第24回 S.Sとシメさば家の秘密 (3)

このお話は、S.Sとシメさば家の秘密 (1)(2) の続きです。

「純餅喫茶★どくきのこ」の入り口のドアを開けて入ってきた人物は、3人だった。

「あ……

食べかけの毒きのこ餠ピザを手から落とした鯖彦兄さんは、そのまま硬直して声もでない。代わりに言葉を発したのはケロミであった。

「お父さん!お母さん!……あと、鷹蜜も!」

入ってきた人物はケロミ兄弟の父・母、そして弟の鷹蜜だった。

急いで来たのであろうか、父、鰹彦(かつひこ)は、鰹型頭巾と調理用白衣のままである。

父の横には、母、サニ江が、太陽頭巾をメラメラと揺らしながら立っている。そして、母の後ろから鷹蜜が半べその顔を覗かせている。

父母は、店に入るとまずは頭巾を取った。父はサラサラロングヘア、母はふわふわアフロヘア、二人ともご自慢のヘアだ。

父はロングヘアを耳にかけた。いつも父が緊張している時にする仕草だ。

…………

鯖彦兄さんはヨダレを引っ込め、口をパクパクと動かした。エラ呼吸も激しい。

鷹蜜が母の後ろから鯖彦兄さんを指差した。

「あいつだよ!ケロねぇを食べようとしてた!」

「ち・ちがうよ……!」

鯖彦兄さんは、胸ビレを顔の前で左右に振りながら、必死に否定するような素ぶりをした。

……うむ……

父は表情を変えずに、一歩二歩と鯖彦兄さんにゆっくりと近づいてゆく。

……お父さん、待って!」

ケロミは、咄嗟に席を立ち、鯖彦兄さんの前に立ち、両手を広げ鯖彦兄さんをかばった。

……うむ……

しかし、父は、歩みを止めない。母も父と同時に前にずんずんと進んでくる。威圧感ぱねぇ。(※ぱねぇ=半端ない)

小刻みに震える鯖彦兄さんの前のケロミを、父は片手で、静かに、しかし力強く、脇に追いやった。ただの中二であるケロミは簡単にどかされてしまった。

……うむ……

鯖彦の前に大きく立ちはだかった父、鰹彦。緊張感が純餅喫茶★どくきのこ店内に満ちた。

父は横にいる母に右手を差し出した。母は、バッグから何やら取り出しそうとしている。これは、きっとシメさば調理用の包丁が出てくるはず……!ケロミも鯖彦兄さんも誰もがそう思った。ケロミは叫んだ。

「その鯖は鯖彦兄さんだよ!脇の魚型のほくろを見……おわっ……!」

ケロミの叫びは、父の左手で口をふさがれ途切れた。ケロミは手足をバタつかせ、必死に父の大鯖調理開始を阻止しようするが、シメさば業で鍛えられた父の左手はケロミの抵抗を意にも介さない。

……うむ……

父は右手を母にもう一度ぐっと差し出した。

すると、母は俊敏に父に何かを渡し、自分もそれを手にし、素早い動きで鯖彦兄さんにそれを向けた!全ては一瞬の内に行われてしまった……

「ぱぱぱぱーん!」

「ぱぱぱはーん!」

2度の破裂音が鳴り響く店内……

包丁ではなくて、拳銃だったとは!(なんて、ハードでボイルドなファミリーなんでしょう\(*0*))

ケロミは力が抜けてその場にへたりこんだ。…………?でも、何かおかしい……。顔に当たるのは血しぶきではない!これは紙吹雪やリボンだ!

「ハッピーバースデー!鯖彦」

満面の笑みで父母が殻になったクラッカーを手にしていた。(=´∀`)∀`=)

「へ……

気絶寸前で震えていた鯖彦兄さんが顔を上げると、目の前には、ニコニコと笑う父と母の姿。

「おめでとう!鯖彦。20歳だな」

父は、嬉しそうに鯖彦の頭を撫でた。アニサキスが飛び出ているのも構わずに。

「おめでとう!あと、3分であなたが生まれた時間よ」

母も嬉しそうだ。

「どゆこと?」

鯖彦兄さんは、訳が分からずキョトンとしている。

「ちゃんと変態したな」

「本当に良い変態だわ」

父母は、温かい目で鯖彦を見ながら言った。

「鯖彦兄さんは変態じゃない!変わり者なだけだ!」

反論するケロミに、父は笑いながら説明をした。

「はは、変態というのは、変質者のことではないよ。シメさば家では、20歳になる半年前から20歳の誕生日まで、体が別のものに変化するのだ。それが『変態』だ」

「別のもの……?

