第29回 暗黒六面界(2)

このお話は、「暗黒六面界(1)」の続きです。


灰色の空には、黒い雲が薄く漂う。その雲の合間には大きく黒い太陽が浮かび、鈍重なブルーグレーの光線を放つ。遠くに見えるのは、なだらかな砂丘の連なり。その色は黒い。辺りの平地には、枯れ木がまばらに立っている。その色も、ただひたすらに……黒い。

今、ケロミ達が横たわっている場所は黒い砂の地面だ。その黒い砂は、砂というには荒く大きく、小石というべき形状だ。しかも、全て立方体である。無数の黒い立方体の小石が引き詰められたその場所で、まず目を覚ましたのはケロミだった。

「んんん……

荒い小石の寝心地は半端なく(=ぱねぇ)悪い。ケロミは、半分開いた目で、視線をぼんやりと周りに漂わせた。

……?」

黒い小石が敷き詰められた世界。

……なんじゃ、ここ!?

荒涼たる無彩色の世界である。ケロミが半身を上げると、小石の摩擦音が静寂を破った。ジャラジャラと立方体の黒い小石はサイコロのように四方に転がる。

ー           ■■■■■■

……ん」

その音で起きたのはブリクサだ。ジョッキ型の頭部を重そうに持ち上げると、ケロミ同様、その周囲の様子を見て唖然とした。

……ケロミちゃん、何ここ?」

次いで、鷹蜜も目を覚ました。

……ここどこ?」

……

三人は、彼らを囲む風もない殺風景な世界に、しばし圧倒された。しばらくして、最初に口を開いたのはケロミだった。

……サイコロ族の黒い涙のせいでここに来たのかも……

「何それ?」

ケロミは、汚れたエプロンをギュッと握った。

「前に聞いたことがあるんだ。サイコロ族の黒い涙が六面体を覆い尽くすと、とんでもないことが起きるって……

「とんでもないこと……確かに、僕たち、ダイス君の頭部に吸い込まれちゃったよね……

ブリクサが眉をハの字にして言った。

「ダイス兄ちゃんの体の中にいるってこと……!?

鷹蜜はブルっと体を震わせた。

……いや、体でなく心の中かもしれん……私にも分からない……

ケロミは立ち上がった。

「とにかく、来てはいけないところじゃないのかな……

ケロミは、改めて四方を見回してみた。すると、近くの枯れ木の下に、看板があることに気がついた。その看板には矢印が描かれている。

「看板……?」

ケロミがその看板のそばに行こうとすると、一緒に行こうと鷹蜜が素早く立ち上がった。続いてブリクサが立ち上がったが、その時、初めて黒い小石が立方体であることに気がついた。

「あれ、この小石って立方体だよ!すごい全部だ!奥の方もそうなのかな」

立ち上がったブリクサは、地面の小石を掘るように足で蹴った。

「痛っ」

蹴った場所から声がした。へ?おかしい……!ナニいまのっ!?(>_<)

「ん?」

見ると、その掘られた浅い穴の中心に、小石よりもずっと大きい黒い立方体の角の部分のようなもの少し見えた。

……なんか、声がしたよね?ここになんか大きめの黒い物体が埋まっているみたい」

「ブリにぃ、なんだろうね!?

鷹蜜が持っていた虫取り網の先で、その穴の中の黒い物体をツンツンとつついてみた。

すると、その黒い物体がピクリと動いた。

……!?

「へ……今、動いた……?」

動いたと思った次の瞬間……、突然、その黒い物体が吹き出すように飛び跳ねてきた!

「うっひょー!」

謎の黒い物体は、甲高い叫び声をあげている。三人は死ぬほど驚いた。(が、死なないデスYO)

「どぅひぇぇぇぇぇぇ!」

その物体は、3メートルほど飛び上がると、地面にシュタッと着地。見ると、黒い立方体の下を支えるように体がついている。それは、そう……ダイス君そっくり。しかし、ダイス君と違うところは、ダイス君の21くらいの大きさのSSサイズであるということ。そして、漆黒頭部であるということだ。

忍者のように着地をしたSSサイズのダイス君は、ケロミ達の方を向いている。正確には、目がないので、向いている方向が分からないのであるが、直感でこちらを凝視しているのが感じられた。SSサイズのダイス君は、ケロミ達をじっと見つめたあと、

「ぴゅー!」

と口笛を吹いた。すると、地面のあちらこちらの黒い小石が盛り上がり出した。そして、その盛り上がった小石の中心から、同じような黒い立方体がにゅっと現れると、シュッと勢いをつけて飛び出してきたのだ!

「うっひょー!」

「うっひょー!」

と叫びながら、次々と跳ね上がる。どれもこれも同じSSサイズの漆黒頭部のダイス君だ!

「どわっ!」

恐怖で互いに身を寄せ合ったケロミ達を中心に、噴水のように次々に湧くSSサイズのダイス君達。黒い噴水はまさに地獄の様相である。

「ケロねぇ、怖いっ、怖いよぉ~!」

泣き出す鷹蜜をケロミは背後に回し、守るように後ろ手で抱きしめた。

数十秒のうちに、ミニダイス君が次々と現れた。そして、「うっひょー!」という叫び声が聞こえなくなり、ケロミ達は100名程のSSサイズのダイス君達に囲まれてしまった。皆口々に「ギョケケケ……」とケッタイな笑い声を出している。カエルの大合唱のごとき騒々しさだ。そんな中、最初に現れて口笛を吹いたSSサイズのダイス君が、また口笛を吹いた。そして、

「よしっ!配置につけっ!」

と号令を出すと、99(多分)のミニダイス君達は、ギョケケケ……と笑いながら、看板の矢印の方向に向かって駆けて行ってしまった。残ったのは、最初の一人だけである。

「ダイス君……!?

