第21回 メゾン・ド・アングラ(5)

(このお話は、メゾン・ド・アングラ(1) (2) (3) (4) の続きです)

ドリル氏は、少し驚いたが、すぐに返答した。

「もちろんいいよ」

「ケロミちゃん、ナイスアイディーア!」

ダイス君は、札束を両手に持ちながら、ぴょんと跳ねた。(※ちなみにスマポは、水平な頭の上に器用に乗せているYO!)

「しかし、後片付けはきちんとしてね」

ドリル氏がそう言うと、二人は、

「もちろんです!」

と答えるや否や、燃料用札束をテキパキ運び終えた。次はドミノ作りだ!

「金庫の廊下で作ってみようよ!」

ダイス君が提案した。

「いいね!」

ケロミは、グッと親指を立てた右手をダイス君に向けた。

「いざ!金庫へ!」

金庫に移動した二人は、古い札束をレンガのごとく扱い、慎重に等間隔に並べだした。長い長い廊下に。

20メートルほど並べたあたりから、ケロミもダイス君もそわそわしだした。

「……ねぇ、試しに、倒してみない?」

誘惑に勝てずにケロミが恐る恐る口にした。と、ダイス君はすぐさま返答。

「うん。実は僕も倒してみたくなっちゃってたよ」

イエー!満場一致の意見一致!

二人は、それぞれ両端のドミノを「せーの!」で指先でちょんと倒した。札束は両側から次々と倒れていく。なんとも言えない快感!パタパタと倒れたドミノは列のちょうど中央で「人」の字のようにして支えあって止まった。

「面白い!」

ダイス君とケロミは駆け寄って喜びのハイタッチをした。( ^_^)人(^_^ )

……だが、ケロミの表情は、少し物足りなげである。

「なんか、なんつーの?なんか足りへんねん……」

「へ?」

ダイス君は目を丸くしてキョトンとしている。(※もとから丸いのですがね。(O▽O)Hahaha)

「なんだろ……、そう、『たよーせい』が足りないんだ!」

ケロミは、なるへそと両手をポンと打ち鳴らした。

「たよーせい?」

ダイス君は首を傾げたが、頭上のスマポを落としそうになり慌てて首を水平に戻した。

様子を見守っていたドリル氏はにんまりとしている。

「まっすぐなだけじゃなく、橋多壽賀子の波乱万丈人生ドラマのようなドミノにしようよ!ドリルさん、金庫ではなく部屋の方でドミノを作ってもいいですか!?」

ドリル氏はにんまりとしたまま返答した。

「いいよ。でも、家具は傷つけないようにね」

「ありがとうございます!」

ケロミはお礼を言うと、ダイス君の方を向いた。

「家具類の間をぬってジグザグのドミノにしよう!」

ダイス君は、親指を立てた右手をケロミにグッと差し出した。

「いいね!やりがいがあるよ!」

すると、ドリル氏がほほほと声をたてて笑った。

「君達は楽しい遊びの発明家だね。どれ、私も参加しよう」

こうして、ドリル氏も参加し、居室でのドミノ作りが始まった。

ドミノ作りは順調に進み、次第に3人は札束ドミノ作りにドハマリしていった。

ケロミは、他の二人同様、次々と手際よくドミノを並べていたが、手にした次の札束の感触がおかしい……。見ると、それは小さく汚れた古書。札束に混ざっていたようだ。

「これは使えないやー」

ケロミは、その小さな古書を無意識に暖炉に投げ入れようとした。が、それを見ていたドリル氏が焦って飛んできてケロミを制止した。

「いかん!いかん!それはいかん!」

見ると、ドリル氏の頭部のドリルがぐるんぐるんと高速回転している。マジぱねぇ!(“@0@)

「す・すみません……」

驚いたケロミの手が古書を投げる寸前で止まると、ドリル氏の頭部ドリルの回転も止まった。

ドリル氏は真剣な表情のまま無言でケロミから小さな古書を受け取ると、おもむろにドリル氏の胸にあるスイッチをパチリと押した。

「やばい!スイッチがONだ!トランスフォームで巨大ユンボになってしまう!」

騒ぎに気付いたダイス君が呆然と立ちすくんでいる。ケロミも、驚愕の面持ちで目の前のドリル氏を凝視していると……!

なんと!スイッチONに反応して、ドリル氏の体に変化が起こった!ドリル氏の腹部の一部が四角く飛び出し、ポコンと小さな引き出しが現れたのだ!(・o・)アレ?

