第35回(最終回) おわりとはじまり(2)

このお話は、「おわりとはじまり(1)」の続きです。


地上から5ミリ浮いたドリル氏は、呆けた間抜け面のまま、無意識に二人を部屋に招き入れた。ドリル氏は部屋の中に入ってもヨダレを垂らしながらぼんやりと突っ立ったままでR

「ドリルさん、だ、大丈夫ですか?」

ケロミの問いに、

「ほにゃ……

としか答えない奇態さ。心ここに在らずである。その様子に見覚えがあるダイス君は、背後からケロミの肩をグッと強く握った。

「ケロミちゃん……これ、修学旅行ボケに似ているよ……

ケロミは振り返って、ダイス君の6の目を見た。

「え!?そうなの?でも、ドリルさんは修学旅行には行ってないけど……?」

視線をドリル氏に戻したケロミは、自分がこんな状態だったとは……と武者震いをした。

「うん……、ボケ症状は同じでも原因は違うと思うよ。何か楽しいことがあった後に出るんじゃないかな……多分……

「ドリルさんの……楽しいこと……

その時、ドリル氏の独り言が二人の耳に入った。

……ほにゃ……『ドリルまい』かぁ……ほにゃらほにゃ……

ケロミ達はピピーンときた!(**)(**)Oh!ワッショイ!

(ヒント発光米先生のフルネームは『発光米まい』です)

「婚約!」

二人は声を揃えた。

その「婚約」というキーワードに今まで無反応だったドリル氏がピクリと反応した。

「ほにゃ……婚約しちゃった……うふふほにゃほにゃ」

ピッタシおビンゴである。そう、ドリル氏のボケは「婚約ボケ」。あまりにもハッピーでスウィートな気持ちになり過ぎて、ボケ症状を発症してしまったのである。重度の「急性婚約ボケ」であろう。婚約ボケのドリル氏の前で、ダイス君は考え込むように六面体の頭部をクルクルと回し、ピタリと1の目を正面に向けて止めた。

「うん!ボケを治す方法が分かった!ドリルさんを地上に接地させれば治るはずだよ!」

「あぁ!私がヘディングした衝撃で地に足が着いて治ったっつーやつだね!」

修学旅行ボケの詳細を聞いていたケロミはダイス君の提案に合点がいった。

「しかし、ボールがないね……

辺りを見回す二人。確かにボールはない。が、燃料の札束はたくさんある。

「ねぇ、ダイス君、あの燃料を丸めてボールにしようよ」

「お・いいね!」

早速、ケロミ達はテープで固定しながら札束を丸めていった。ほどなくして、サッカーボール大の札束ボールが出来上がった。(※794万円くらい使いました)

「よし、これで治療ができる!」

「目標はドリルさんの頭部だね!よし来た!」

ダイス君が家具をぬって札束ボールでドリブルをし、ケロミにパスをした。ケロミは、その札束ボールを器用に足で扱いながら、ドリル氏に近づいていく。

「ケロミちゃん、行け!ゴールだ!」

ケロミは、ドリル氏の頭部めがけてヘディングした。すると、なんということでしょう!なで肩チャパンに入団できるくらいの素晴らしいヘディングで、ドリル氏の頭部に札束ボールが直撃したのデス!(++)Wow

「おおおおっ!」

頭部のドリル部分に札束ボールがグサリと刺さり、その衝撃でドリル氏の5ミリ浮いた足は、見事、床に接地した。それと同時に、よどんだ目つきに生気が蘇り、口元のヨダレもすばやく口の中にリバースされたのです。良かったです。

「ん?私はどうしたのかな……!?

正気になったドリル氏は、札束ボールを頭に突き刺したまま、明らかに動揺した様子。

「ドリルさん、覚えてないんですか?」

……う、うん」

いつも冷静なドリルさんとは思えない慌てぶりだ。おたおたしとるけん。

「婚約ボケだったんですよ。だから、私達が直してあげました」

「そうそう、ケロミちゃんの修学旅行ボケと同じ方法でね」

事態を理解したドリル氏は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あ、ありがとう、二人とも。浮かれすぎてしまったよ……

ドリル氏の意外な一面を見たケロミ達は、ニヤニヤ顔だ。

「ご婚約、おめでとうございます!」

「まいちゃん先生も嬉しそうですよ」

ドリル氏はさらに照れた。

「ううん。ありがと……

「まいちゃん先生と言えば、僕ら中2をもう1年することにしたんです!」

ダイス君が意味もなく胸を張った。

「え……!?……もしや進級テストのことかな?」

ドリル氏の顔から赤みが消えた。いつもの知的なドリル氏の顔に戻っている。

「ドリルさん知っているんですね。そうです。私達進級テスト受けませーん」

ケロミはおどけてそう言うと、ダイス君とハイタッチをした。(^0^)(^0^)

