第22回 S.S とシメさば家の秘密(1)

「チョコレートパイ、おいしかったね」

「僕なんか48個も食べちゃったよ」

ケロミとダイス君は、静田宅からの帰り道である。イヌヨさんお手製のウナギエキス入りチョコレートパイをご馳走になってきたのだ。二人ともたらふく食べ、3つ子の赤ちゃん達とも遊び、満足仕切った様子だ。

「じゃあ、ケロミちゃんまた明日ね」

「うん、バイナラ~」

ダイス君の家との分かれ道で、二人は別れた。

「ふ~、満腹・満腹」

ぽくぽくと歩くケロミは、満たされてカエルのように膨らんだ腹を撫でた。腹は、楊枝で刺すと、ぷりっと破裂し、中からチョコレートパイがポンポン飛び出すかのごとき様相である。……てコレって、もしかして、超ド級にドヤバんじゃない……!?DEBU一歩手前のギリギリガールなんでは……!?

「まじーな、また、美人山ダイエットセンターのお世話になっちゃいそ」

焦る気持ちが沸き立つと同時に、脳内にダイエットセンター社長、相撲取り族の超絶美人である美人山の美しすぎるご尊顔がボンと浮かんだ。同性をも魅了するその美しいお顔、そしてしなやかな肢体……。ケロミの脳裏の美人山の顔が、美人山の全体像に切り替わった。その全体像には、例のアレもバッチリ腰に巻かれている。そう「アレ」とは「マワシ」である。そして、必然的に、ケロミの部屋のクローゼットに大切に仕舞われているアマンゾで買ったマイ・マワシをも思い出した。今、セレブの間ではマワシは必須オシャレアイテムなのだ。本来なら泥臭いアイテムのマワシをいかに美しくコーディネイトに取り入れるかがセレブリティであるか否かの分かれ目となる。だが、悲しいかな、中2のケロミにはこのコーディネイト術は高度過ぎた……。マワシをしめた姿は、まるで町内チビッコ相撲の補欠選手。とても残念な仕上がりだ。そんな理由で、まだマワシデビューができていない状態なのである。

「中3になったら、マワシデビューできるくらいビューティフォーになりたいな……」

ケロミは、そんなことをあれこれと考え、DEBU一歩手前であることも忘れ、ぽくぽく歩いていた。日差しも暖かく、満ち足りた腹を抱え、陽気な気分でいたケロミであったが、次第に何かが体に突き刺さるような微かな痛みのような感覚を覚えた。その痛みの原因は誰かの視線であるように思われる。しかし、この感覚は初めてではない。ここ数日、度々感じていたことだ。ダイス君と一緒にいるときにもこの視線攻撃があった。21個の目を持つダイス君は敏感にすぐにその視線を感じとっていて21個の目を駆使して周りを観察し「僕の熱烈ファンがいるみたい。モテるサイコロはつらいな」とほざいていたことをケロミは思い出した。

でも、今はケロミ一人である。しかも、視線は今まで以上に熱く、そして痛い。切実な思いを感じる。もしや、ダイス君ではなく、ケロミを愛するファンがいるのかもしれない。そして、切なく募る思いを抱えて、いやらしい目でケロミを見つめているのかも……!?ケロミは、自分の可愛さを恨んだ。そして、その熱烈ファンの視線光線で体温が0.1度上昇したのを感じ、カエル頭巾に緊張が走った……。その時、その緊張をさらに高めるようなことが起こってしまった……!(;◉0◉;)

「ケロミ、ケロミ」

どこかの物陰から呼ぶような小さな声が聞こえたのだ!ケロミは、付近を見回した。が、誰もいない。これはきっと空耳だ!私の可愛さは、野に咲くタンポポのごとく可憐で愛らしいもの、荒々しい狼の眼中に入らない儚げな清純派だから大丈夫だ!幻聴だ!と思い込み、足を早めた。すると……、

「ケロミ、ケロミ」

また、声が聞こえてしまった。(>_<)Oh! しかも、今度はしっかりと確実に聞いてしまったのだ。カエル頭巾が緊張のため、鈍い光を放ちだした。

声は後方からする。もし、振り返ったら……!?アウト!?セーフ!?ヨヨイノヨイ!で、超キモい!気持ち悪いンですぅー!(>△<;)No!