その飛び出した引き出しの中にドリル氏は小さな古書を大事そうに入れた。古書は、吸い込まれるように引き出しの中に消えていった。その後、ドリル氏がスイッチを再び押してOFFに切り替えると、引き出しはふうわりと閉じ、継ぎ目がわからない元のドリル氏のつるりとした腹へと戻っていった。秘密の体内引き出しである。結局、巨大ユンボへの変身はなく、意外に地味なトランスフォームに拍子抜けしたケロミはペタンと床に座り込んでしまった。

「あぁ、大きな声をあげてすまなかった」

中2の二人の異様な様子に気づき、元の優しい顔に戻ったドリル氏が、少し照れ臭そうに言った。

「ケロミちゃん、怖がらせて悪かった。古書を集めるのが私の趣味でね。これは、燃やすことはならんのだよ」

「そうだったんですか……すみません……。そう言えば、金庫内の半分って書棚ですよね?」

「あそこにあるものは、掘削中に集めた古書の化石を私が読めるように復元したものだよ。私の宝だ」

ケロミは、ドリル氏の宝を燃やそうとしたのか……と、カエル頭巾の目玉部分をしぼませて反省した。

「札束は、金庫内に大事に保管されていたのだがね。本は、無造作に打ち捨てられていた。人間というのは価値観の面白い動物だったんだね」

ドリル氏は、凹むケロミの頭巾を優しくポンポンと軽く叩いて、威勢をつけるように声を張った。

「さぁ、ドミノを並べよう!」

ケロミは、顔をあげてニコリと笑った。

「最高のドミノを作りましょう!」

そして、無駄なことに全エネルギーを使うことができる中2パワーと、ドリル氏の発明家ならではの集中ぶりで、札束ドミノは部屋中に並べられた。

ドリル氏の発案で、ドミノの最後部は暖炉前に置かれ、うまくドミノが連続して倒れたら最後の一束が暖炉に投入されるという仕掛けにした。

→ Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π 火

残るは、スタート部分になるドミノを部屋の入り口の前に並べるだけとなった。

「さぁ、あと少しだ!」

ケロミが気合いの掛け声をあげたと同時に、インターフォンが鳴ったようだった。ドリル氏は誰かと応答していたが、最後の仕上げに夢中になっている中2の二人の耳に入らなかった。

「これが最後のひとつ!」

ケロミが、部屋の入り口に最後の一束を置いた時、

「ワンワンワン!」

という鳴き声とガラガラという異音が響き、突然開いた部屋のドアから、何かが転がるように入ってきた。

「ぎょわっ!」

ケロミは、足元をふわふわした何かに押されてつんのめり、先ほど置いたスタートドミノに触れてしまった。Oh!はっぷにんぐ!Let’s ドミノスタート!−☆

「おぉ!どんどん倒れていくぞ!」

ダイス君が歓声をあげた。

部屋中に置かれた札束ドミノは、曲がりくねりながら美しく倒れていく。

「すごいよ!ケロミちゃん成功だ!」

ダイス君は興奮して、倒れたドミノの後を自らも転がって追いかけた。倒れた札束が顔に当たることも気にせずに。

「ワンワンワン!」

その後から、よちよちと追いかけるのは、シーズー族の3つ子の赤ちゃん達、そう静田さんの子供達だ。

ドミノは次々と倒れていき、最後の札束ドミノが、ぽーんと曲線を描き暖炉に投入され、暖炉の火はバチバチとひときわ明るい炎をあげた。

皆の拍手が部屋中に響いた。そんな中、ケロミの背後から女性の声がした。

「あらあら、ごめんなさいね」

ケロミが振り向くと、そこにはイヌヨさんがいた。

「あぁ!イヌヨさん!」

「ケロミさん、お釣り忘れたでしょ?あと、ケロミさんのお母さんから帰るの遅いからって電話があったから来てみたの」

ケロミが、アンチーク柱時計を見るとすでに6時になっていた。ヤバシっ!

