第20回 メゾン・ド・アングラ(4)

(このお話は「メゾン・ド・アングラ(1)」 、「メゾン・ド・アングラ(2)」「メゾン・ド・アングラ(3)」 の続きです)

開かれた金庫の中にドリル氏はスタスタと入っていった。

手前の壁のスイッチを押すと、金庫内に照明が一斉に灯り、どこからともなく暖かい空気が流れ出した。明るい光で鮮明になった金庫内は居室とは違い、近代的な書庫といった作りである。だが、廊下を境にして右側半分に整然と並んだ無数の書棚はやはりアンチークだ。そして、廊下の左側半分には、古い札束が山になって乱雑に積まれている。その書棚と札束の山は、ずっと奥まで続いていた。

明るくなった金庫に、ケロミとダイス君は臆することなく踏み入った。

「すごい奥が続いてる!」

「わ!どんどん暖かくなるね!」

一直線の道のような廊下は、やはりかなりの長さだったが、永久に続いているわけではなかった。(残念ながら、永久に続くものなどこの世にはない……(>_<)Oh!。つまりは、祇園精舎の鐘の音には、諸行無常の響きがあるっつーことです(・・)Oui!)

その廊下の突き当たりの壁だけはむき出しのゴツゴツした岩肌となっていて、見たところ掘削中の工事現場のようである。

ドリル氏は、ほほほ……と吐息のように笑い声をもらした。

「今のところ、奥行きは100mだよ。今後もこのまま横に掘削して延長していく予定だがね」

「やはりドリルさんが掘ったんですね?」

ケロミは、目を丸くした。(OoO)

「そうだよ。メゾン・ド・アングラ建設の掘削中に、この金庫が出てきたんだ。その金庫の中を広げていってこうなったというわけさ。掘削していると金庫は他にも沢山出てくるよ。そうそう、昔は、この深さの場所が地上だったらしい」

「昔ってどれくらい昔?」

ダイス君も、丸い目をさらに丸くした。(OoO)

「人間という種族がまだ絶滅せずに繁栄していたくらい昔だ」

ドリル氏は、そばにあった札束の山の上から一束を手に取った。

「ほら、このお札の絵の人々だよ」

お札に描かれた人物は、相撲取り族のような衣装をまとい、ナウな頭巾をかぶり、平たい板切れを持ったヒゲの男性。少しだけイケメン(※個人の好みによる)な人物だった。

「人間って、人間もどき族のこと?相撲取り族のこと?」

ダイス君はお札の絵の人物とケロミを交互に見比べながら尋ねた。

「いや、似ているがどちらとも違うね。人間もどき族のルーツは、人形だろう?ケロミちゃんは、おそらく日本人形系だろうね。相撲取り族のルーツは土俵の砂だし。絶滅種の人間とは、似て非なるものだね」

ドリル氏は答えながら、お札をパサリと山に戻した。

「そう言えば、私、聞いたことがあります……」

ケロミは、昔、父にそのような話を聞いたことをぼんやり思い出した。ドリル氏はうなずきながらダイス君に言った。

「『先入観は時に人を裏切る』だよ、ダイス君」

不思議がるダイス君をよそに、ドリル氏はケロミと顔を見合わせて、二人だけの秘密といったように少し口を尖らせて含み笑いをした。( ^^)pq(^^ )

「居室の方にも実はエアコンも完備しているのだよ。だが、暖炉というのは、アンチーク趣味のポエム好きの私にとって一番の癒しなんだ。炎をみつめていると新しい発明品のアイディアが浮かんでくることも多い。それに何と言っても、燃料が山ほどあるし……」

その時、ダイス君の手に握られたスマポが起動してポエムった。

「炎揺れ われを導き スマポ生む」

皆は、スマポのポエムに「おー!」と歓声をあげ、ひとしきりその詩を個々に味わった。そして、気分を変えるかのように、ドリル氏は両手の平を打ち、軽い音を2つ続けて鳴らした。(パフパフっとね)

「さぁ、君達、金庫の中を探索してきていいよ。その後ちょっとお手伝いをしてもらおう」

「やったー!」

ドリル氏の言葉を聞くと、ケロミとダイス君は、競うように長い廊下を走り出した。適度に滑らかな床は、走るケロミ達を前へ前へと加速して滑らせた。二人は、いつしかスケートのようにツルリツルリ・ツルリララと滑っている。

