第34回 おわりとはじまり(1)

「ケロミちゃん、いいねぇ~!」

今日の転がし10回目である。最近、ダイス君が少し成長し大きくなったせいか、以前より重みを感じるようになった。ケロミは、転がされて止まり仰向けに寝転んだままのダイス君に近づいていく。ダイス君がむくりと起き上がった。

「ケロミちゃん、今日もありがとう。学校着いたら、肩腕揉みするね」

「うん。よろしく」

例の暗黒六面界での一件で、見事100回の借りをケロミに作ったダイス君。「借りが100回になったら何でも言うことを聞く」ことになっていたのだが、ケロミから提案された要望は意外なものだった。それは、「毎朝の転がし後には、必ず肩と腕を揉む」である。

もちろんケロミの本心は、「転がしはもうしない」なのだが、まだ、Mサイズのダイス君は自分で転がるよりも他人に転がされることが嬉しい年頃。(皆さんもそんな年頃があったはずです。さぁ!リメンバー!)ケロミは、転がし中止とは言えず、その代替案として肩腕揉みを提案したのだ。

ダイス君は、しばらくしたらLサイズになる、転がしはそれまでの辛抱。しかし、Lサイズになって、転がしを要求しない大人になったダイス君を想像するとケロミはなぜか心が空洞になったような気分になるのだった。このままがいい……腕に微かな鈍い痛みを感じながらケロミはそう思った。

そんなケロミは自分の腕をもみもみしながら、一緒に歩くダイス君に話しかけた。

「しかしさぁ、パイナップルって美味しいかったんだねぇ~。食わず嫌いだったよ」

「そだね~。だから、僕の中のミニダイス君達がケロミちゃんに美味しさを分かるようにしてあげたんでしょ。あんまり覚えてないんだけど、何だか、僕の中の僕達って僕に劣らず優しいんだね。純白の優しさだよ」

「なんじゃい!かなり黒かったよ!あはは!」

いつものように、アホらしい中2的な意味なしオチなしの話題で盛り上がりながら登校し、昭和ヶ丘中学の球体の校舎に二人は入っていった。

「おはようございます。今日の1時限目はホームルームですね」

今日も教壇に立つ発光米先生はツヤツヤ顔だ。婚約したてのせいか、顔のツヤが一段と良い。艶っぽい。色っぽい。否、白っぽい(米だから)。とにかくツヤツヤ艶々といかにもうまそうなのである。(^p^)ジュルリ

そんな美味しそうな発光米先生が急に口をつぐんだ。ツヤツヤ顔が徐々にアルファ化しているのが見て取れる。硬い表情、それは何かぱねぇ重大なことを言う兆候でR……

「学年末も近づきましたね。……実は、来週に進級テストを行うことになりました」

ぼんやりした中2達には発行米先生が言ったことを即座に理解することは不可能だった。

「進級テスト……?」

「なにそれ……!?

一瞬静まり返った教室は、急にざわつき始めた。そう「進級テスト」のひとことが、中2達のふにゃふにゃのふやけたハートにやっと衝撃を与えたのである。発光米先生は硬い表情のままクラスを見渡した。

「例年ですと進級テストなどないのですが、今年はあります。この学年だけは157クラスで大人数だからです。3年生は進路決定の大事な学年です。しかも、人数が多いこともあり全員が希望する高校に行けるかどうかも分かりません。いつも以上に厳しい状況に皆さんは置かれているのです。……そう、皆さん今のままの中2気分ではいられないのは確かなのです。2学年の担任達で話しあった結果、今年に限り、無理に進級しなくても留年してもよい、生徒達の自由意志にまかせることになりました」

神妙に聞いていたクラスメート達は、発光米先生の言葉を噛み締めた。意外な話に皆混乱気味である。

「先生!それが進級テストとどう関係があるんですか!?

ダイス君が質問をした。

「進級テストを受けるのは任意とします。任意とは、受けてもいいし、受けなくてもいいということです。受けない場合は、確実に留年です。中2をもう一年やってもらいます。意思確認の意味を持つ進級テストなのです」

ようやく理解したクラスに「おぉ!」とどよめきが起こった。

喜ぶ生徒、困惑する生徒、テストと聞いて頭を抱える生徒と反応はまちまちだ。

中でもお調子者の生徒達は、喜び勇んで声をあげた。

「中2のままでいいんだぁ~」

「もう一回修学旅行に行ける!」

「中3は最高学年で責任あるし嫌だよね」

「受験サイテー!やだやだ中3!」

「みんな、進級テスト受けるの止めようぜ!」

そんな扇動の言葉に、クラスメート達は動揺しつつも、同調し始めてしまった。

「そうだ!157組は、皆で留年すればいいんだよ!」

「いいね!いいね!」

極めて浅薄で軽率な中2的発言の数々に157組全員が翻弄されてゆく。しかし、発光米先生だけは、さらに顔を強張らせていた。(※アルファ化がこれ進むと、顔がひび割れてしまうのがとても心配です。(> <))

