第10回 ダイス式ダイエット(4)

※このお話は「ダイス式ダイエット」の第4話です。1〜3話はこちらをご覧ください。

第7回 ダイス式ダイエット(1)
オモッチーランドを堪能したケロミとダイス君は、見事に餅太りになってしまった。太っちょの二人は「ダイエットをする」という決意を固める。最高のボデェを手に入れるため、ケロミ達よ、第一歩を踏み出せ!
第8回 ダイス式ダイエット(2)
ダイエットを決意した餅太りのケロミとダイス君。その矢先に、空の浮遊物体が落下するハプニングに巻き込まれる。しかし、それがダイエットの扉を開く鍵となるのであった……!がんばれ、太っちょ二人組!
第9回 ダイス式ダイエット(3)
美人山ダイエットセンターに入ったケロミとダイス君は、サッカーダイエットに励む。脅威の中2パワーで次々と難易度の高いダイエットメソッドを制覇。果たして二人は宇宙一美しいボデェを手に入れられるのか!?

皆の悲哀たっぷりの視線を受け、呆然とするダイス君は、助けを求めてケロミを見た。

「ダイス君、ここ、触ってみ」

ケロミは、自分の顔をトントンと指で叩いて示した。

ダイス君は、手で自分の顔を触ってみた。丸い……、丸い顔を……。

「えっ!ええっ!?」

ダイス君の頭部は、まだ丸いままだったのだ。体幹部は確かに目標以上の筋肉マッチョになった。だが、頭部はなでがたチャパンの強すぎる蹴りを受けて角が削られ、丸いままであったのだ。

「ま・ま・まるい……!」

ダイス君は、また泣きそうになった。まずい!黒い涙が流れてしまう!

「ダイス君!」

ケロミは焦ってダイス君のそばに駆けよろうとしたが、それを制止するように、美人山がダイス君の前にずずいっと進み出た。

美人山は、最高の笑みをたたえている。ビジネススマイルだろうか。美しい完璧なスマイルを向けられ、ダイス君の涙は引っ込んだ。そのダイス君の球体頭部に、美人山は一枚の紙をぐいっと近づけた。

「なかなか頭部だけ綺麗に痩せられないサイコロ族の君には、このオプションコースがお勧めよ」

その紙は、「特別オプション・サイコロ(頭部)コース受講申込書」であった。ダイス君は、

「は・はいります!」

と、注意事項も読まず、さっさとサインをしてしまった。

「サイコロ頭部コースは、10分で終わるわ。トレーニングではなく美顔コースなのよ」

美人山は、ウインクをした。ウインクからは、キラキラとした宝石のような小さな星が飛びだした。美人フェロモンの一種である。

「あうっ!」

「おぅっっっ……」

受講生達の口からもだえるような声があがった。皆、このフェロモンにヤラレて目がハート型になっている。中でも、強いフェロモンに耐性がない受講生は次々と卒倒していく。その続出する卒倒者達を、なでがたチャパンのメンバーが手慣れた様子で医務室に運び出している。

ダイス君も、間近でウインクを受け、赤い目がさらに大きくなっている。中2にとって、この美人フェロモンはカカオ80%のチョコドリンクを1.5リットル一気飲みするくらいの威力があるのだ。

ケロミが思わず、

「ダイス君、鼻血!まずい!」

と声をあげた。鼻血はダイス君の赤い1の目から流れる。黒い目から流れる黒い涙と同様、これも縁起がよくないので避けなければならんのだ。(よく考えると赤い目からでる赤い液体なので、鼻血ではないかもしれないです。目血?なんかヤですな (-.-;))

ダイス君は、ぐっと堪えるように両手を握りしめると、鼻血は赤い目に吸い取られるように戻っていった。その様子を見ていた美人山は美しく輝く白い歯を見せながら言った。

「君、いい子ね。では、早速、オプションコースに行くわよ」

そして、筋肉モリモリ球体頭部のダイス君を引き連れトレーニング場の脇にある「サイコロ施術室」の扉の奥へと消えていってしまった。

「大丈夫だろうか……?」

ケロミは何かを予感し不安を覚えた。ダイス君の入って行った「サイコロ施術室」のドアをしばらく見つめていたが、ふと、誰かが自分の方を向いているような気がした。ケロミが、視線を感じる方に目を向けると、そこには、ほっそりとしたカエル頭巾の驚いた顔の少女がこちらを向いて立っていた。

「……!」

そのほっそり少女は、鏡に映ったケロミであった。施術室の隣が、ガラス張りのレッスン室となっていて、中の壁は全面ガラス張りだったのだ。その鏡にケロミ自身が映っていたのである。

「WAO!ダイエット大成功!」

鏡の中のほっそり少女が自分だとケロミはすぐに気がついた。軽くなった体でカエルのように跳ねながら、レッスン室の鏡の前に向かった。スマートボデェになったことが嬉しくてたまらないのだ。そのボデェを鏡に映して美人山のようなモデルポーズをとったり、ウインクの練習をしたりして、ニヤニヤしていた。うっとりと自己愛に浸っている間に施術時間の10分が過ぎた。

「ガチャリ」

扉を開く音だ。隣の「サイコロ施術室」から美人山が現れた。その後ろにダイス君が隠れているようである。

「じゃん!」

ダイス君は、美人山の後ろからピョンと横に跳んで姿を現した。

「どう!?ケロミちゃん、こんなに角ばって、綺麗な立方体になったよ!」

ダイス君は、自分の顔をペタペタ触っている。久しぶりの角の触感を楽しんでいるようだ。

しかし、ケロミは、意気揚々としているダイス君と視線を合わすことはできなかった……。確かに、ダイス君は綺麗な六面体になっている。しかし……!

