第25回 修学旅行は暴風雨 (1)

<この投稿は暴風雨サロン参加企画です。ホテル暴風雨の他のお部屋でも「ホテル文学を語る」 に関する投稿が随時アップされていきます。サロン特設ページへ>


よく晴れた朝の登校時、ケロミは、ダイス君を両手で勢いよく転がした。本日10回目、ラストの転がしである。

「いいね~ケロミちゃ~ん!」

ダイス君は一直線に転がってゆく。(ちなみに、ダイス君の六面体の頭部と体幹部は、接触していない。磁力のようなもので繋がっているのだ。よって、6つの面の全てがくるくるとスムーズに回転できるのでR!なるへそ!°)

「前から思ってたんだけどさ……

ケロミは前方で回転を止めたダイス君に近づきながら言った。膨れっ面である。

「なんで私だけ『友情の証』として毎朝ダイス君を10回転がさなきゃならんのよ?」

ダイス君はムクリと起き上がった。

「まーまー、ケロミちゃん、固いこと言わない言わない」

ケロミは、プンとした態度のままだ。

「ダイス君の借りは99回に加算しておくよ!猶予はあと1回!100回になったら、何でも言うこと聞いてもらうからな!」

「わーた、わーた!」

ケロミは口を尖らせている。さすがにばつが悪いダイス君は、並んで歩きながら別の話題をふった。

「そうそう、鯖彦兄さん戻って来たんだって?」

その話をしたかったケロミは、怒っていたことも忘れて食いついてきた。

「そうなんだよ!兄さん、帰ってきたんだぁ。でも、なぜか頭巾なしの全裸にマワシ姿だったよ。しかも、お父さんから『純餅喫茶★どくきのこ』ですぐにバイトするように言われてた。食い逃げしそうになったとかどうとか……

「へー、何か謎めいてるね。鯖彦兄さんはバイト嫌がってないの?」

「それが、初日は渋々だったのが、今は喜んでてルンルンだよ」

「それはまた怪しいね」

「美人マスターのもち代さんのせいだよ。最近の兄さんはもち代さんの話ばかりでさ、頭巾なしで髪型までカッコつけだしてるんだ」

そんな話をしているうちに、ケロミ達は昭和ヶ丘中学に着き、2157組の教室へと入って行った。

今日の最後の時間割は、ホームルームだった。議題は「修学旅行について」である。

担任のツヤツヤ顔の発光米(はっこうまい)先生が教壇でクラスメイトを見回し言った。

「皆さんにお知らせがあります。2学年は157クラスありますね。例年通り、修学旅行は京兎(きょうと)に行く予定でしたが、京兎の宿泊施設が156クラス分で満員となってしまい、あぶれてしまった157組だけが別行動となってしまいました」

クラスからどよめきが起こった。発光米先生はざわつく生徒に続けて言った。

「でも、1クラスだけになってしまった代わりに、行き先も宿泊先もクラスで決めていいことになりました。好きなところ、どこでもいいのです」

皆から歓声が上がった。はんなり京兎もいいが、若い中2には、定番の場所より小さな冒険できる好きな場所の方が嬉しいのは当たり前だ。

「先生!ホテル暴風雨がいい!」

ケロミが勢いづいて発言した。すると、

「私も暴風雨に行きたい!」

「僕も暴風雨に一票」

と次々にホテル暴風雨に票が入り、早くもクラス全員一致でホテル暴風雨に決まってしまった。

……そう、トレンディでナウい読者の皆さんならもちろんご存知のことだとは思うが、「ホテル暴風雨」とは、どんな天候でも楽しめる最上級のホテルだ。安らぎと楽しさを無限大に提供する夢のような場所。しかし、ひとつだけ困ったことがあるのです……

「あの伝説的人気のホテルね……。でも、ホテル暴風雨は動く島だから、住所不定でしょう?連絡方法も分からないし……

発光米先生は美しいお米型の顔を思案げに傾けた。そう、ホテル暴風雨は、漂泊のホテル。住所はない。

……あ」

ケロミは思い出すと、手をあげると同時に発言した。

「私の親戚がホテル暴風雨の長期滞在者なんです!」

ケロミは、ずっと鞄にいれたままになっていたハガキを出した。差出人は「浅羽容子」。きのこ族のような人物が巨大豆のサヤでできたハンモックに寝そべり、こちらに手を上げている絵が白い花びらのような形のハガキに描かれている。いわゆる絵手紙である。