すっかり冷静に戻ったドリル氏だったが、様子がいつもと違う……。そう、頭部のドリル部分がゆっくりと回り出していたのだ!(一緒に札束ボールも回ります)

「本当かね!?……まいさん……いや、発光米先生はそれでいいと言ったのかい?」

二人は、ドリル氏の頭部が回転しているのを見るのは2回目だ。それは、ドリル氏の心に怒りや憤りの感情がある証拠。ケロミ達は、回転する頭部に慄きながら恐る恐る会話を続けた。

「そ、そうです。自由意志で決めていいって……

「まいちゃん先生がそう言ったから、……だから、……だから私達、楽しい中2をもう1年やるって決めたんです」

ドリル氏の頭部の回転が早まった。(札束ボールもぐるぐる回ります)しかし、表情は変わらない。ケロミとダイス君を正面からしっかりと真剣な顔で見つめている。その視線にケロミ達はたじろぎ、一歩退いた。

すると、自分の頭部のドリルが回転しているのにやっと気が付いたドリル氏は、背中に手を回し、スイッチを触った。すると回転が止まった。そして、あらためてドリル氏は、二人の顔を正面から見据えた。そう、ケロミ達を見つめるドリル氏の瞳は悲しげになっている。もしや失望のため……

「君たちが決めたのなら仕方がない……しかし……

ドリル氏は、そうつぶやくと、その後しばらく無言になりケロミとダイス君を見つめた。見つめられ萎縮していくケロミとダイス君。そんな二人の態度を見て、ふと、元の優しい顔に戻ったドリル氏は、柔和な声色で、しかし断言するように二人にこう告げた。

「今日は、家に帰りなさい」

有無を言わせぬその気迫に「……はい」とだけ二人は応え、ドリル氏の地下100階の部屋から地上へと鶴マシーンに乗って上っていった。

……

……

帰り道、ケロミもダイス君も無言のままだ。分かれ道になったときケロミにダイス君が思いきったように言った。

「思い出したんだ。僕、ドリルさんに進級祝いにスマポをもらうことになっていたんだよ。僕、進級テスト受けるよ。やはりLサイズううん、X-Lサイズにもなりたいし。ごめん、ケロミちゃん……

「え……!?

がびーーん!ぱねぇ衝撃を受けるケロミの衝撃はぱねぇ。ダイス君が一人で進級を決めてしまうなんて……(T T)マ・ジ・カ・ヨ

しかし、自由意志とは個人のもの。ダイス君は自分一人で決めたのだ。そう考えるとケロミは、「一緒に中2やろうよ!」と無理やり説得することは憚れた。

……うん」

首を縦に微かに動かすケロミ。そして、そのまま二人は無言のまま互いに手をあげ別れた。

ダイス君と別れたケロミは、一人思い悩んだ。私も自分一人の意志で決めなくては……。心の中に大人ケロミと中2ケロミが再登場した。大人ケロミは、美人山のようにスレンダーでマワシが似合っている。そして中2ケロミは、今のままの姿で、のんびりと楽な中2生活を満喫している。心の中の二人のケロミを比べると、大人ケロミに憧れる気持ちはあるのだが、中2ケロミの方が身近で楽チンに感じられてしまう。揺れるケロミの中2コゴロ。どーするケロミ!?どーすんのよっ!?

悶々としながら歩いていると、いつの間にか「純餅喫茶★どくきのこ」の横の道に来ていた。勝手口から厨房が見える。中に調理用白衣を着用した鯖彦兄さんがいた。

「鯖彦君、どくきのこの毒抜きも早めにね!」

「はい、分かりました。もち代店長!」

いつもの頓狂な兄ではなく、真剣な面持ちで仕事をしている。ケロミの視線にも気づいていない。そんな仕事に熱中する鯖彦兄さんの目は生き生きと輝いている。天才的シメさば職人の兄が包丁を持つ事、それは本人にとって無上の喜びなのかもしれない。

「鯖彦兄さん……

ケロミがじっと鯖彦兄さんの様子を見ていると、背後から声をかけられた。

「ケロミさん、こんにちは」

振り向くとイヌヨさんがいた。優しいふわふわの笑顔だ。激かわdeR。イヌヨさんは、三つ子をベビーカーに乗せている。子供達は、お昼寝の時間なのかうとうとと可愛らしい様子だ。

