降魔表 ~我々は如何にして悪魔の軍団を退けたか by夾山禅師 1/3話(出典:碧巌録 慧芳附刊「夾山無礙禪師降魔表」)

※筆者注記
「表」とは、天子に対して状況等を報告するための儀式的な文章、つまり上奏文のことです。
この「降魔表(ごうまひょう)」は、その形式に則って「悪魔を滅ぼした」ことの顛末を報告するものです。


降魔表 ~我々は如何にして悪魔の軍団を退けたか by夾山禅師 1/3話

ご報告申し上げます。

元々、この世界は限りなく平和でした。

それぞれ声聞・縁覚・菩薩と名付けられた三つの大通りは広々として渋滞知らずでラクラク目的地まで行くことができたし、智慧という名の海も実におだやかに凪いで舟もスイスイとゆくことができたのです。

ところがある時、悪魔の軍団が突如として攻め込んできました。

丹精込めて耕作し、あとは収穫を待つばかりだった「心」と呼ばれる田んぼや畑は、やつらに散々に踏み荒らされてしまいました。

なかでも「眼、耳、鼻、舌、身、意」と名乗る悪魔六将軍の勢力の強大なことといったら、「心」王様も、ただもう驚きとまどうばかり。

夜明けとともに百の「納得いかないこと」が降りそそぎ、日暮れと同時に「よこしまなこと」が千も横行するにあたっては、「ただあるがまま」を標榜する「真如」も、「全宇宙の真実」をうたう「法体」も、苦しみ逃げ惑うという有様。

「菩提」と呼ばれる目抜き通りは分断され、皆の憩いの場である「涅槃」公園は破壊され、国宝に指定されていた3つの塔「仏」「法」「僧」もメチャクチャにされました。

「無為」という名の宝珠はことごとく盗まれ、「正しい教え」という名の財宝も全部略奪されてしまったのです。

「煩悩」という名の粉塵が大量に舞い上がって太陽を覆い隠し、あちこちで「欲」という名の炎が燃え上がって天を焦がし、威厳ある「法城」は激しい振動を受けて崩れはじめ、美しい「聖境」は見る見る焼け落ちていきます。

私はこのような暴虐行為を眼にして「このままではヤバイ!」と思いました。

そこで私は争乱解決のプロである「布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧」の六人に連絡を取り、これに対抗することにしたのです。

まず、誰にも気づかれずに任務を遂行する能力を持つ「性空(しょうくう)」を密偵として送り込み、敵情を探らせました。

彼の報告によれば、敵の勢力は八万四千ばかりであり、「五蘊(ごうん=全物質要素・全印象感覚・全心理的表象・全心理作用・全精神活動)」という山に集結しているとのこと。

それがわかれば、打ち手は即座に決まるってもんです。

(つづく)


<漢訳原文>
夾山無礙禪師降魔表(慧芳附刊)
臣聞。三乘路廣。法界無涯。智海晏清。
十方安泰。時有魔軍兢起。侵撓心田。六賊既強。
心王驚動。朝生百怪。暮起千邪。撼惑真如。
困勞法體。菩提道路。隔絕不通。破壞涅槃。
傷殘三寶。無為珠玉。悉被偷將。大藏法財。
皆遭劫奪。塵勞翳日。欲火[一/旦]天。飄蕩法城。
焚燒聖境。臣乃見如斯暴亂。恐佛法以難存。
遂與六波羅蜜商量。同為剪滅。遣性空為密使。
聽探魔軍。見今屯在五蘊山中。有八萬四千餘眾。
既知體勢。計在剎那。