第18回 メゾン・ド・アングラ(2)

(このお話は「メゾン・ド・アングラ(1)」の続きです)

煙突から登った煙を見て、ケロミは、アーケードの柱にはめ込まれている住所番号プレートを確認した。

「のぞみ通り2−25……。やはりここだ……」

That’s right! そう、ここは二人の目的地なのは間違いない。その目的地「メゾン・ド・アングラ」の敷地の一番奥にある煙突から出る煙は、おいでおいでをするように、ゆらゆらと曲線を描いて立ち登り続けている。

アーケードの下で、ケロミとダイス君はその様子を戸惑いながら見つめていた。

「……なんか、私たちを呼んでるみたい……」

「やべー!怖いな~。何かここ墓場みたいじゃんか」

そう言って尻込みをするダイス君だが、手にはしっかりスマポを握ったままだ。

「じゃ、スマポ届けるのやめる?ロック解除してもらえないし、イヌヨさんが残念がると思うけど、私はやめてもいーよ」

ケロミは、ダイス君の横顔を見た。どうやら痛いところを突いたようだ。

ダイス君は、手の中でスマポをくるくると器用に回し、逡巡しているようだった。最も目数が多い6の目を正面に向け、ポストと煙突が整然と突き刺さる奇怪な土地をじっと観察している。

「……行くよ。イヌヨさんと約束しちゃったし。よく見ると妙ちきりんな場所だけど、不穏な雰囲気はしないよ。僕の6の目は、第六感も働くからね」

ダイス君は、6の目をそのままケロミに向けた。そして、「さぁさぁケロミちゃんお先にどうぞ」と言いながら、ケロミの背後に回り、ケロミの背中をずずいと押した。

「なんだよ!ダイス君ずるい!」

押されるまま、メゾン・ド・アングラの敷地内へとケロミは一歩足を踏み入れた。

「僕のスマポ、ケロミちゃんにも使わせてあげるからさ。僕はケロミちゃんの背中を全力で守るよ!」

ダイス君のむちゃくちゃな言い分には腹が立ったが、確かに敷地内は不穏なオーラは感じないし、逆に足元から暖かいハートフルな家庭的な何か(例:夕食のカレーライスには、スープではなく味噌汁がついちゃう感じ)を感じるようであった。

「ダイス君の借りはこれで72回目だからな!100回目になったら、何でも言うこと聞いてもらうからねっ!」

「まぁまぁ、分かった、分かった~( ´∀`)」

ケロミは、背中を押す手を苦々しく感じながら、煙を発する奥の煙突を目指して進んだ。その途中、他の煙突の横にある郵便ポストを見ると、そのポストは表札も兼ねているようであった。

「-101号室、見水くね蔵・くね子……」

「-203号室、木暮グリ・グラ・グロ・グミ・グネ・グニ……、大家族だな」

部屋番号と氏名のようだ。

「ねぇ、ケロミちゃん。この部屋番号の前にある『-』ってなんだろう?」

ケロミの背後からダイス君が言った。

「もしや、マイナス……?」

「……僕も、そんな気がする……」

二人は、すぐに奥の白い煙を吐く煙突まで着いた。そこのポストにも、案の定、表札がある。そこには「-10001号室(管理室)、ドリル堀田」と書かれていた。

ケロミは、イヌヨさんからもらった紙に書かれた住所と名前を再確認した。

「ダイス君、お届け先は、ここだよ!」

ケロミの後ろからダイス君がぴょんと前に出てきた。

「ん?マイナス10001号室……!?なんか嫌な予感がするよ。てゆーか、嫌な予感しかしないよ!ケロミちゃん……!」

「うむ……」

ダイス君は、握りしめていたスマポをちらりと見た。スマポは、応答するように発動時の光を放ちながら、

『君の行く部屋は果てしなく遠い……』

と途中までポエムった。

二人は、顔を見合わせた。二人の心には、同じ文言が浮かんでいる。それは、昭和ヶ丘中学の校則のひとつ。二人は、どちらともなく、その校則を同時に口にした。

「昭和ヶ丘中学校則、第327条『遠い部屋にはとりあえず行ってみること』!」

ケロミとダイス君は、何とか言いつつ真面目な生徒。校則を思い出してしまった以上、二人は、それに従うっきゃないのでR。二人の顔つきは、模範生徒になるべく、キリッと引き締まった。