「あれ!?静田さんは?」

「ん?桃道さん?今日は休診日だったんだけど、急患の連絡が入っちゃって……、急いで行っちゃったわ。あの人、責任感がある人だからね」

イヌヨさんはどこか誇らしげだ。

「あ、あとケロミさん、さっきこんなチラシもらったの。あげるわ」

手渡されたチラシには、美人山の美しすぎるご尊顔の写真と「美人山チャリティ相撲」の文字が印刷されていた。入場料は全額寄付とも記載されている。引退した美人山の四股踏みがもう一度見られるなんて、きっと大勢の人々が殺到するだろう。ケロミはチラシを凝視した。

「じゃあ、ケロミさん、また遊びに来てね」

「はい!もちろん!」

イヌヨさんは、優しい子守歌を歌いながら、ベビーカーを押して去っていった。

……

ケロミは、不覚にも「大人もいいかも……」と思ってしまった。うううん!でも、やはりテストも責任も嫌いだ。仕事なんてしたくない。しかも、卒業式に窓ガラスを壊してまわるような中途半端に大人の中3なんてもっとイヤだ!楽チン気ままな中2がいい。いくら他のクラスメートが進級したって、私だけは中2のままでいるんだ。ダイス君なんて裏切り者だ!そう、次第にケロミは意固地な気持ちになっていった。

進級テストまでは1週間あった。ケロミは、いつも通り学校に通ったが、ダイス君と進級の話をしないようにして過ごした。ダイス君の何か物言いたげな21個の目を避けるようにしていたのだ。ケロミは、「中2のままでいるもん!」と思いながらも心の奥底では煩悶し続けていたが、それを打ち消すように「中2サイコー!」と強く思うようにしていた。そして、早くも進級テストの前日となってしまった。

ケロミは、ダイス君とブリクサとの下校中、鈍い声色で神妙に言った。

「ブリクサ、明日の朝のダイス君の転がしをお願いしてもいいかな?」

「明日、来ないんだね……

ブリクサは垂れ目をさらに垂らしている。頭部の炭酸も勢いがない。気が抜けたまずそうなビールである。ダイス君は、ずっと下を向いたままだ。

……うん、多分」

ケロミは目を伏せながら応えた。

するとダイス君が急に顔を上げた。

「ケロミちゃん……、いっ……!」

ダイス君が切羽詰まった声でケロミに話しかけたとき、ケロミは、振り切るように、

「じゃあ!先帰る!」

と両耳を塞いでブリクサとダイス君を残し走ってその場を去ってしまった。

「ただいま……

帰宅したケロミは、カエル頭巾が淀んだ色になっている。そんなケロミに、母サニ江は一枚のハガキを手渡した。

「おかえり、ケロミ。ハガキが届いているわよ」

母は、ケロミの手にハガキを握らせると、ケロミのカエル頭巾を優しく撫でた。もちろん母にも進級テストの事は伝えてある。しかし、「自由意志」を尊重しようという父母の考え方で、ケロミ本人の気持ちで決めてよい、口出しはしない、ということになっていた。

……うん」

手に握られたハガキは、花びら型だった。ん?花びら型!?……Who?誰から?From Yonko!そう、よんこからだ!(^0^) ホテル暴風雨からの便りである。いつものように楽しそうなキノコフェイスのよんこの自画像が描かれている。安穏とした雰囲気の中に刺激的な楽しさのフレーバーも感じられる。中2の修学旅行の楽しさが蘇ってきた。また、修学旅行に行きたい!強い気持ちがモリモリむくむく盛り上がってくる。

……やっぱ中2がいいなぁ」

ケロミはそう思いながら、よんこからの手紙を読み始めた。ケロミの心の中には、ホテル暴風雨で過ごした楽しい日々が次々に蘇る。「超絶楽しかったな……」ケロミは、心からそう思った。そして、ケロミはさらにハガキを読み進めた。

……

ハガキの隅々まで全て読み終えた時、ケロミは、花びら型のハガキを自身の胸に押し当てた。ホテル暴風雨にいるよんこからのメッセージがケロミのハートに直接響いてくる。

……!」

しばらくして、ケロミは両目をしっかりと見開いた。

ケロミは、ついに決意した。

そして、翌日。進級テストの日、当日でR

157組のクラスは、33名の生徒が既に座っている。

あと一人足りない。そう我らが主人公ケロミがいないのだ。

「シメさばさん……欠席……

発光米先生の顔のアルファ化がまた始まっている。テストまであと3分。時計の針はチクチクと無情にも進んで行く。

「ギリギリまで待ってみましょう」

あと2……。発光米先生は目を閉じた。ダイス君は、窓の外を見つめ六面体の頭部を回転させている。

……あ!」

ダイス君がポツリと言った。頭部の回転が止まり、窓に向けられた赤い1の目が大きくなっている。

「もうすぐですね……

時計の針は進む。あと1……

その時、ガラリと勢いよく教室のドアを開ける音が教室に響いた。

「すみません!遅くなりました!」

ケロミである!(#^0^#)

「もぉ!シメさばさん遅刻ですよ!」

怒りながらも満面の笑みで、一気にほかほかの蒸気を出す発光米先生にケロミは、「昨夜興奮して眠れなくなって……寝坊しちゃいました」と言い訳をして、ぺこりと頭を下げた。

クラスメート達も、「おぉ!」「全員揃った!」とケロミの到着を歓喜してくれている。ありがとう、みんな!