沸き立つ157組の34名に向かい発光米先生は口を開いた。

「皆さん、確かにこれは学校が決めたことです。個人の気持ちで自由に決めていいのです。でも……私は……157組の皆さんには進級テストを受けて欲しい……と思っています」

アルファ化した顔を潤すかのように、発光米先生の瞳から涙が一筋流れ出た。

しかし、浮かれる34名は誰一人として、その言葉と涙に気付きはしなかった。(T T)

その日の放課後である。

「ケロミちゃん、ダイス君、一緒に帰ろう!」

ケロミとダイス君の下校にブリクサが加わった。

「ねぇねぇ、まいちゃん先生の話、ビックリしたよね」

ブリクサは頬を紅潮させている。

「そだなー。悩むなぁ。中2生活は楽でいいんだよね~。もう1年延長していいんなら、ありがたく中2のままでいてもいいかも~」

「僕も悩む~。Lサイズにはなりたいけど、テストも中3も嫌だからな~」

ケロミとダイス君は思案気だ。

ブリクサは、二人の返答など気にしていない様子でさらに頬を赤くした。心なしか、垂れ目が少しだけ吊り目となり瞳孔が開き気味のようだ。

「僕は、進級テスト受けるよ!」

「え!まじっ!」

「もう決めたのっ!?

いつも優柔不断なブリクサの早急な決断にケロミとダイス君は衝撃を受けた。ガビーン&ガビーン!(@0@)&(@0@)

「だって早く大人になってビールを飲みたいんだもん。だから受ける。塾にも通おうかと思う」

ブリクサがキラキラと輝いて眩しい。心なしか、頭部の発泡が盛んなようだ。アルコール臭が微かに漂った。

「あ、そーだ、早く家帰って家族に言わないと。悪いけど、先に帰るね」

そう言うとブリクサは、「じゃっバイビー」と片手をあげ足早に立ち去ってしまった。

ブリクサの後ろ姿を二人は眩しそうに見送った。

「ケロミちゃん……どうする……?」

「う~ん……

ケロミは、カエル頭巾の目玉部分を撫でた。

「う~ん……、悩むな……

ケロミはカエル頭巾の目玉部分を撫で続けた。大人・中2・大人・中2……。撫でるたびに、ケロミの心の中に、大人になったケロミと中2のままのケロミが増えて行く。そして、心のスペースが大人ケロミと中2ケロミで飽和点に達した時、頭巾の目玉部分がピクリと動いた。ピンときたのだ!

「あ、そーだ!大人達を観察して、中2と大人とどっちがいいか判断しようよ!」

「ナイスあいでぃあ!ケロミちゃん!観察して早く大人になる価値がないなら中2をもう一回すればいいよね!」

ケロミとダイス君はハイタッチをした。( ^_^)(^_^ )

「あ、静田さんだ!」

ちょうどよく大人の静田さんが前方に見える。休診日なのか、ベビーカーに三つ子を乗せて散歩をしている。ケロミ達がいる場所は死角のようで、こちらに気づいていない。

「しず……

ケロミが声をかけようとしたが、静田さんの様子がおかしい。キョトキョトと周囲を見回し、慎重な様子だ。死角で見守るケロミ達以外は誰もいない。静田さんは、安心したように、三つ子をベビーカーから下ろすと、

「さぁ子供達、かけっこだ!」

と言い、自らも四足になり、かけっこをしながら三つ子達とじゃれあいだした。

まるで「ただの犬」のように無心に遊び回る静田さん達。(※静田さんは、犬系シーズー族。ルーツは犬だが、進化した生命体なので犬ではないンです)

「あなたっ!」

怒声が響いた。聞き覚えがある声だ。・ω・

「イヌヨ……!」

静田さんは四つん這いのまま固まっている。

「また、四足歩行になって!」

「ごめんよ……!」

イヌヨさんがズンズンと静田さんに近づいていった。イヌヨさんの毛は逆立ち、静田さんの毛は萎えて震えている。イヌヨさんの犬パンチが静田さんのふかふかの頭部に見事命中したのを見届けるとケロミ達はそっとその場から離れた。

「静田さんて、大人のくせに趣味が片寄ってるよね。いつもイヌヨさんに怒られてばっかだし」

「イヌヨさんだって普段は優しいのに、急に暴力的になるんだよね……。子供の世話も忙しそうだし。大人って大変だなぁ」

二人が、大人になる利点がないとしみじみ感じているところに、追い打ちをかけるようにバイト先へと急ぐ大人になりたての鯖彦兄さんが正面からやってきた。相変わらずキテレツな出で立ちである。鯖型のリーゼントがぷよぷよと風に揺れている。

「あ!ケロミ達!」

「鯖彦兄さん、これからバイト!?

「うん。そだよ」

ダイス君が鯖彦兄さんに質問をしてみた。

「ねぇ、鯖兄さんって成人して大人になったじゃんか?良かったことって何!?