「ケロミちゃん、ここにインターフォンがついているよ!」

「押すべし、押すべし!」

と、ケロミは、校則を守るべく、ポストの横についたインターフォンをためらいなく押してみた。しかし、何も音は響いてこない。……が、しばらくすると、ポストと並んで立つ煙突に異変が起こり始めた。固い金属製だと思っていた煙突の一部が粘土のようにぐにゃりぐにゃりと曲がり始めたのだ!(;0△0)Ohhh!

「なんだ!煙突が変形している!」

二人は完全にビビマ(第12回参照)である。

トランスフォームしてこちらを向いているそれは、カメラのレンズのようであった。

「何!?何!?」

レンズは、二人をがっちりと捉えている。すると、煙突から白い煙とともに、落ち着いた男性の低い声が響いてきた。

「どなたですか?」

レンズからジーと音が出た。どうやらズームされたようだ。レンズは、ケロミ・ダイス君と順に向けられ、そして、ダイス君の手に持ったスマポをとらえ止まった。

「……こ、こんにちは。僕ら静田歯科医院で頼まれてスマポの忘れ物を届けにきたんです」

ダイス君は、レンズに向かって赤い目を向けて焦って喋った。

すると、

「そうですか。それは、大変申し訳ない。どうぞ、部屋にお入りください」

と煙突の白い煙は、男性の声とともにゆるゆると動いた。

「はい!」

二人は、声を揃えた。

「あ、そこの扉の下は階段になっております。階段で歩いて降りても構いませんが、滑り台など他の方法で降りても構いません。扉の中に操作パネルがありますので、そちらで選択して、お好きな方法でお越しください。ちなみに、こちらは、地下100階なので、歩くと100分かかりますのでご注意を……」

白い煙は、音声に合わせて生き物のように動いていたが、突然途切れ消えてしまった。声ももうしない。レンズも、元の煙突の一部へと戻っていき、元の静かなキテレツな佇まいの静かな土地となった。

「え?歩いて100分!?……1時間30分ってこと!?」

「うんにゃ、1時間40分だね、ダイス君。でも、『滑り台』でもいいって!?」

まだまだ子供の中2の二人は、顔を見合わせてして、ニタリと笑った。

「もちろん!滑り台!」

地面に備え付けられた観音開きの扉が自然と開いた。中には踊り場があり、その横は、永遠に続きそうな下へと続く螺旋階段となっていた。踊り場には、言っていた通り、操作パネルがあり、青い光を放っていた。

「この操作パネルのことだな……」

二人は、操作パネルを覗きこんだ。

画面には「-10001号室ドリル堀田」という見出しがある。小見出しは、「ご訪問方法」。その下に表示された選択肢は「1) 階段」「2) 滑り台、その他」の2択だ。ケロミは迷うことなく2)を押した。すると、次画面に切り替わり、滑り台のスピードなどを設定する画面に移った。

「ん?滑り台のスピードの選択肢は、『亀・兎』だって!?あと、別の『その他』って項目に『鶴』ってあるよ?」

「ケロミちゃん、亀も兎もなんかスピード感が分かるんだけど、『鶴』ってーのはなんだろうね!?」

「んじゃ、鶴にしてみっか」

ケロミは、ツルっと「鶴」をクリックした。

画面表示は、「ツルガセンタクサレマシタ。シバラクオマチクダサイ」となり、丹頂鶴がバサバサと羽を羽ばたかせるアニメに切り替わった。アニメが始まると同時に、二人を取り巻く壁や階段がゆるゆると変形し始めた。

「あ!また変形しているよっ!」

「おぉ!トランスフォーム!」

ケロミ達が立つ踊り場を残し、螺旋階段は深い深い垂直の縦穴に変形した。そして、次に穴の壁の一部が粘土のようにねじれて分離し、ある形状になった。そう、その姿は、紛れもなく鶴!鶴マシーンである!