急いでダイス君の隣りの席に着いたケロミに、ダイス君が1の目を向けた。

「ケロミちゃん!来てくれたんだね!嬉しいよ!」

ケロミは、ニッと口角をあげて笑うと、そっとリュックの中から一枚の花びら型のハガキを出し、ダイス君に見せた。

「見て」

「あ・よんこちゃんからのハガキじゃん!なになに……『ケロミちゃん、お元気!?修学旅行で来てくれてありがとう!また来てね……』」

「こっちも読んで」

ケロミは、小さな文字で書かれた追伸文を指差した。

「ここね……『ケロミちゃん、よんこはとうとう脱皮することにしました。新しい世界に踏み出すよ』って、脱皮ってなんだろう!?

「よく分からないけど、よんこちゃん、……新しい世界……先に進もうとしているみたい」

ケロミのカエル頭巾がエメラルド色に輝いている。ぱねぇ輝きだ !

「だから、私も、先に進もうと思う。修学旅行もまた行きたいけど、ダイス君やクラスのみんなが一緒にいなきゃ意味ないしね」

そして、ケロミは、下手くそなウインクをダイス君に投げた。

「やっぱりマワシが似合う美人になりたいし!」

「僕も、スマポも欲しいし、難しい本ももっと読みたい!X-Lサイズにもなりたい!」

発光米先生が、テスト用紙を伏せながら配り始めた。

「西郷君、シメさばさん、おしゃべりしないっ」

と怒って言ったが、満面の笑みだ。そして、その晴れやかな顔の発光米先生の瞳から涙が一筋流れたが、テスト用紙を前にした生徒達は誰一人としてそれに気がつかない。

「ベルが鳴ったら、進級テストスタートです」

発光米先生は、そっと涙をぬぐって言った。

ケロミは、すばやくダイス君とハイタッチ。(^^)(^^)

それと同時に、昭和ヶ丘中学校の球体の校舎に始業のベルが鳴り響く。

「では、始め!」

ケロミは、伏せた進級テストを表に返し、HBの鉛筆を固く握った。

~「シメさばケロ美の小冒険」おしまい~


あとがき

1年と4ヶ月、私の稚拙な文章におつきあい頂きありがとうございました。行き当たりばったりの部分も数多くあり、それを悩み、かつ、楽しみながら書いてきました。そして、連載の日々は、常にケロミちゃんと共にありました。この最終回、ケロミちゃんにサヨナラをうまく言えたかどうかは分かりませんが、一歩踏み出す事を決め成長したケロミちゃんに負けないよう、私も前を向いて新しい物語や絵を作り続けていきたいと思います。

発表の場を提供してくれた風木一人オーナー、いつも私に寄り添い励ましアドバイスをくれた斎藤雨梟オーナー。お二人に、心からの深い感謝の気持ちを贈りたいと思います。そして、何よりもPCやスマポ画面の前の読者の皆様、本当にありがとうございました!

しばらくお休みをいただき、次回は新しいお話を発表できたらと思っております。

さようなら!また会う日まで!お元気で!ありがとう!ぱねぇ!(^0^)/

2018320()

浅羽 容子


*お知らせ*

412日~24日のホテル暴風雨2周年記念展で、フリーペーパー「惑星新聞」を(多分)発行予定です。こちらに特別番外編・スピンオフとして、ダイス君のお話を(多分)掲載致します。会場にいらして、惑星新聞を(絶対)手にいれてください!


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」最終回、いかがでしたでしょうか?1年4ヶ月のご愛読、本当にどうもありがとうございました。

ドリルさん、背中にもスイッチあったんだ……というのはさておき、ついにケロミたちともお別れかと思うと涙が止まりません。でも、ホテル暴風雨に滞在中の浅羽容子ことシメさばよんこさんもついに脱皮なのです!我々も笑顔で門出を祝おうではありませんか!!

ありがとう、ケロミ、またホテル暴風雨へ遊びに来てね!

ケロミのバックナンバーまとめ読みはこちらからどうぞ。

日常これすなわち小冒険。シメさば屋三女「シメさばケロ美」と仲間たちのお話です。

ご感想・作者への激励のメッセージはこちらからどしどしお待ちしております。

新連載もどうぞお楽しみに。