「ほう、ダイス君。良い質問だね。ぼかぁ、大人になって本当に良かった。だって、こんな素敵な格好が似合うダンディさが身についたからね」

その格好は、ダンディというよりゲージツ的。いわゆる爆発寸前の危うさを秘めている。本日のシャツの柄は銀色のペイズリー……?と見せかけ、よく見ると小さな鯖柄。ズボンは脇にたっぷりヒダが付けられたベルボトムジーンズで、両膝には鯖型のアップリケが施してある。スカジャンを羽織っているが、その背中の刺繍は変態中の自身がモデルの巨大鯖で、縦書きで「最高級鯖彦参上!」と刺繍されている。回転寿司屋を喚起させるイキの良さだ。しかし、それらの服を全部自分で作っているのだから、本当にゲージツ的ではある。そして、そんなゲージツ的爆発寸前なナウな鯖彦兄さんは、トレンディに鯖型リーゼントをなでつけた。

……で、そんなダンディな鯖彦に、もち代さんもノックダウンなのさ……

「え!?うまくいったの!?(0o0)(0o0)

……の予定さ……

鯖彦兄さんは、風向きが悪くなったのを察知し急に、

「じゃ!バイトいってきまーす!」

と、リーゼントを揺らしながら走って行ってしまった。

「鯖彦兄さんは、論外だよ……

……だな。……大人以前の問題だよね……。変態中の巨大鯖の姿の方がマシだったのかもしれん……

「成人したからって大人になったわけでもないのかなぁ~」

大人の良さが全く分からないまま、二人はそのまま歩いて行くと、地響きが近づいてきた。微かに「どすこーい」という声も聞こえてくる。

「あ!見習い君だ!」

前から来たのは見習い君を含めた相撲取り族3人組。大中小と並んでやってくる。小さな見習い君は最後尾だ。相撲取り族3人組が町を四股を踏んでやってくる時の理由はアレでしかない。そう「借金取り」だ。相撲取り族の超絶美人な美人山が経営するダイエットセンターで借金をした人々に取り立てに行くのである。以前、ケロミもダイス君もその借金取りの静かな恐怖(=サイレント・ホラー)を存分に味わった。

目の前を見習い君が、ケロミ達に目礼をして四股をふみふみ去って行った。

「修行も大変だよね」

「うん、でも、美人山ってさぁ、美人だけどお金大好きだよね」

「美人だからお金好きなんじゃね?」

「ケロミちゃんお金好き?」

「うん、好き」

「じゃあ違うよ」

「ゴラッ!」

ケロミにドヤされ、したり顔をするダイス君であるが、ふと6の目をケロミに向けた。

「大人って何かヤだね……

……うん」

ケロミも真面目な顔つきになって同意した。

「ねぇ、僕達はさぁ、進級テストはやめて中2のままでいない!?

「私もそう思っていた。他のクラスメートが進級しても私達は中2のままでいようよ」

思わず、二人は微笑みハイタッチ。( ^_^)(^_^ )

ケロミ達の顔は、ただただ純朴ピュアである。

「そうそう、今日は帰りにドリルさんチ行くんだったんだよね」

「うんうん、行こう!」

2のままでいると決めた二人は、心軽やかにドリル氏の家へと向かった。

メゾン・ド・アングラの地下100階の部屋に着き、いつものようにベルを鳴らすと、

「ほにゃ~い」

という、ほにゃらけた声が聞こえた。

「?」

「?」

ケロミ達は、不思議に思った。声質はドリル氏なのだが様子がおかしい……

ドアがゆっくりと開き、ドリル氏が現れた。

「へ!?

「ほへ!?

二人の目の前に現れたドリル氏は、視点が定まらない目つきで呆けた顔だ。ヨダレまでピローンと垂らしている。

驚いたケロミは、ドリル氏の頭の先から、足の先まで視線を上から下に動かした。

……!」

そう、ケロミがドリル氏の足元に視線を移した時、気がついてしまった……。ドリル氏が、地上から5ミリ、浮いていることを……

★★★最終回・おわりとはじまり (2) に続く★★


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第34回、いかがでしたでしょうか?

ドリルさん、怪しい表情で5ミリ浮く姿には既視感が……そういえば、「暗黒六面界」騒動もケロミの修学旅行ボケ・5ミリ浮きが発端だったのでは!?

第28回 暗黒六面界 (1)
2017年生まれの赤ちゃん命名ランキング1位は「ケロ美」だそうですが、本家のケロ美は、修学旅行ボケが抜けきれず、ダイス君を怒らせてしまい…!さぁ、中冒険のはじまりです!(※切手の絵はボケの花)

一体何が起こるのでしょう?

そして、ああ、ツヤツヤだったあのひとの頬に一条の涙。まいちゃん先生の涙のわけは!?

次回なんと、「シメさばケロ美の小冒険」涙の最終回!!

ご感想・作者への激励のメッセージをこちらからお待ちしております。次回どうぞお楽しみに。