「ケロミ、ケロミ」

呼び掛ける声は大きくなった。近づいてきているようだ。ブホーと鼻息のような異音も聞こえる。しかも、なまぐせー!

「ケロミ、ケロミ」

恐怖で固まっていたケロミは、なまぐさ臭気にハッと我に返り、逃げ出そうとダッシュの姿勢をとった。しかーし、その行く手を遮るように、ザザリッと大きな物体がケロミの前にシュっと回り込み、現れた。

「ケロミ!」

目の前に現れたのは、青光りする銀色の鱗を持つ大きな魚……!もしかして鯖族……?しかし、チャパン国には鯖族がいないので、鯖族であるとも断定できない。初めてみる種族だ。しかし、どちらかといえば、ケロミやダイス君のような知的生命体のネオ種族というよりは、古来原種系のただの魚、ただの鯖に見える。それも巨大な。

その鯖のような不審者は、口をパクパクして、丸い瞳でケロミを見つめていた。エラ部分がピクピク動くし、寄生虫のアニサキスらしき白く長い虫がピロっとあちこちの鱗の間から出たり引っ込んだりして、吐き気を感じる。ラヴクラフト的不気味さだ。つーか、ハイパワーにキモい。こんなキモいのが私の熱烈ファンなのかー、あははー( ̄▽ ̄;)、とケロミは恐怖の気持ちの中に、とてつもなくガッカリな思いがふっと浮かんだ。

「ど・ど・どなたですか?」

ケロミは、自分の罪な可愛さが原因で、変態に誘拐されてしまうのかも……と身構えた。カエル拳のファイティングポーズである。

「僕だよ、僕だよ」

鯖っぽい不審者は、パクパクと口を動かした。

「はて、知りませんよお。さよおならぁ~」

ケロミは、ファイティングポーズのまま、その不審者から離れるようにジリジリと後ずさった。

「僕だよ!鯖彦だよ!」

不審者は、ケロミにすがるように胸ビレを手のように伸ばしながら、ケロミに近づいた。

「……!?」

そう言えば、シメさば家の長男、失踪中の鯖彦兄さんの声に似ている。激似である。……が、目の前にいる不審者は明らかに兄さんではない。兄さんはケロミと同じ「ヒトモドキ族」、こんな鯖野郎とは程遠い。そう、そこそこかっこいいのだ。(※クラスの男子が22人だったら、14番目くらいにかっこいい)

「……兄さんじゃない……!」

ケロミは、構えた両手をグッと顎の高さに持ち上げた。カエル頭巾に力がみなぎった。

不審者は口をパクパクして、エラをパタパタ動かした。どうやら困っているようであるが、魚顔は表情がないのでよく分からない。が、すぐに、「あ・そーだ」と言い、持っていた袋の中からゴソゴソと何かを取り出した。

「ほら、これが証拠だよ!」

「……!」

不審者が取り出した物は、ブルーグレーの頭巾。鯖彦兄さんの鯖型頭巾だった!

「……兄さん……!」

ケロミの目が潤んだ。

「認めてくれたんだね、ケロミ!」

安堵した不審者が、両ヒレを広げ、一歩ケロミに近付いた時、

「てめー!兄さんを食べやがって!」

と怒り心頭のケロミが、カエルパンチをバシュっと繰り出した。そのパンチは、不審者の銀色の撫で肩の一部にビシリと当たった。

「痛い!」

不審者はよろけた。

「このド変態のサバ野郎!兄さんをパクリと丸のみしたな!それで、兄さんの声を盗んだんだろう!ケロミ様には全てお見通しだ!お前なんてシメさばにしてやる!調理してやる!」

ケロミは、あふれる涙と言葉で身体中の血が燃えたぎった。

「ま、待ってくれ……!」

興奮状態のケロミが、2発目のパンチを繰り出そうとしたところ、抵抗する不審者が胸ビレで顔を隠した。その時、左の胸ビレの付け根が見えた。その部分のウロコに、何やら見慣れた形のアザがある。ケロミは涙で潤む目を細め、ピントを合わせてそれを見た。それは、S字に並んだ魚型の7つのホクロ。紛れもない……、鯖彦兄さんと全くおなじホクロだ!

