第28回 暗黒六面界 (1)

「修学旅行ボケ」である。

157組は、担任の発光米(はっこうまい)先生を含んだ35名全員が見事に修学旅行ボケにかかってしまった。

ご存知の通り、修学旅行先は「ホテル暴風雨」。数々の困難を乗り越え辿り着いた場所であるが、そんな苦労など吹き飛ぶくらいの最上ぱねぇ充実した日々が157組を待っていた。楽しすぎて、興奮しすぎて、リラックスしすぎて……、いつの間にか滞在期間を1ヶ月()延長してしまった程だ。しかし、ホテル暴風雨は、時空がねじれた場所にある。そのため、切手マシーンに乗って帰還すると、学校の規定通りの34日。なので、問題Nothingなのです!皆さん安心して下さい。(^3^)-ホッ

そして、帰ってきた翌日、修学旅行ボケの発光米先生は、登校してきた同じく修学旅行ボケの生徒達にこう言った。

「えぇとぉ、今日の授業わぁ、1時限目から5時限目までぇ、「回想」の授業に変更ですぅ~。ホテル暴風雨の回想をめいめい勝手にしてくださ~い。先生も回想しますのでぇ~。ほにゃほにゃ……

つまりは、「国語」も「数学」も「音楽」も「美容」も「物真似」も、全ての授業が、「回想」の授業に置き換わったのだ。修学旅行ボケの35名は、存分にニヤニヤとホテル暴風雨の回想にふけり1日を過ごした。(職務怠慢・勉学怠慢也。(=_=)

その後、この回想の授業ばかりの日が続いたが、「修学旅行ボケ」の薬は「時間」である。時間が経てば治る病なのだ。まず初めに大人の発光米先生が、ボケから脱した。一人治ると後は早い。発光米先生を皮切りに、殆どの生徒が、修学旅行ボケから抜け出することができていた。……が、ここに最後まで重度の修学旅行ボケにかかっている人物がひとり……

「はにゃはにゃ、ほにゃら~」

心ここにあらずなのは、そう、我らが主人公、2017年生まれの赤ちゃん命名ランキング1位に輝いた「ケロ美」の本家本元のシメさばケロ美である。ケロミは、現実世界に戻れていない。実際、帰還以来、地面から5ミリ浮いて生活している。(※浮いているのは5ミリだけなので、誰も気づかないのです。皆さんの周りにも、きっと5ミリ浮いている人がいるはずです。探してみましょう)

ケロミがそんな状態のある朝のこと。毎朝の日課の例の転がし最中も、修学旅行ボケのまま夢うつつだ。

「ケロミちゃん、いいね~」

転がされたダイス君はいつものように喜びの声をあげた。そう、ダイス君の修学旅行ボケは、ちょうど昨夜完治したのだ。最後から2番目の治癒。なので、久々に今朝は平静の状態に戻っている。反面、修学旅行ボケ続行中のラスト・ボケサムライであるケロミは、いつもの習慣でダイス君を転がしているだけであり、脳内はまだまだウキウキうぉちんぐの旅行中なのである。ケロミは、ダイス君が勢いよく転がっていく様を焦点の定まらぬ目で見つめながら近づいていった。

「ひつじまめ~、おいしかったなぁ~、ほにゃほにゃ……

ケロミの脳内では、ホテル暴風雨のディナーで出た羊豆ソテーを食べているところである。自然と垂涎している。

「ケロミちゃん、今日の転がしもいいねぇ~」

そんなケロミのボケた様子を、ダイス君は気づいていない。ケロミが、地面に届きそうなくらいヨダレを垂らし、独り言を呟きながら、転がるダイス君のすぐそばに近づいてきた。

「もぉ~たべられないよぉ~、え?つぎのりょうりぃ?ちょっと、はこぶのまってよ、~まっててよ~、ほにゃほにゃ……

そして、通り過ぎた。

「ケロミちゃん?」

ケロミはそのままどんどん学校に向かって進んで行く。(もちろん、5ミリ浮きながらね!)

「あれ?ケロミちゃん、転がしは9回しかしていないよ!?最後の10回目は!?

ダイス君は、転がったまま、遠のくケロミに向かって叫んだ。

……ちょっと、まってよ~、まっててよ~、ほにゃほにゃ……

振り向きもせず、学校に向かって歩いて行くケロミの独り言がダイス君の耳に入った。

「ん?待ってるの?待っていればいいの?ん?ん?」

ダイス君は、言われた通り、10回目の転がしのため仰向けのままケロミを待った。

「では、出席を取ります」

2157組で、発光米先生は、クラスを見回した。

「あれ、西郷君は?」

ダイス君がいないのである。

「す、すみません!遅れましたっ!」

そこに、ガラガラと教室のドアを開けて、ダイス君が入ってきた。ここ数日、修学旅行ボケの生徒ばかり相手にしてきて気が立っている発光米先生は、お米型の顔をα化させて怒った。