「オノリクダサイ」

赤い頭をした鶴マシーンが、カパッと口を開け放って言った。見ると、すでに鶴マシーンの背中は、二人分のくぼみが出来ている。鶴マシーンは、ケロミとダイス君を翼で優しく抱くように持ち上げ、ほわりと背中の席へと着席させた。そして、鶴マシーンは、また口をカパっと広げた。

「シュッパツイタシマス」

そう言うと、ケーンと鳴きながら、猛スピードで、地下100階を落ちるように飛びながら下っていった。

「どひゃー!」

「すンげー!」

すぐに、鶴マシーンがふんわりと止まった。

「トウチャクイタシマシタ」

鶴マシーンは、ドアの前にふんわりと二人を下ろすと、「ケーン」と鳴き、溶けて壁の一部へと戻っていってしまった。見上げると、頭上の縦穴は、永遠に続く螺旋階段に戻っている。

「あれ?もう終わり!?」

「10秒くらいだったよね」

鶴マシーンの楽しさにシビレたケロミ達が、「爽快感、ぱねぇな」「オモッチーコースターとも違う楽しさ!」と興奮して喋っていたが、

「ハークショイ!」

というダイス君の盛大なくしゃみで、二人は、辺りがとても寒いことに気がついた。

「何か寒いね」

二人がブルブル震えだした時、「-10001号室」とプレートが付けられたドアがギギギと開いた。

「いらっしゃい」

中から現れたのは、優しそうな顔に貴族的ヒゲをたくわえた低音ボイスの男性だった。銀色に光る円錐型の頭部を持つ種族である。そう、ドリル族だ。よく磨かれた円錐形のドリル部分がキラリと銀色に光った。

「こんにちは、お忘れ物をお届けに参りました!僕、サイコロ族の西郷ダイスと言います。昭和ヶ丘中学2年157組の人気者の生徒です!」

ダイス君は、すくっと立ち上がり、バイト先で覚えたモデル立ちをしてキメながら軽く会釈をした。

ケロミも慌てて立ち、スカートをはたきながら自己紹介をした。

「同じく、2年157組の人間もどき族のシメさばケロ美です。シメさば屋の三女で、照れ屋です」

ドリル族の男性は、優しく微笑んだ。

「昭和中なら、私の後輩だな。私は、ドリル堀田。見ての通り、ドリル族です。まぁ、寒いから中に入って」

ケロミとダイス君は、促されるままドリル堀田の部屋へと入った。

部屋は、暖かく、広々としていた。飴色の木製の古い家具が居心地よく収まっている。天井まで続く大きな本棚には、ビッチリと古書が納められており、本棚に入りきらない本が、床に積み上げられている。本棚の横には、鉄製の大きな金庫があった。黒光りするそれは、いかにも古く重厚だ。そして、その隣にはレンガで出来た暖炉があり、中には暖かい炎がゆらめいていた。

「かっけー!」

「うわっ、暖炉だー!」

中2の二人は、地下100階にある部屋の意外な様相に息を飲んだ。

★★★メゾン・ド・アングラ (3) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第18回、いかがでしたでしょうか。

新登場の種族、「ドリル族」のドリル堀田登場!ドリル堀田さん、地下100階まで自分で掘ったんでしょうか?

そして、メゾン・ド・アングラの住所は「のぞみ通り2−25」
やはり、くどうのぞみさんが滞在・「アンラッキー・タンゴ」のマンガを執筆中のホテル暴風雨8315号室、「のぞみ通り2−26」と関係あるんでしょうか?

アンラッキー・タンゴが登場する、PHPスペシャルの連載マンガをふたたびお届けします

気になることが盛りだくさんですね。

「ポエムで悪いか」でポエムりつつ、次回もどうぞお楽しみに!

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