第32回 暗黒六面界(5)

このお話は、暗黒六面界(1) (2) (3) (4) の続きです。

ミニダイス君達は、お面を放り投げると足早に部屋を出て行ってしまった。

ケロミと鷹蜜だけが残された部屋に、またもや館内放送が響く。

「ピンポンパンポーン。就活でお越しのシメさばケロ美さま、鷹蜜さま、見事不合格となりましたので、一刻も早く弊社よりお引き取りください」

勝手な言い分である。ケロミは、鷹蜜の鳥頭巾をグリグリなでながら、

「大丈夫だから、さぁ行こう」

と励まし、誰もいない廊下に出た。ドロリンとした空気が漂う廊下に、館内放送が響いた。

1009998……

ん?今度は機械音のカウントダウン!?ケロミの心がザワついた……。エレベーターに急いで乗るとすぐさま1階のボタンをポチっと押す。扉が閉まったエレベーターの中にも、ドロリンとした空気が漂っている。その不穏な空気がカウントダウンの機械音と共に壁に張り付いて増殖しだしたように思えた。YABASHI!そして、ついに、黒い壁が粘りながらトロけ始めたのである……(0)

「ケロねぇ!壁が……!」

ケロミ達を乗せたエレベーターは、しなりながら下がっていく。

「まずいっ!床もぬかるみ始めた!」

床も溶け始め、グズグズネチネチモチモチと安定感がない。その時、天井からポトリと溶けた粘液が落ち、ケロミのお口の中にinした。……ん?これはまさしく餅!黒ゴマが練り込まれた柔らか餅である!

「んまい!( ゜▽ ゜)

しかし、んまい餅を堪能している余裕なぞナッシング。

「チーン。1階です」

やっと1階に到着すると、溶けて変形したエレベーターの扉をなんとかくぐり抜け、ケロミはぬかるむ廊下を鷹蜜をかばいながら走りぬいた。受付にも誰もいない。

10……8……

館内放送が途切れ途切れに聞こえた。

「まずい……!」

ケロミと鷹蜜が、猛ダッシュをかまし、やっとのことで西郷商事ビルから脱出!……と同時に、

0

という館内放送が流れ、西郷商事ビルは粘りながら崩れ落ちた。元はビルだった柔らか黒ゴマ餅は、川となりトロトロダクダクモチモチと流れ始めた。

ケロミと鷹蜜は、間一髪で餅まみれにならず済んだのである。

「ケロミちゃん、スリリングだったでしょ?」

へたりこむケロミの背後から声がした。

「ミニダイス君……

ミニダイス部長らしきミニダイス君が一人、小舟の上に乗っている。

「あ、早く二人とも、この舟に乗って!乗って!」

そう、黒ゴマ餅の川は、鳥モチのようにケロミ姉弟を捕らえようと足元まで近づいていたのだ!寸前のところで、ケロミと鷹蜜が小舟に乗ると、すぐに黒い餅の波が小舟をもっちりと包み込んで浮かせた。そして、ゆっくりと動き始めた。

ホッとするケロミ達の様子を見たミニダイス部長はいかにも愉快といった様子だ。

「ギョケケケ!ギョケッ!ギョケッ!」

ひとしきり笑ったミニダイス部長は、

「ケロミちゃん達、お腹空いたでしょ?次は、休憩だからね。といっても『3の目地獄』だけどネ」

とにやりと笑った(ように思えた)。

「すぐに着くからね!ギョケ!」

ケロミ達は船底に座り込み、黒ゴマ餅の即席の川の上から、何もない川岸をただぼんやりと見つめた。しかし、すぐに視界に黒い塊が入ってきた。それはどんどん近づいて大きくなってくる。黒い街、繁華街のようだ。黒い建物がたくさん建っている。キラキラと無彩色のネオンが眩しい。