「なんか、美顔コースっていうのは、カンナで顔を削るもんなんだねぇ」

ケロミは、何も気づいていないダイス君の手をとって、無言でレッスン室の鏡の前に立たせた。

「こ・これは……!」

鏡に映る自分にダイス君は、固まってしまった。

頭部は確かに綺麗な六面体だ。……しかし、Mサイズサイコロではなく、小さなSサイズサイコロになってしまっているのだ!

「ダイス君、この申込書の注意書きに『8頭身モデル並の小顔化・頭部のサイズダウン必須』と書いてあるよ……」

このコースは、小顔を望むサイコロ族専用の顔面削りコースだった。ダイス君の憧れは、大きなLサイズサイコロ……、これでは、大きく膨らんだ球体のままの方がマシだったのかもしれない……。

「あうぅぅぅぅぅ……!」

ダイス君は、膝をついて悶絶した。よく落ち込むやっかいサイコロである。

「あらっ!」

と、そこに、またもや美人山がビジネススマイルでダイス君の前にすばやく立ちはだかった。そして、ダイス君の小顔につきつけたのは新たな申込書だ。

「知らなかったー。君、小顔が嫌だったのねー。だったら、『特別オプション・サイコロ(顔面筋肉増量)コース』というのがあるわよ。こちらも、中2割引が適用されるから安心して」

美人山が言うには、顔面を筋トレで筋肉増強すれば、きれいな六面体のままMサイズに戻れるらしい。しかし、このためには型取り用の立方体の鉄仮面を装着したままハードな訓練をしなければならないそうだ。

「僕、こうなったら入るよ!」

小顔ダイス君は、またもや軽々と申込書にサインをした。毒を食らわば皿まで、といったところだろうか。

「私は、目標体重のスマートボデェになったので、もう退会するよ」

ケロミはちょっとすまなそうに言った。

「うん、じゃあ、僕だけダイエット休暇を延長することになるね」

目標を諦めない姿勢を見て、ケロミは珍しくダイス君を見直した。

「んじゃ、ダイス君、頑張ってね!」

ケロミは、小顔マッチョのダイス君と固い握手をした。握手をした二人の手にも、硬い筋肉がついている。固い硬い握手であった。

「ケロミちゃん、ダイエット成功おめでとう」

美人山は、美しい声でケロミにお祝いの言葉をかけてくれた。

「これ、ダイエットコース受講修了書よ。がんばったわね」

美人山が手渡しのは、ピンク色の修了書だ。修了書からはほのかにローズの香りが漂っている。

「ありがとうございました!……いえ、ごっつぁんでした!」

ケロミは、美人山に一礼をし、ダイス君に目礼をした。そして、かっこよくモデルウォークで尻をプリプリ動かしながら一人ダイエットセンターを後にしたのであった。

一回だけ振り返った時に、トレーニング室の中で、立方体のゴツい鉄仮面をつけられたダイス君が見えた。

「がんばれ……ダイス君……」

ケロミは心の中でつぶやいた。

帰宅途中に、ケロミはすっかり忘れていた見習い君のことを思い出したので、ダイス君の家に寄ることにした。

「ごっつぁんです!」

「わぁ、成長したね!」

「ケロミ殿もすっかり、スマートになったでごわす」

ダイス君宅で、一日中餅を食べ続けた見習い君は、ケロミ3人分くらいに成長していた。さすがは相撲取り族、回復力・生命力はパネェもんだ。

「いろいろ、ごっつぁんでした!ダイス殿にもよろしくごっつあんです!」

健康そうなぷくぷく顔になった見習い君は、深々と頭を下げて、お礼を言った。そして、「また会うでごわす!」と言い残し、どすこいと四股を踏みながら相撲部屋へと帰っていった。

「濃い一日だったな」

ケロミは、見習い君の後ろ姿を見送りながらそう思うと、夕焼けでオレンジ色になった光の中、自分も家族が待つ家へと帰っていったのであった。

次の日、ダイス君はまだダイエット休暇中である。なので、珍しくケロミ一人での通学だ。

「今日は、10回の『転がし』がないから、楽でいいや」

と独りつぶやいた。体が軽くなり筋肉もついたので、徒歩通学も格段に楽な気がする。しかし、何かが足りない……。

ケロミは、無意識に大きい立方体の石を両手で持って転がしていた。なぜか安心する。この転がしを10回するとケロミの心はようやく落ち着いた。そして、昭和ヶ丘中学2年157組の教室にいつものように元気よく入っていくことができたのである。

こうして、ダイス君がMサイズのマッチョサイコロになって戻ってくるまでの数日間、ケロミは、毎日この大きな立方体の重い石を10回転がしながら登校した。ダイエット前から治らない筋肉痛の腕をさするケロミの脳裏には「友情の証」という言葉が浮かぶのであった。


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第10回、いかがでしたでしょうか?

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次回もどうぞお楽しみに!