父は話を続けた。

「シメさば家の人間が、大人になるためには、必要なことなんだよ。私も20歳に変態した。私は、鰹に変態したのだがね」

「鯖彦は、鯖に変態したのね。さすがだわ……

母も、愛おしそうに鯖彦の頭を撫でた。

「え…………!?

事態が飲み込めない鯖彦のエラ呼吸は激しいままである。

「あっと……、もう30秒前ね。あぁ、いけない、急いでいて鯖彦の服忘れちゃった。ケロミ、鯖彦の頭巾はどこかしら?」

ケロミは、袋から鯖彦兄さんの頭巾を取り出した。

「それ、あとで必要になるから持っておいて。あ・あと10秒」

知らないうちに、純餅喫茶★どくきのこにいた美人マスター・天使ウェイター・目白族の青年・変装の客が、周りに集まっていた。父は、椅子の上に乗り、そのギャラリー達に向かい扇動するように、両手を広げ、上に向けた手のひらをパタパタと動かした。

「はいっ!皆さん、ご一緒に、カウントダウン開始~!」

ギャラリーもケロミも鷹蜜も、皆、父の気迫に巻き込まれるようにカウントダウンを始めた。母は、時計を見ながら指揮をするように手を動かしている。

10

9

8

鯖彦兄さんは、とても気持ち悪そうな様子でフラフラと立ち上がった。

7

6

5

鯖彦兄さんは、全身ガタガタと震えだし、両ヒレで腹部を押さえた。

4

3

鯖彦兄さんの震える喉元が一段と大きく波だった。

2

鯖彦兄さんの体全体がドクドクと下から上へと大きく何度もうねった。

1

そして……

0!」

という皆の声と同時に、鯖彦兄さんに変化が起こった!

鯖彦兄さんは、「おえっっっっっーーーー!」と魚口を大きく開き、嘔吐した。魚眼は半分飛び出し焦点があっていない。魚口は大きく歪んで伸びきり、その中から大きな物体がデロリと粘液にまみれ出た!(おぎゃーって感じでね(・@・))

「鯖彦兄さん!」

現れたのは、鯖彦兄さんだ!もちろん鯖ではなく、元の人間もどき族の姿である。無精髭は多少伸びているものの、以前と大して変わりはない。(※正確に言うと、かっこよさはクラスの男子18番目くらいに降格。)ぬるぬるで全裸の鯖彦兄さんは、頭巾を被っていない。ケロミは、頭巾を被らない兄さんを見るのは初めてであった。呆然としているケロミに母が「鯖彦に頭巾を渡して」と言われ、頭巾を渡した。

鯖彦兄さんが頭巾を被ろうとしているのを父が制した。

20歳になったら、頭巾は被らなくてよろしい」

父に続いて母が言った。

「今は、頭巾はマワシとして使いなさい。大人の全裸はただの変態です。ケロミ、マワシの締め方を兄さんに教えてあげて」

「あ・うん……

ケロミは、仕方なく、鯖彦兄さんに頭巾をマワシがわりにして、締め方を教えた。「お父さん、僕、てっきりシメさばを1切れ残したから、こんな姿になったのかと思ったんだけど……?」

マワシを締めながら、生まれたてほやほやの鯖彦兄さんは父に尋ねた。父は、真剣な面持ちで答えた。

「違うよ。それは偶然だな。おそらく、変化は食事の最中で起こったんじゃないか?食べきるつもりでいたのなら、残した訳ではない」

父は続けた。

「しかし、鯖彦は鯖になったから、シメさばになる鯖の気持ちがよく分かっただろう。食べ物は何でも残してはいかん。食材に対する感謝の気持ちは、一番大切なのだ。命を頂くのだからな」

「お父さん、本当によく分かったよ……。僕、大人になれた気がする……

「そうだろう。お父さんも鰹になった時は、鰹の気持ちがよく分かった。それに猫族にはモテたな……

頰を染め目尻を下げた父の脇腹に、母がすかさずサニ江チョップを繰り出した。

「うっ」

父が脇腹を押さえ、母がニヤリと不敵な微笑みをたたえているところに、事態を飲み込んだ鷹蜜が割り込んできた。そして、床に転がった脱皮した巨大鯖の皮に近寄り、興味津々で触り始めた。