「西郷君!遅刻ですよ!修学旅行ボケもいい加減になさい!」

「え?あ?違うんです……

「言い訳はしないっ!」

怒られたダイス君はすごすごとケロミの隣の席についたが、ケロミはまだ白昼夢の中。上の空である。

「ケロミちゃんのせいで怒られちゃったよ……

とダイス君がプリプリとケロミに不満を言いかけたが、

1時間目は体育なのでみんな早く着替えて」

という発光米先生の声にかき消されてしまった。

ケロミは、ダイス君のことなど無視して、「ほにゃ」と言いながら、更衣室にふわふわと行ってしまった。無意識の反応で動いているようだ。

「なんだよ……」慌てて後を追うダイス君の心の中に、黒い雨漏りのシミが滲み始めていた。

今日の体育の授業は、サッカーの練習試合だった。

ケロミ以外の生徒は、ボケ完治済みなので、サッカーに真剣に取り組んでいる。ケロミだけは、ふわふわっと危なっかしい動きであるが、騒々しい雰囲気に紛れて目立たずにいた。とはいえ、脳内旅行中のケロミは注意散漫である。

「ケロミちゃん!ボール!」

チームメイトからの声がして、ふらふらと漂うケロミの頭上に、サッカーボールが直撃した!

「イテッ……!」

ケロミの頭に当たったサッカーボールは、美しい曲線を描き飛んでいった。ケロミはというと、ボールの衝撃をもろに頭に受けてしまった!そして、それにより、5ミリ浮いていた足が見事地面に接地したのだった。すると……、なんということでしょう!ケロミの修学旅行ボケが、一気にツルッと治ったのです!(5ミリ浮いている人がいたら、同様にして足を地面につけてあげるいいでしょう)

「ケロミちゃんナイスヘディング!」

ボールを受け取ったクラスメートのブリクサがケロミにウインクを送った。

「あっ、う、うん……

皆、ケロミがボケから元に戻ったことに気がついていない。一方、ケロミの敵チームになっていたダイス君はというと、転がされるサッカーボールを執拗に見つめていた。

「ちっ……!」

そう、転がされるボールにメラメラと嫉妬をし、さらにムラムラとしていたのである。

「今日は、ケロミちゃんのせいで、10回目の転がしができなかった……。あんなに転がされるサッカーボールが羨ましい……

ダイス君のメラメラのムラムラは、最高潮に達した。その次の瞬間、自制が効かなくなったダイス君は、サッカーボールに猛烈タックルしていたのだ。そして、奪ったサッカーボールを遥か遠くに吹っ飛ばすと、サッカーボールの代わりに自分が転がり始めたのだ。(@0@)

「うっひょー!」

ダイス君は、雄叫びをあげながら、くるくる回った。ただまっすぐに転がった。その転がった先に、網目が見えた。網がダイス君を受け止め、やっとダイス君は止まった。

「ゴール!」

笛の音が鳴った。

ダイス君が転がった先は、自分のチームのゴール。そう、オウンゴールである。ある意味、本当のオウンゴール。見事なオウンなゴールだ。この1点で、勝負が決まり、ダイス君のチームは負けてしまった。勝ったチームのケロミは、喜んでハイタッチをしてはしゃいでいる。

ダイス君は、ゴールポストの中でぼんやり座ったままその様子を見ていた。

「ダイス、何やってんだよ!」

「西郷君、サイテー!」

同チームから非難の声を浴びせられ、ダイス君は、肩を落とした。

「ごめん……、これには訳があって……

しかし、チームメイト達は呆れた様に、「また言い訳かよ」と口々に言い、舌打ちをし、ダイス君に背を向けて行ってしまったのであった。

2時限目以降は、数日間「回想」の授業だけだったため、本来の授業の巻き返しがあり、忙しく授業が行われ、生徒達も話す余裕もなく、やっと6時限目が終わって下校時間となった。

「ブリクサ、一緒に帰ろう」

いつもケロミと下校するダイス君だが、ブリクサにそう言うとグイグイと腕を引っ張り、教室を出た。

「あれ?ケロミちゃんは?」

「いいの・いいの、あんなヤツ」

不審そうなブリクサにダイス君が吐き捨てるように言った。

そこに、ケロミが追いかけてきた。

「ダイス君、待ってよ!」

ケロミは修学旅行ボケの後遺症があるようで、判断力が鈍くなっていた。ダイス君がいつもと違う様子なのに気がついていないのだ。

「なにが『待ってよ』だぁ~~!あ~ん!?おれぁ、朝、待ってたよ、散々!それで遅刻したんじゃにーかっ」

ダイス君は足を早めながら一人毒づいた。

「だ、大丈夫、ダイス君?」

おどおどしているブリクサに向かって、ダイス君が高圧的に言った。

「ブリクサ、今日、うちの家族がいないから遊びに来いよなっ!」

「う・うん……

ダイス君は、ブリクサを引きずるようにして歩き、ケロミは状況を理解できないまま「待ってよ」と言いながら、ダイス君の後を追った。その「待ってよ」と言うたびに、ダイス君の怒りメーターがぐんぐん上がることはケロミは全く知る由もなかった。

そうしているうちに、ダイス君の家の近くまで来てしまった。

ケロミが、「あ・今日は、ブリクサと3人でダイス君ちで遊ぶ約束だったんだっけ~?最近のことなんか覚えてないんだよね~」と思いながら、ダイス君達を追っていると、

「あ、ケロねぇ!?