「シメさばさんのご親戚なの……?きのこ族みたいだけど……

「違います。人間もどき族で本名は「シメさば よん子」といいます。「浅羽容子」はペンネームです。よん子ちゃんは文も書く絵描きです。私の名付け親でもあります。あと、何の事か分かりませんが、よん子ちゃんのことを父母が「脱皮できない」とか「脱皮したくない」とか話しているのをこっそり聞いしまったことがあります」

「脱皮?不思議ね……。そのよん子さんが何か情報をくれるといいのだけど」

発光米先生がそう言った時、終業のベルがなり、続きは次回ということになった。

帰り道、ダイス君に例のハガキを見せた。

「差出住所が書いてないね」

「うん……、住所不定だから、よん子ちゃんには、こっちから手紙が出せないんだ。数年に一回ふらりと帰ってきた時会うだけだし」

ケロミは、葉書に描かれたよん子のきのこフェイスを見つめため息をついた。

「あれ?ケロミ!ダイス君久しぶり~!」

そこへちょうど大学の授業を終え、「純餅喫茶★どくきのこ」へバイトに行く、浮かれ気分の鯖彦兄さんが通りがかった。

「鯖にぃ!お久しぶり!戻って来てくれて嬉しいよ」

ダイス君は赤い1の目を鯖彦兄さんに向けた。

鯖彦兄さんは鯖型リーゼントにした髪をわざとらしくなでつけた。

「ダイス君、久方ぶりだね。ぼかぁ20歳になったのだよ。そして、ぼかぁ今からバイトなのだよ。青春なのだよ」

青春中の鯖彦兄さんは、パンタロンの上から純白のマワシを絞めている。セレブなオシャレアイテムを取り入れているつもりらしいが、極めてスットコドッコイな仕上がりだ。「青春」というものは、中2病の症状に酷似しているのであろう。しかし、そんな鯖彦兄さんの格好を眩しそうにダイス君は見つめながら言った。

「バイト先って『どくきのこ』でしょ?僕もあそこの毒きのこ餅は大好きさ!」

ダイス君の言葉に、知ったかぶりの態度で鯖彦兄さんはふふんと笑った。

「ダイス君は知ってるかな?毒きのこ餅の毒きのこの産地は『ホテル暴風雨』なんだぜっ」

「えっ!(⦿◇⦿)

「えっ!(⦿◇⦿)

鯖彦兄さんの口から「ホテル暴風雨」の名が出て、ケロミとダイス君はびっくら驚いた。なんて素敵にタイムリー!ー★

「兄さん、今、『暴風雨』って言った!?

鯖彦兄さんはさらに得意げになった。

「ケロミも知っていると思うけど、僕が戻って来た日に店に目白族の青年がいたでしょ?あの人、暴風雨のベルボーイなんだって。変装の客も暴風雨の元シェフみたい」

「兄さん!その人達と連絡とれない!?

ケロミは前のめりになった。

「次のきのこの納品は1ヶ月後だから、その時だったら大丈夫かなー」

1ヶ月後……。ケロミ達の修学旅行は、2週間後である。(早っ-3)

「ケロミちゃん、修学旅行の日を過ぎてるよ……

ダイス君が残念そうに呟いた。

「もち代さんも自分から連絡とれなそうだしなぁ。あ、でもこれもらったよ」

鯖彦兄さんは、一枚の緑色の紙をバッグ代わりのスーパーの袋から取り出した。A4サイズらしきそれは、綺麗に三つ折りにされている。

ケロミは、その紙を鯖彦兄さんの手から引ったくった。

『ホテル暴風雨』

それは、ホテル暴風雨のパンフレットだった。

「わぉっ!ホテル暴風雨のパンフレットだ!」

ダイス君が鯖彦兄さんを押しのけ、パンフレットを覗き込んできた。

「なんだよっ!僕がもち代さんからもらったものだよ!」

鯖彦兄さんが騒いだが、中2コンビの耳には入っていない。

……ホテル暴風雨の由来、長期滞在者の紹介、やっとこサトコの漫画……

住所や連絡先はやはり載っていなそうだ。

「ダイス君、君の優秀な21個の目でもって、念のため、このパンフレットに本当に住所や連絡先が載っていないか確認してくれたまへ」

ケロミが神妙にパンフレットをダイス君の目に近づけた。

ダイス君は、六面体の頭部を高速回転して、パンフレットを舐めるように見たが、「住所はないよ」

と言って、頭部の回転を止めた。しかし、

「でも、ケロミちゃん、このマークって、なんだろ?」

と、パンフレットの表紙に印刷された四角い幾何学的な模様を指差した。そう、ITに強い現代人の読者の方ならすぐにピンときたであろう。バーコードである。ダイス君もケロミもバーコードを見たことがなかった。

