -ダイス君が餅太りをしたのだ。その重いダイス君を転がすからである。今までのスレンダーなMサイズのダイス君であれば問題はなかったのだが…。

「転がし10回目…、うんしょっ!」

ケロミはダイス君を両手でやっと持ち上げて転がした。息が上がっている。

ダイス君はコロコロと勢いよく回転して遠退いていく。転がり方がスムーズ過ぎる。こんなによく転がる理由も、ダイス君が太ったことに所以している。本来ならばダイスくんの六面体の頭部の角が地面に当たることにより、スピードも距離も抑制される。しかし、今や六面体はパンパンに膨れて角がなくなり、綺麗な球体になってしまっている。さらに、ダイス君ご自慢の餅肌により、以前より格段に滑らかに転がり、かつ、弾むのだ。

「ったく、バレーボールかよ…」

遠のいていく球体のダイス君を見ながらケロミは呟いた。

地獄耳のダイス君だが、転がされて極上夢気分のため、ケロミの嫌味な呟きには気が付かなかった。

「てゆーか、サッカーボール?ボーリングのボールにも似てるな」

ケロミは吐き捨てるように言った。どちらにしても、もはやサイコロには見えない。

「いいね~ケロミちゃ~ん」

転がされてご機嫌のダイス君は、普段の倍以上の長い距離を転がり続け、やっと止まった。ケロミは、追い付くので必死だ。

ダイス君は仰向けのままで待っている。

追い付いたケロミは、寝転んでるダイス君を上から見ると、天を向いた目は、1と2と4の目のちょうど中間だった。

ケロミは、愕然とした。

「ダイス君…、まずいよ…、君、太り過ぎてもうサイコロじゃないよ…。何の目が出ているのか分からないよ!最初の9回の転がしも微妙に目がずれてたけど、今回のはひどいよ!」

「えっ!」

ダイス君は驚き上半身を起こそうと思ったが、頭部だけでなく体幹部も太っているため、うまく起き上がれなかった。

ケロミは仕方なく、ダイス君を起こした。筋肉痛のつらい手で。

「マジで?」

「うん」

コクリとうなずくケロミに、ダイス君は、

「ホントにマジで?」

と真剣な眼差しだ。

「だって太って六面体が球体になってるよ。体だってぷくぷくじゃんか」

ダイス君は、丸い顔をなで、腹のぜい肉をつまんだ…。

「…確かに」

ダイス君は、取り乱したように体のあちこちの肉をつまみ出した。肉はびよーんと餅のように伸びた。

「肉が…肉が…餅で…餅で…」

ダイス君は、当惑した様子で助けを求めるようにケロミの顔を見た。そして、なぜか肉をつまむ手を止め、ケロミの顔を見つめ、その視線を上下にゆっくり動かしてから、少し安心したように言った。

「でも、ケロミちゃんも太ったね」

そう、そういうケロミも太っていたのだ。だが、ダイス君ほどではないが。

「…うん、私も…太った…少し…」

素直に認めた。ダイス君は、腹の肉つまみを再開しながら話し出した。

「僕の場合はさぁ、オモッチーランドの『あなたが考えるニュー餠レシピコンテスト』で2等とっちゃったのが、まずかったんだろうなぁ」

ダイス君はチラリとケロミを見た。自慢話スタートのサインだ。

「その話100回聞いたよ…」

小さな声で返答するケロミに、

「100万円分は逃したけど、50万円分だぜ?50万円分の餅だぜ!」

と、ダイス君は101回目の自慢話でも相変わらず興奮している。赤い1の目がこちらを向いているので、気分が高揚しているのがすぐに分かった。

「ケロミちゃんが羨ましいよ~。『頑張ったで賞』だから、3000円分の餅でしょ?食べきるのにちょうどいい量だよね~」

ダイス君は、益々いい気になっている。ケロミは体の芯に小さく危険な炎が灯されるのを感じた。ダイス君というチャッカマンで…。

「僕なんかダメだよ~食べても食べてもまだあるんだからさぁ~あはは~」

ケロミの心の炎が勢いを増した。ダイス君という燃料によって…。

「餅は大好物だからねぇ~嬉しいんだけど、あれだけあると困っちゃうんだよね~。だって『50万円分』だからさ~」

体の中の炎の熱さで、カエル頭巾から湯気が出始めた。もう限界だ。

「『3000円分』のケロミちゃんは、こんな悩みなくていいよね…。は~」

ため息をつく球体サイコロのダイス君にケロミはついに爆発した。

「おいっ!このお餅マニアのサイコなサイコロ野郎!憧れのLサイズサイコロなんて、そのままじゃ、ぜってぇなれねぇよっ!サッカーボールにしか見えねぇんだよっ!このボケッ!くそがっ!はなくそがっ!ねりぐそがっ!」

一気に罵詈雑言を吐き、ケロミの中の炎は小さくなった。だが、ダイス君を見てすぐに、心にあった残り火が一瞬で消滅した。ダイス君という冷水によって…。

「……そんなっ」

ダイス君の21個の目から不吉な黒い涙が流れ出しているのだ。

「ご、ごめん!ダイス君!言い過ぎた!」

ケロミは反射的に謝ったが、ダイス君は下を向いたままだ。黒い涙はツーとゆっくり伸びていく。まずい…!黒はまずいのだ!