と呼びかける声。昆虫採集中の鷹蜜である。

「あぁ、鷹蜜、これからダイス君ちに行くみたいなんだけど」

「僕も行く!」

鷹蜜は虫かごと虫取り網を抱え、ケロミの後ろに続いた。

ずんずん進む、怒り心頭のダイス君・引きづられるブリクサ・後を追うケロミ・楽しげな鷹蜜と、変な行進は、西郷家の正方形の白い家まで続いた。

ダイス君の家に、いつものように「おじゃましまーす」と言い、勝手にあがるケロミと鷹蜜は、そのままダイス君の部屋へ行った。

「えっ!?

ダイス君は、ケロミと鷹蜜がちゃっかり部屋に入ってきたのに驚き、そして、またもや怒りメーターを上げてしまった。(> <)

「何だよ!ケロミちゃんも鷹蜜も呼んでいないよ!」

「へ?なんで?怒ってんの!?

ダイス君の怒りに全く気づいていなかった無邪気なケロミの態度が、さらにダイス君の怒りメーターを押し上げた。ダイス君は両の拳を強く握った。

「だって、ケロミちゃん、ひどいよっ!転がしも9回しかしないし、待ってて言うから待ってたら遅刻しちゃうし、そのせいでオウンゴールしちゃったのに、ケロミちゃんは勝ってハイタッチでしょっ!ひどいひどすぎるよっ」

ダイス君は黒い目から黒い涙がひとすじ流れ出した。ま・まずい!黒い涙はっ……

以前、サイコロ族の黒い涙についての話を聞いていたケロミは、ダイス君の黒い涙におののいた。いつものように、なだめすかして止めさせなくては!

「ご・ごめん!明日、代わりに11回転がすからさっ!」

ケロミは、すかさず謝った。しかし、時はすでに遅し……

「ひどいっ、ひどいよっ!」

ダイス君の20個の黒い目全てから黒い涙が流れ出した!

「ひぃぃぃ!ごめん・ごめん!ごめんなさいっっっ!」

もう、ダイス君の耳(目かな?)には何も入らない。

「ケロミちゃんなんて……大嫌いだっ!」

黒い涙がとめどなく溢れ出した。その黒い涙は赤い1の目を覆った。赤い1の目はみるみるうちに、梅干し大になり、すぐに梅仁丹ほどの小粒になり、ついには、黒に侵食され消えてしまった。そして、黒い涙は、ダイス君の六面体の全面を覆いつくしてゆく……!白い部分が……、殆ど……ないっ!

「まずいっ!」

「怖いよ、ケロねぇ!」

ケロミは震える鷹蜜を抱き寄せた。

「へ!?何がまずいの!?

ケロミ達の方をずっと向いていたブリクサは、振り向いてダイス君を見た。

「ぐはっ!」

そこにいたのは、黒い涙が六面全てを覆いつくし、頭部が漆黒の立方体となったダイス君。しかも、その漆黒頭部は、ダインソ並の強力な吸引力で、振り向いたブリクサをジュワッと、その漆黒面に吸い込んでしまった。まるでブラックホールだ! (><)

「まずいっ!」

そろそろと後ずさりをして、逃げようとしたケロミの視界に窓の外の道を歩く、ネ子とウサ子が入った。

「ネ子ねぇ!ウサねぇ!」

助けを求め思わず窓に近寄ろうとしたその瞬間、ケロミと鷹蜜は、吸引力抜群の漆黒頭部に、ジュワッと吸い込まれていってしまった……

「た、た、たすけ…………

ケロミ達の声も漆黒の中に消えていく。

残ったのは、ダイス君ひとり。凍りついたように膝をかかえ座る漆黒頭部のダイス君のいる正方形の白い部屋に、時計の秒針の音だけが響いていた。

★★★暗黒六面界 (2) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第28回、いかがでしたでしょうか?いよいよ中冒険の始まりです!

1ヶ月ほど修学旅行に行って、5ミリ浮きながら回想してみたいものですが、もうそれどころじゃありません。
以前もこちらでちらりと登場した(けどすぐ引っ込んだ)、ダイス族の超絶不吉な暗黒涙

第7回 ダイス式ダイエット(1)
オモッチーランドを堪能したケロミとダイス君は、見事に餅太りになってしまった。太っちょの二人は「ダイエットをする」という決意を固める。最高のボデェを手に入れるため、ケロミ達よ、第一歩を踏み出せ!

ついにケロミワールドに流れ出てまいりました。さて、どうなる!?助けて、ネ子ねぇ、ウサねぇ!!次回をどうぞお楽しみに。

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