「うん、これ、何かの暗号かも……

「解読したいね」

二人は、しばし沈思黙考。すると、ダイス君の赤い目が一段と赤くなった。そして、カバンの中から一冊の本を取り出した。今話題の新書「超訳文庫」である。

「これ、ドリルさんに借りてて、今日返す予定なんだ!ドリルさんに解読してもらおうよ!」

ケロミのエメラルド色のカエル頭巾もキラリと輝いた。

「ベリーナイスなアイディア!(#^^#)

ケロミは、ホテル暴風雨へ行く糸口を見つけ、パンフレットを大切そうに押し抱いた。

「もー!返してっ!」

と、ウザい鯖彦兄さんにケロミがひとこと。

「鯖彦兄さん、バイト遅れるよ~」

鯖彦兄さんは、漫画のようにピョンと跳ね上がると、

「あぁ、もち代さんに怒られちゃうっ!」

と、勢いよく駆け出すと、その拍子にマワシがほどけてしまった。そのマワシは、まるでアニサキスのように白く長くゆらゆらとたなびきながら鯖彦の後を追っていった。

「あ・そうだ、善は急げで、マイちゃん先生も一緒に連れてかない!?

「話が早く進むよね」

二人は、昭和ヶ丘中学に戻り、発光米先生に事情を説明すると、

「そうね。大人がいた方がいいわね」

と同行を承諾してくれた。そして、「ホテル暴風雨に行く!」という野望を胸に、三人はドリル氏の住む「メゾン・ド・アングラ」に向かったのであった。

★★★修学旅行は暴風雨 (2) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第25回、いかがでしたでしょうか。

このお話「修学旅行は暴風雨」は、ホテル暴風雨連載陣が同一のテーマで書く企画・暴風雨サロン第2回「ホテル文学を語る」の参加第一作!

(今回のタイトル絵・綿毛のある豆の正体が気になる方、そしてシメさばよん子の滞在するホテル暴風雨の様子を知りたい方はぜひ、マンガ&絵とお話『ホテル暴風雨の日々』もご覧ください)

他のお部屋でも「ホテル文学」が続々と語られる予定ですのでこちらもお楽しみに。

ちなみに「暴風雨サロン」第1回は、エドワード・ゴーリー作『優雅に叱責する自転車』がテーマでした。

暴風雨サロン第1回についてはこちらをぜひ

<暴風雨サロン担当者よりのごあいさつ>1冊の本、1本の映画、1人の人物などにスポットを当て、ホテル暴風雨の執筆陣がそれぞれ勝手に料理する「暴風雨サロン」が始まります。記念すべき第1回の俎上にのせるは怪奇とナンセンスの絵本作家エドワード・ゴー

浅羽容子さん(その正体は永遠のきのこ・シメさばよん子)による暴風雨サロン第1回参加記事は、こちらです。

第16回 番外編「自転車、優雅に叱責する」
オモッチーランドで楽しんだ数日後、ダイス君の家に遊びに行こうと、久々に自転車に乗ったケロミ。いざ、出発と思いきや、自転車は進まず……!?エドワード・ゴーリー著「優雅に叱責する自転車」へのオマージュ作。

さて、ケロ美たちが暴風雨を目指していると知ったならば、スタッフの中にも多いというひそかなケロ美ファンたちはどんな騒ぎを起こすことやら。

豆ぶらんこに乗りすぎて地面がゆらゆら動く気分のハナさん。実は「シメさばケロ美」の大ファン。ドキドキしながら4649号室の前へ差し掛かると、そこに怪しい影が&&!?

「シメさばケロ美の小冒険」に代表される「餅文学」を広めたいがあまり自分が出演するという思い切った手に出た(?)モチ肌モチ代は修学旅行行きに貢献するのか?

モチモチした味わい、「餅文学」のススメ。餅文学の代表作、「シメさばケロ美の小冒険」の魅力に迫ります。モチ肌モチ代が。誰?

メゾン・ド・アングラの主・ドリル堀田氏、ダイス君に『アングリマーラ』を薦めるとは渋いチョイスですが、ホテル暴風雨パンフレットの謎を解読できるのか?ケロミたちはホテル暴風雨に楽しい修学旅行に行けるのか?豆ハンモックで寝られるのか!?浅羽容子、その正体は永遠のきのこ・シメさばよん子に会えるのか?鯖彦兄さんの髪型はいったいぜんたいどうなっているのか?
「修学旅行は暴風雨」は全3回、このお話は三週連続でお送りする予定です。毎週ケロミが読めるよ、ヤッホウ♪

盛りだくさんな展開になりそうです、どうぞお楽しみに!

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