「さぁ、着いたよ」

街の船着き場に着いた。

「ここは……?」

岸に上がりながらつぶやくケロミにミニダイス部長はあざけるようにギョケと笑った。

「さっき言ったでしょ。休憩だよ。といっても、この街は『3の目地獄』と『2の目地獄』も兼ねているけどね。ギョケ!」

ケロミはやっとある事に気付いた。

「さっきが『4の目地獄』で、今度が『3の目地獄』と『2の目地獄』……もしや……

ケロミの背筋に悪寒が走る。

「カウントダウンされてるってこと!?」

ケロミの言葉に前を歩いていたミニダイス部長は振り返り、ゆっくりと首を縦に降った。漆黒の顔面からは、何の表情も読み取れない。

「ケロねぇ……

ケロミは、体を寄せてくる鷹蜜の手を強く握った。

漆黒の街は、ミニダイス君達が行き交い活気づいていた。その街を少し入ったところで、ケロミ達を無言で先導していたミニダイス部長は歩みを止めた。

「ここだよ!」

とある店を指差すミニダイス部長。

「レストラン義夜毛?よるけ?」

ケロミは看板を読んだ。

「そう、レストラン『ギョケ』だよ。ここが休憩場所です。ケロミちゃん、存分に楽しんでね!」

ミニダイス部長は、ドアを開けてケロミ達を中に招き入れると、

「んじゃ!また後で!」

と言い残し、町の中心部へと消えて行ってしまった。

店は、ラジオクレーンズのムーディーな曲が流れ、内装は黒い木目調の作りで、落ち着いた大人の雰囲気だ。ケロミ達が入り口で戸惑っていると、

「いらっしゃいませぇ!」

と、カフェエプロンをつけたウェイターのミニダイス君が近づいて来た。

2名様ですんねぇ、こちらにどんぞぉ!」

ケロミ達は先客のミニダイス君達が占めるテーブル席の間をぬい、空いているテーブルに通された。

「こちらメニューですぇ」

手渡されたメニューの表紙には3の目のサイコロの絵と、ローマ字の筆記体で「Sannome-Jigoku」と書かれている。

「ケロねぇ、なんて書いてあるの?」

鷹蜜の質問に「分からん」とシラを切ったケロミは、メニューを開いた。

「パイナップルステーキ、パイナップル丼、パイナップル炒め……

「どれも美味しそう!」

はしゃぐ鷹蜜とは裏腹にケロミの表情は、硬い。

……全部……私が大嫌いなパイナップルの料理じゃんか!」

そう、ケロミはパイナップルが嫌いだ。大嫌いなのだ。(※読者の皆さん、「純餅喫茶どくきのこ」で、ケロミがパフェに入っていたパイナップルを変態中の鯖彦兄さんにあげたのを思い出してください。)

ケロミが眉間にシワを寄せているところにウェイターのミニダイス君がやってきた。

「あ、もし、お客様、しんつれい致しゃした。本日は、フルコースでご予約ですんで、メニューは下げさせて頂きまんすぅ」

と、ケロミと鷹蜜の手から、メニューを奪ってしまった。代わりに、別のウェイターミニダイス君が料理が乗った皿をケロミ達の前にででんと置いた。

「まずは、パイナップルサラダでござんまぁす」

まだら黒い物体だ。どうやらパイナップルオンリーのサラダようだが黒いドレッシングがたっぷりかかっている。その黒いドレッシングの隙間からパイナップルの黄色がギラギラと輝いている。ケロミは思わず口を押さえた。

「わぁ!美味しそう!」

パイナップル好きの鷹蜜は早速「んまいんまい」と頬張っている。

ケロミは正視できず、斜め前のテーブルを見ると、客のミニダイス君が、まだら黒いパイナップル料理をガブリと食べていた。視線をそらすと、そこにも同じ光景……

パイナップルは大嫌いだが、他人が美味しそうに食事をする光景はケロミの腹をダイレクトに刺激する。すっかり忘れていたが、ケロミは腹ペコだったのだ。料理に舌鼓を打つ周囲の光景にケロミは圧倒され垂涎した。空腹感はひたすらに増長されていく……。ついに、最高潮に腹ペコな音「ケロケーロ」が腹から鳴りだすケロミ……。こんなことなら黒ゴマ餅を川からすくって食べときゃ良かったと思うが後の祭りだ。(=アフターふぇすてぃばる)

ケロミは、急激な空腹のため目が霞んできた。やばい、エナジーが切れかかっている……。今すぐ何か補給しなけばならん……。ケロミは、背に腹はかえられぬと目の前のまだら黒いサラダを恐る恐る口に運んでみた。えいやっ!(> <)

パクリ。

……ん?ナニ?コレ?……なんつーの、……なんか、なんだか、あれよ、あれなのっ!……うん……「うまい」っつーの!?……うん、うまいっ!