「わぁ、お母さんに怒られる!」

「えっこんな時間!?」

ダイス君も焦って六面体の顔をぐるぐる回している。

「イヌヨちゃん、ごめん。私も楽しんでしまい、遅くなってしまった……」

ドリル氏が眉毛を下げてイヌヨさんに謝った。

「いつも冷静なドリルくんが珍しいわね。じゃあ、続きはまた今度。今日はもう片付けて、みんな帰りましょう。主人が直に迎えにくるわ」

イヌヨさんがそう言うと、ケロミ達は散乱した札束を金庫の中に大急ぎで戻した。

「早く帰らなきゃ!怒られる!」

一行は、鶴マシーンで地上へとあがると、外はすでに夜だった。

「よっ!堀田!超高性能やっとこ、さっきはありがとうな!」

地上では、静田さんが尻尾を振って待っていた。

「静田が喜んでくれてよかったよ」

ドリル氏は、はにかむように微笑んだ。

そこへ、3つ子にじゃれつかれながらケロミがやってきた。

「お!ケロミ君!」

静田さんは、ケロミを認めると、尻尾を高速に振り、3つ子のじゃれあいに加わった。ケロミの奪い合いのような様相だ。ケロミもまんざらではない。

「ドリルさん、ありがとうございましたー!」

じゃれつく静田さん達にもみくちゃにされながら、ケロミはやっとそれだけをドリル氏に言った。

「静田は相変わらずだな」

苦笑するドリル氏にダイス君が近づいてきた。

「ドリルさん、今日はありがとうございました。これ、返します」

ドリル氏にダイス君が差し出したものは例のスマポである。

「ダイス君、これは君にプレゼントするよ」

ダイス君は、嬉しそうに1の目を向けたが、すぐにうつむき加減になった。深く考えている様子だ。すると、決断したかのように顔を上げ背筋を伸ばして言った。

「スマポ、大好きだけど、中2の僕はずっと見ちゃうから持つのはやめときます。ケロミちゃんとのお喋りもしなくなちゃうし……。大人の中3になれた時に、持てたらいいけど……」

ダイス君の意外に言葉にドリル氏は少し驚いたが、こくりとうなずいた。

「そうだね。では、このスマポは、中3の進学祝いにあげよう。それまで私が預かっておくね」

「ありがとう!ドリルさん!」

ダイス君は、21個の目を輝かした。

「そのかわりにポエムが好きな君に別なものをプレゼントしよう」

ドリル氏は、胸のスイッチをONにした。開かれた腹部の引き出しの中から先程の小さな古書を取り出すと、それをダイス君の手の上に静かに置いた。

「昔のポエム集だ。チャパン語と同じ古代日本語で書かれている。これを読みたまえ。スマポのように便利ではないが、それ以上の何かをきっと得られるはずだよ」

「ありがとうございます!大切にします」

ダイス君は、スマポほどの大きさのその本を大切そうに両手に挟んだ。

その様子をそばで見ていたイヌヨさんがニコリと笑った。

「ドリル君は優しいわね」

ドリル氏の頬がほんのりと桜色に色づく。

「いや、私なんて全然優しくないよ。ただの鉄製だし……」

イヌヨさんは、心外といったようにおかしそうに笑い、言った。

「ドリル君は優しいわよ。銀色でかっこいいし」

イヌヨさんの微笑みは、学生時代と変わらず、今でも若々しくふんわりとしている。

「イヌヨちゃん……」

ドリル氏の頰はさらに色づいた。

ちょうどその時、静田さんの明るい声が響いた。

「よし、みんなであの満月に向かって、4足でかけっこだ!」

ケロミ達が呼応した。

「ワンワンワン!」

「私も!」

「僕も!」

静田さんと子供達と中2の二人は、4足になり、かけっこを始めた。

「こらっ!あなたっ!ちゃんと2足で歩きなさい!」

怒ったイヌヨさんは、ドリル氏にさよならも言うのも忘れ皆を追いかけた。……が、いつの間にかイヌヨさんも4足で走っている。

大きな月に浮かぶ7人のシルエット。それは徐々に小さくなっていく。

「イヌヨちゃん……」

一人残されたドリル氏は、その様子をじっと見つめていた。

そして、その時、ドリル氏の手の中のスマポが反応し、ポエムを流した。

「The moon is beautiful, forever…」

(メゾン・ド・アングラ/完)


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第21回、いかがでしたでしょうか。

ついにドリル堀田氏の胸のスイッチ・オン!!
全身是ロマンス・グレー、鋼鉄製のメタル紳士・ドリル堀田の魅力が詰め込まれた最終回でしたね。

ドリルさんがダイスくんにプレゼントしたポエム集はもしかしてこの本?

ホテル暴風雨0419号室・中本速さんの「ポエムで悪いか」、ただいま一時休載中ですがバックナンバーは読めるよ、ダイス君!

そして「超高性能やっとこ」も素晴らしいけど、0516号室にて、津川聡子さんが昭和ノスタル少女時代を描く漫画「やっとこ!サトコ」もよろしく、靜田さん!

さて、

→ Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π Π 火

お札が14束ののち、火。この斬新な記号表現は、また14日間待って火曜日が来ると、次回のケロミのお話が読めるということをも暗示しているのではないかと思います(※編集者妄想)

次回からはまた、新しいお話が始まります。どうぞお楽しみに!


本日より開催「修了装丁展」で浅羽容子さんの絵が観られます。こちらもどうぞよろしくお願いします。

装丁展のお知らせ
ホテル暴風雨4649号室「シメさばケロ美の小冒険」作者の浅羽容子さん出展 2017年9月19日〜9月24日 「実践装画塾 修了装丁展 のお知らせです

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