「鯖にぃ、これちょうだい」

鷹蜜は、鯖彦兄さんにねだると、

「それは持って帰らなきゃだわね」

と母が代わりに答え、続けて父が言った。

「じゃあ、家に帰って、成人祝いだ!」

「僕、シメさば餅作るよ!」

鯖彦兄さんは、やっと帰宅できる喜びで明るい声を出した。大団円といった風情である。

そこに、ずっと様子を見ていた美人マスターが父に、つっと近寄ってきた。

「あの……、お代はこれです。あと、ここの片付けを……

「うっ!……ううむ……。片付けはしていくが……

伝票を見た父は、美人マスターに、耳打ちをして何かを告げると、美人マスターは、

「分かりました」

と了解してニコリと笑った。(@0@)ドユコト???

「では、片付けてから帰りましょう」

母は、バッグからシメさば用濃縮酢液を取り出した。めったに使用しない高濃度のハイパワーのものである。

これを脱皮した皮とその周辺に振りかけた。すると、ジュワワと音を立てながら、アニサキスや粘液などの不要物は蒸発して綺麗さっぱりなくなった。残ったのは、美しい鱗の鯖彦の脱皮した皮だけだ。母は、続けて、コップを2つ取り出した。

「次は、ケロミと鷹蜜の番よ」

母、ニヤリと不敵な笑みだ。コップにシメさば用濃縮酢液をいれると、ケロミと鷹蜜に差し出した。

「飲みなさい。20歳で変態することは、未成年の子供には伝えないことが決まりなのよ。これを飲めば、忘れるから」

コップを受け取り、躊躇しているケロミと鷹蜜だったが、

「飲め!」

と父の怒声によって、一気飲みをした。(> <)Suppa!

おえっとなりながら飲み干した二人は、目を何度か瞬かせると、すぐに効果が出たようだった。

「あ・鯖にぃだ!」

鷹蜜が鯖彦兄さんに駆け寄り抱きついた。

「あれ、鯖彦兄さん、戻ってきている!でも、なんでそんなカッコしているの……?頭巾もしていないし……?」

ケロミの脳からも鯖彦兄さん変態の記憶はすっかりと消去されていた。恐るべし……、シメさば用濃縮酢液ハイパワー!!(※素人の使用は危険です)

「うん……ただいま……!」

鯖彦兄さんは、恥ずかしそうに頭巾をかぶっていない頭を掻いた後、胸を張ってこう言った。

「ケロミ、鷹蜜!僕、20歳になったよ!」

こうして、鯖彦兄さんは、無事に成人し、帰宅することができた。

余談であるが、シメさば屋には、展示室が併設されている。そこには、なぜか、あらゆる種類の動物の剥製が展示してある。どれも人間もどき族くらいの大きさだ。その展示室に、ケロミが知らない間に、新たに鯖の剥製が加えられていた。鰹の剥製の隣だ。その巨大鯖の剥製が、誇らしげに飾られているのを見ると、なぜだか、ケロミは、胸騒ぎと期待とが入り混じった複雑な気持ちが体の奥から沸き立ってくるのを感じた。その理由を知ることができるのは、ケロミが20歳になっる時。それまでは、おあずけである。皆さんも、ケロミや鷹蜜に会ったとしても、くれぐれもこの秘密は言わないように注意していただきたい。何卒どうぞよろしく。m(_ _)m

★★★おわり★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第24回、いかがでしたでしょうか。

まさか鯖彦の成人儀礼が本物の変態だったとは!死と再生を思わせる感動的なシーンでしたね。変態!しかも鯖!!

初登場の父・鰹彦はかつて鰹に変態したとのこと。「鯖彦は鯖に変態したのね」と目を細めていた母・サニ江でしたが、ここまできて鯖じゃなくブラックバスだとかメダカだとか糸ミミズだとかに変態する可能性もあったのか、非常に気になるところです。

そしていつかカエルに変態するのか、ただの中二、ケロミ。マワシの締め方を兄に教える妹、なかなかいないですよね。

それにしてもシメさば家のこの秘密には、居合わせた天使族のウェイターも、マスター・モチ代シムシムさんメギくんもびっくりしたことでしょう。言ってはいけないと言われると言いたくなってしまうこのすごい秘密、皆さんもケロミや鷹蜜には絶対内緒ですよ!

次回からは新しいお話が始まります。どうぞお楽しみに。
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