パイナップルの酸味がドレッシングとマッチしていて非常に美味なのである。ケロミの中の秘密のパイナップルの扉がババーンと開いた瞬間だった。ビバ!開眼!(▽○)ワッショイ!パイナポー!エナジー補給開始!

「お次はパイナップルスープでござあます」

次のスープも美味!ケロミは、次々出されるパイナップル料理(なぜか全部まだら黒い)をニコニコと平らげていったが、途中でウェイターのミニダイス君の視線に疑念と怒気が含まれ始めたのに感づいた。やばしっ!楽しんでしまってはダメだ、怖がったり怒ったりしないと、またミニダイス君がむくれる!

ケロミは、夢中で食べている鷹蜜に話しかける態をとりながら、ウェイターに聞こえよがしに言ってみた。

「パイナップル……すんごいヤだよ……。でもお父さんから『食べ物は残すな』って言われてるから全部食べなきゃなぁ……超絶まずいなぁ……はぁ、つらいおぇっ!」

それを聞いたウェイターのミニダイス君は、ニヤリと笑った(ような略)。

ちょうど、その時、厨房から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。

「おいっ!ミニダイス君!モタモタすんな!パイナップルの千切り遅いぞ!」

「ざけなん!ミニダイス君!皿の洗い方失格!全部やり直し!」

聞いたことある二人の声……

「ケロねぇ、今の……?」

「似てるよね?」

ケロミ達の会話を聞いていたウェイターのミニダイス君が割り込んできた。

「今のは、当レストランの双子シェフてす。お呼びいたしましょん」

返答を聞かずにミニダイス君は、厨房に引っ込むとシェフらしき二人を呼んできた。

「あ!ネ子ねぇ!ウサねぇ!」

なんと双子シェフとはネ子とウサ子だった。

「あれ、ケロミに鷹蜜!」

皆、意外な展開に仰天である。(o0o)(o0o)(o0o)(o0o)

「ネ子ねぇ達、なんでここにいるの?」

「なんでって、ケロミの声が聞こえたからダイス君ちに入ったら、顔を真っ黒にしたダイス君がいて、吸い込まれちゃったのよ」

ネ子が言った。

「このレストランに着いて、働かされたんだけど、ミニダイス君達の手際が悪くてさぁ~。いつの間にか私達がシェフでボスだよ。うはは」

ウサ子はまんざらでもなさそうである。

「ま、私ら料理好きだからね」

そこに厨房からオドオドした様子の調理係の白衣を着たミニダイス君がやってきた。揉み手をしている。

……シェフ、注文がまた沢山入りましたので、厨房にお戻り頂きたいのですが……

「わーた、わーた!」

厨房に戻ろうとするネ子とウサ子を、ケロミが慌てて呼び止めた。

「ネコねぇ、ウサねぇ!危ないよ!一緒にいてよ!」

それを聞いて双子は顔を見合わせて笑って言った。

「危ないって、ここダイス君の世界でしょ?ダイス君だよ?」

「あはは!大丈夫だよ!それに、私達、新メニューの開発もあるしね」

そう言うと二人は、躊躇することなく、さっさと厨房に引き返してしまった。

入れ違いに、ウェイターのミニダイス君が、デザートのパイナップルプリンとパイナップルティーを運んできた。

ネ子達の言葉に割りきれない気持ちを感じていたが、どこかしら、合点がいく部分もある……。うーむ、むむむ……(-_-)

ケロミは難しい顔をしながらもデザートを平らげた。

食事が終わると、ウェイターのミニダイス君が近づいてきた。

「ご堪能頂けたでしょか?お代はミニダイス部長から頂いておりまんす」

そして、ケロミに渡したのは伝票ではない細長い紙2枚。

「で、お客様……次はそこに行きやがってくださぁい……ギョケ!ギョケケケケ!」

ウェイターのミニダイス君が、最後に一際高い声で例の下品な笑い声をあげると、それを合図に、店内の客のミニダイス君達もギョケギョケと笑いだした。さらにギョケギョケ笑いは、厨房の方からも輪唱のように聞こえてくる。