「よく滑るね、ケロミちゃん!」

「スケートごっこだ!」

ケロミは両手を広げてみた。

「ケーン!」

鶴のポーズだ。ダイス君も真似をして鶴のように両手を羽ばたかせた。

「ケーン!」

鶴ポーズになった二人は、なぜかスピードがあがったようだ。(※これはチャパン国では、「鶴の法則」と呼ばれます。中3の履修内容なので、二人は知らないのは仕方ありません。)

鶴のように舞い滑りながら二人は、突き当たりの掘削中の工事現場に着いた。

「トウチャクイタシマシタ」

ケロミとダイス君は、鶴マシーンの声真似をしながらブレーキをかけるようにストップthe廊下!滑りを止めた二人の目の前には、ゴツゴツした岩肌がギリギリに迫っていた。遠目から見た通りの武骨な工事現場である。

「ドリルさん、どうやって掘るんだろう?」

「頭のドリルを使うんじゃない?」

「案外、手でシャベル使ったりね」

「いやいや、ドリルさんって胸にスイッチがついているだろう?あれをONにすると、ドリルさんは巨大なユンボにトランスフォームするんだよ!」

「お!ダイス君読みが深いねぇ~!きっとそうだよ!ザッツライト!」

そんな事を喋りながら、冷たい岩肌をペタペタ触って満足した二人は、今度は、廊下の左右を調べながら、ゆっくり歩いて戻ることにした。

「ケロミちゃん、廊下のこっち側は、ずっと古いお札の山だね。それにしても雑に置かれているなぁ~」

「うん、反対側のこっちは、アンチークな書棚に沢山の古い本が綺麗に整頓して入ってる」

ダイス君は、書棚を見上げるケロミのそばにやってきた。

「読めない字だね」

ダイス君は、目の前の古い本のひとつ、金色の題字が刻印されたえんじ色の背を細い指先でそっと撫でた。

「読めないけど、読んでみたい」

「私達が大人になったら読めるかも」

二人は、気に入った本をそっと触れたり、中をペラペラとめくったりして楽しんだあと、金庫内の探検を終え、ドリル氏の元に戻ってきた。

書庫の整理をしていたらしきドリル氏は、戻ってきた二人に言った。

「満足したかな?では、ちょっとだけお手伝い。この燃料を運んでもらおう」

ドリルさんが指し示したのは、さきほどの絶滅種の人間が描かれた札束の山だった。

「これ、燃やしちゃうんですか?」

ダイス君が、札束のひとつを手に取った。

「そうだよ。だってこんなに沢山あるんだ。お札なんて書いてあることはどれも同じだろ?資料用の保管分は全種類別とってあるし、これらは完全に無用の長物だよ」

札束を見つめていたダイス君は、

「確かに……。チャパン国のお札は、同じ「円」だけど七色に光って綺麗なのに、これはこんなに地味だし、いらないかも」

と言った。ケロミも札束を手にとったが、紙というよりは、乾燥した灰色の塊となったそれは、見るからに不要物に思えた。

「地味な色といい、大きさといい、なんだかコンニャクみたい」

「そうだね、コンニャクに似てるね、ケロミちゃん。僕はおでんも味噌田楽も好きだけど、これは食べられないからいらないや」

ダイス君はそう言うと、札束を幾つか腕に抱えた。

ドリル氏は、すでに台車に札束を積んでいる。

「では、皆で運ぼう。素晴らしきかな労働!」

ドリル氏の発声とともに、隣の部屋の暖炉脇へとダイス君を引き連れ移動し始めた。ケロミも同じように札束を抱えて慌てて後を追ったが、金庫を出たところで転んでしまった。

「……っつ……!」

ケロミの抱えていた札束がケロミの腕の中からコロリコロコロと転がった。そして、それらは、偶然にも小さな面を下にして等間隔に整列するかのように並んだ。

「大丈夫かい!?ケロミちゃん?」

ドリル氏が急いで駆け寄り、心配そうに声をかけてくれた時、ケロミのカエル頭巾がピクリと動いた。そして、転んだことなど忘れて、軽やかにスクッと立ち上がった。やや得意げな様子である。

ケロミは、鼻息を荒くしながら、ドリル氏に言った。

「ドリルさん!この札束で超絶ロングなドミノを作ってもいいですか!?」


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第20回、いかがでしたでしょうか。

な、なんと、人間は絶滅していた!でもおでんは不滅のようで安心です。いえ、祇園精舎の鐘が伝えるように、おでんといえどもいつかは……

さて、おでん以下と認定された札束でのドミノの行方は?次回もどうぞお楽しみに!

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