「……あ!」

ケロミのパンチが、不審者の顔面の数ミリ手前で止まった。

「もしかして……兄さん?本当に鯖彦兄さん?」

「そ、そうだよ!本当に鯖彦だよ!」

不審者は、表情のない丸い目でケロミを見た。

しかし、ケロミは、至近距離で見るその丸い目の奥に、親族だけには通じる絆があるのを感じとった。これは、本当に鯖彦兄さんだ!「シメさば鯖彦」、イニシャルS.Sである!

不審者……否、鯖彦兄さんは、安心したように、口から魚臭いため息をもらした。

「そうだよ、ケロミ。兄さんだ。好きな食べ物はシメさば、嫌いな食べ物はコハダだよ。生年月日は、3971年16月44日だ」

おビンゴ、ご名答、777大フィーバー!

そう、不審者の鯖野郎はまさに鯖彦兄さんなのでした。

「兄さん……、一体今までどこに……!?」

鯖彦兄さんはシメさば工場の跡取りの20歳。まだ大学生であるが、天才的なシメさば職人でもあり、本人も家業が天職だと思っている。

しかし、鯖彦兄さんは半年前、理由も告げずに突然失踪してしまったのだ。なぜに……!?

ケロミの目の前にいる鯖になった鯖彦兄さんは、パクパクとエラ呼吸をし息を整えた。

「良かった。分かってくれて」

「兄さん……」

鯖彦兄さんは、魚臭い息を吐き散らしながら、静かに話し出した。

「色々あってさ。家に帰りたいんだけど、この姿だろ?ネ子とウサ子は気が強くて怖いし、鷹蜜は、泣き虫で頼りないし、消去法で、まずはケロミに接触しようと思ったんだ。ケロミはただの中2だけど、致し方ない……」

そこまで話すと兄の腹が「さばーん」と鳴った。(まさに兄の腹音だ!)空腹らしい。腹に胸ビレを当てて、

「じゃ・詳しくは、ここで」

というと、すぐ横にあったカフェ、

「純餅喫茶★どくきのこ」

に、兄は尾びれをクネクネと器用に動かしながら、ケロミの同意も待たずに、さっさと先に中へと入っていってしまった。

★★S.Sとシメさば家の秘密 (2) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第22回、いかがでしたでしょうか?

大量のチョコレート・パイをご馳走になったケロミとダイス君。羨ましいですね。

ホテル暴風雨2357号室・松沢タカコ作「漂着した大量のチョコレート・パイ」は、(現在休載中ですが)バックナンバー全49話無料公開中ですよ(ダイス君が食べたより1個多いヨ!)

そして「純餅喫茶★どくきのこ」の看板に見えるのは、もしや、ホテル暴風雨スタッフルーム・斎藤雨梟作マンガ&絵とお話「ホテル暴風雨の日々」(こちらも全話無料読み放題)でおなじみ、うっかりベルボーイの「メギくん」では? いったい何をしているのでしょう。内緒のアルバイト!?

さて、このへんでひとつ、ケロミワールドの復習です。
S.S がちらりと初登場したのはこの回でした。

第6回 魅惑の餅園(3)
オモッチーランドにある「秘湯もちの湯」にのんびり入浴中のケロミ姉弟。そこに突如現れたのは馴染みのある形状だった……!魅力満載のランドを思いっきり楽しむケロミ達が、貴方の餅心をくすぐります。

こちらの回では、ダイス君もS.S のことをよく知る様子で、気になっていた方も多いことでしょう。

第9回 ダイス式ダイエット(3)
美人山ダイエットセンターに入ったケロミとダイス君は、サッカーダイエットに励む。脅威の中2パワーで次々と難易度の高いダイエットメソッドを制覇。果たして二人は宇宙一美しいボデェを手に入れられるのか!?

そんなこんなの後、満を持して登場した「鯖彦兄さん」ですが、ケロミの兄ならばヒトモドキ族、人の姿をしていると思われるのに、いったい何があってなまぐさ不審者のド変態鯖野郎……いや失礼、古来原種系の巨大鯖に!? シメさば家に隠された秘密とは? 次回をどうぞお楽しみに。

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