「ギョケケケ!」

「ギョケケケケケケ!」

「ギョケケケケケケケケケケケケ!」

大騒音だ。ケロミと鷹蜜は、急いで外に出ると、中から、ネ子とウサ子の怒鳴り声が響いてきた。

「うるさい!」

「てめーら笑ってないで仕事しろ!」

すると、不穏な笑い声一気に静まった。姉は強し……(--)

店を出たケロミは、次はどうしたらいいか分からない。手がかりである手渡された細長い紙を見た。

「『しあとるダイス』……?」

それは、映画のチケットであった。

「お~い!ケロミちゃん!こっちだよ!」

タイミングよくケロミを呼ぶ声がする。そちらを向くと、大きな建物の前でミニダイス部長らしきミニダイス君が手を振っている。

「行こっか?鷹蜜」

「うん」

ケロミと鷹蜜は、運命のサイコロが転がるままに、次のステージへと進んでいった。

ミニダイス部長がいた場所は、映画館であった。「しあとるダイス」という看板を掲げている黒く立派な立方体の建物だ。

「早く早く!上映が始まっちゃう」

客のミニダイス君達が何人も楽しそうに映画館に入っていく。

「はい、はい、これね」

ミニダイス部長はケロミ達に黒いポップコーンと黒い炭酸ジュースを渡した。特大サイズなようだ。

「あ、これもね!」

さらにパンフレットを腕にねじ込まれた。

「映画見るの?」

「そうだよ!大人気の映画だよ!ギョケ!」

ミニダイス君はケロミ達の背中を急かすように押した。

「では、『2の目地獄』をお楽しみください!」

ケロミ達は、観覧客のミニダイス君達にのまれるように劇場へと入っていった。

チケットの指定席は、一番見やすい席、ファーストラウンジ。周りは満席だ。

「疲れたね、鷹蜜。つまんなかったら寝ちゃおうね」

「うん」

ケロミ達は満腹だったが、抱えた大きなポップコーンから刺激的な美味しそうな匂いがする。

「ポップコーンと炭酸ジュースは別腹だね、ケロねぇ」

「そだな」

ケロミと鷹蜜は、黒いポップコーンを食べ、黒い炭酸ジュースを飲んだ。どちらも、後を引く刺激的な味である。

すぐに、場内が暗くなり、映画が始まった。

【偉大なる英雄 ダイス物語】

タイトルが画面に表れると、ミニダイス君達が、ギョギョケと歓声をあげた。

「ダイス兄ちゃんが主役の映画なんだね」

「うん、そうみたいだね……

ケロミは、オープニング画面に現れた21個の目を持つダイス君を懐かしいような気分でじっと見つめた。

映画は、ダイス君が生まれたシーンから始まった。いわゆるごく普通の一般人の生い立ち映画である。しかし、ダイス君は超絶に過大評価され、ごく平凡な生い立ちを自慢話ととも細かく描かれて、ちっとも先に進まない。しかも、観客のミニダイス達はいちいち感心し歓声をあげる。大爆笑で大絶賛の大感動だ。1時間を過ぎたころ、くだらない自慢話に耐え切れなくなったケロミは、

「この映画の上映時間は?」

表紙にサイコロの2の目のイラストが描かれたパンフレットを開いて調べた。

「上映時間は5時間……!」

2の目地獄は、長時間の自慢地獄。そーゆーことか……(-_-;)

ケロミは、細い目をしてスクリーンを見つめた。

★★★暗黒六面界 (6) に続く★★


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お送りするのは、「心」という名の周波数から取り出した数々の物語。

は、4月には1日限りの生放送イベントも!

2016年4月1日、ホテル暴風雨はオープンしました。来る4月に2周年を迎えるのを記念して池袋でイベントを行います。2週間の展覧会&9つのトークショーです。「ホテル暴風雨展」~心しか泊まれないホテルへようこそ~参加アーティスト27名(敬称略 

さて、予想通り(?)あんまり怖くない、というか美味しそうで楽しそうな地獄めぐり、双子の姉、ネ子とウサ子まで、助けてくれるかと思いきや愉快に働いている始末……

しかし2の目地獄ばかりは、ホームビデオ鑑賞会もしくは結婚式の出し物みたいなアレが5時間続くとは侮れません。そんな時は、睡眠?妄想に浸る?ブチ切れ? どうする!?ケロミ!

次回もどうぞお楽しみに。

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