ケロミがおそるおそる声をかけてみた。

「違うよ。ケロミちゃん」

SSサイズの漆黒頭部のダイス君は、すっと立ち上がった。ケロミの腰くらいの高さだ。

「僕は、ブラックミニダイス君。ミニダイス君って呼んでね。ダイス君は僕たちミニダイス君達の親のような神のような存在だよ。親分とも言えるね」

ケロミ達は、ミニダイス君の意外にも好意的な態度にホッとした。(だが、気を抜いちゃダメ!絶対!(> <))

「ミニダイス君、ここはどこ!?

ブリクサが震える声で尋ねた。

すると、ミニダイス君は、左手を後ろにまわし、手のひらを上にした右手を腹部の前で曲げ、まるで執事のようなポーズをとった。そして、ニヤリと笑った。(ような気がした)

「暗黒六面界にようこそ!」

ミニダイス君は深々と頭を垂れた。

「へ!?あんこくろくめんかい!?

「あんこが黒い明太子!?

「ケロねぇ、それ美味しいの?」

鷹蜜の問いにケロミは、

「いや、まずいんじゃね?」

と答えると、ミニダイス君は、腰を曲げた執事ポーズのまま、漆黒頭部だけを器用に持ち上げ、またニヤリと笑った。(ような気がした)

「そのとーり!さすがはケロミちゃん!『まずい』のですよ!」

ミニダイス君は、肩を上下に揺らしながら嬉しそうにギョケケケ……と不気味な笑い声を立てた。

「ケロミちゃんが我らの親分、ダイス君を怒らせたから、この暗黒六面界にご招待されたのですよ。暗黒六面界は、ひっじょーーーに、まずーーーいことが数々起こる暗黒の世界。Noヘーブン!Yesヘル!ギョケケケ!」

それを聞いたブリクサが、

「ぼ、ぼくは関係ないよっ!」

と思わず言うと、ミニダイス君の頭部がくるくる回転し、ブリクサの方を向いて止まった。

「そのとーり!」

ホッと胸をなでおろすブリクサにミニダイス君は、話を続けた。

「しかーーーし、ブリクサは、さっき僕のことを蹴飛ばしたので、暗黒六面界の招待を受ける資格がありまーす!残念でしたー!ギョケケケ!」

肩を震わせ笑うミニダイス君は小鬼のようである。

「でも、鷹蜜は何もしてないだろっ!」

ケロミは、鷹蜜をかばうように言うと、ミニダイス君はまたもや楽しそうに不穏な笑い声をたてた。

「ちがいまーーーす!鷹蜜は、先ほど、僕を虫取り網でツンツンしましたーーー!なので、ケロミちゃん達と同罪でーす!残念でしたー!ギョケケケケケケ!」

邪悪なミニダイス君は、そのまま、シュッと飛び、ケロミのカエル頭巾の上に敏速に乗っかった。

「何すんだよっ!ミニダイス君!」

「いいから・いいから、僕がここに乗って、君達に暗黒六面界をご案内してあげるよ。行き着く先は……、おっと……これは後でのお楽しみっ!ギョケッ!」

ミニダイス君は、ケロミのカエル頭巾はおかしそうにポンポン叩いた。

「やめろよっ」

「はいっ!やめてあげるから、その代わりに出発!看板の矢印の方向に歩いてちょーだいね。他のミニダイス君達が、君達を歓待するために先に行っているからね。ギョケケケケケ!ギョケ!ギョケ!」

ケロミは、仕方なく邪悪なミニダイス君を頭に乗せたまま、半泣きの鷹蜜とブリクサの弱虫男子に左右の手を握られながら歩き出した。頭上のミニダイス君は、嬉しそうに「まってて・まってて・まっててよ~」と変な歌を繰り返し歌っている。

ダイス君から善良さを全てのぞいたブラックなミニダイス君を大切なカエル頭巾の上に乗せるのは全くもって嬉しくない。しかし、ここはダイス君が作り上げた世界、今は歯向かう時ではない……。じっと我慢の時なのです。(-.-)

そんな全身が緊張しているような状況でしばらく歩くと、目の前に大小の黒い正方形の家が立ち並ぶ町が見えてきた。その町の入り口には、看板が立っているようだ。近づくと、その看板には6の目のサイコロの絵が描かれているのが見えた。その下に文字も書かれている。ケロミはそれを読んだ。

……6の目地獄!?

すると、頭上のミニダイス君が、けたたましく笑いだした。

「ギョゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!」

★★★暗黒六面界 (3) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第29回、いかがでしたでしょうか?

これまでにないダークな世界に邪悪なミニダイス君、ケロミの行く手に何が待ち受けているのか、ドキドキしますね。今回はちょっと怖いので、夜トイレに一人で行けなくなっちゃう人は気をつけた方がいいかもしれません。って読んでから言っても遅い!!

でも苦情は受け付けません、ギョゲゲゲゲゲゲ!

ハラハラしながら、待て、次号。次回は新年、1月9日にお送りします。みなさま、よいお年を。

ご感想・作者へのメッセージはこちらからお待ちしております。本年もご愛読、ありがとうございました。来年もケロミ達をどうぞよろしくお願いいたします。