「…そうだ!一緒にダイエットしようよ!もちの湯で最高の美肌をゲットしたダイス君が痩せれば、最高級サイコロになれるよ!」

ケロミは、ダイス君の暗黒の涙を止めようと必死で言った。

すると、

「…最高の美肌?僕が?」

涙は止まった。やはりダイス君は単純だ。しかし、うつむいたままだ。まだ油断はできない。

「そうさ!ダイス君は宇宙一の純白の美しさだよ!」

ケロミはカエル頭巾に冷や汗をかきながら美辞麗句を言い続けた。

「…純白?」

ダイス君が顔をあげた。黒い涙はなくなっている。よし!もう一息だ!

「ゆ~、あ~、ほわいとえんじぇる!びゅーちふぉー!いえーす!」

ケロミはトドメの一言を言うと、ダイス君は陥落し、にやにやしだした。

「いや、それほどでもないよ…」

照れて丸い顔を撫でている。キュッキュッと音がした。どうみても磨きのかかったサッカーボールである。

ケロミは安堵したが、さすがに何だか悔しいので、

「…2等の自慢話もう言うなよな」

と低音ボイスで釘をさした。

ダイス君は、

「…うん…浮かれちゃった…」

と反省した様子だ。

「…ごめんね」

と小さく言った。ケロミは謝ってくれれば固執しない割とサッパリした性格だ。ケロミだけにケロっとして、ダイス君と並んで歩き始めた。

「でもさぁ、私達、ホントにダイエットした方がいいと思うよ」

「そうだね。サイコロなのに球体なんて恥ずかしいもの」

「カエル頭巾も太り過ぎだと似合わないし…」

二人は、しばらく無言になって考えた。そして、顔を見合せ、

「ダイエットしよう!」

と口を揃えて言った。二人の目は真剣そのものだ。決意の固さが読み取れる。

「しかし、何ダイエットがいいかな…」

「餅ダイエットは?餅だけしか食べないの」

ダイス君がほざいた。

「……」

「……冗談だよ、ケロミちゃん」

「うむ…」

ケロミ達が、悩みながら歩いていると、後方からブリクサの声が聞こえた。

「おはよう、ケロミちゃん!」

「あ、ブリ、おはよ」

「あれ?ケロミちゃん、ちょっとふっくらした?隣の人は転校生?サッカーボール族かな?」

ブリクサは、ダイス君を見て言った。

「…僕だよ…」

「えっ!?もしや、ダイス君?」

ブリクサは驚愕の面持ちだ。

ケロミは、ダイス君がまた面倒臭い落ち込み方をする前に、コホンと咳払いをひとつしてから物々しく言った。

「そういうことで、我々はダイエットをして最高のボデェにならなきゃならんので休む。ブリ、すまんが、マイちゃん先生に我々二人の『ダイエット休暇』を代わりに申請しておいてくれ」

ケロミは神妙な面持ちだ。

「確かに…。これは『ダイエット休暇』を申請できるレベルだよ。分かった!マイちゃん先生に申請しておく!健闘を祈るよ、二人とも!」

ブリクサはそういうと、伝書鳩のように忠実に学校へと急いで向かっていったのであった。

「ケロミちゃん、これで心置きなくダイエットできるね」

ダイス君が言った。

「最高のボデェを手にいれるのだ!」

ケロミは、片手をダイス君の肩に置き、もう片方で朝の太陽で明るい東の方を指差し言った。ケロミの指差した方向に二人は決意の眼差しを向けた。するとそこに何かが浮いているのに気がついた。

「なんだろ、あれ」

鳥でもないし、宇宙船や飛行機でもない。天使でもなさそうだ。二人が不思議に思い見ていると、風に乗ってぐんぐんとその浮遊物体は近づいてきた。

「あ、あれは…」

その物体が何か分かった時には、既に二人のちょうど真上に来ていた。そして、突然の「パン!」という破裂音と共にその物体は落下してきてしまった!

「わー!」

ケロミは身をかわしたが、太り過ぎのダイス君には逃げる暇はなかった。

★★ダイス式ダイエット (2) に続く★★


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