鉄の牛 5/7話(出典:碧巌録第三十八則「風穴鉄牛機」)

風穴和尚が役所の依頼で講演会をした時のことです。

和尚は言いました。

穴:「いいかオマエら!
ワシらが代々受け継いできた禅の真髄は、いわばハンコのようなものだ。
そしてそのハンコは鉄でできた牛のごとき凄まじいパワーを秘めている。

そのハンコを自分のものにするためには、ハンコから離れようとしなければならない。
そして、そのハンコは自分のものにした途端、壊れてしまうのだ。
さて、ここで諸君らに質問しよう。
離れようとも自分のものにもしようとしないようなヤツに、そのハンコを捺してやるべきか否か?」

すると聴衆の中にいた年長格の弟子である盧陂(ろひ)長老が進み出て発言しました。

陂:「ハイっ! 私こそが「鉄の牛」です! 先生、私に絶対ハンコなんか渡さないでくださいね。絶対にですよ!!」
穴:「・・・巨大なクジラを釣り上げて海をスッキリ澄みわたらせるのがワシの得意技だというのに、なんだい、今日はカエルが勝手に転げ出てきやがっただけか!」

盧陂長老が返答に窮しているのを見た風穴和尚は怒鳴りつけました。

穴:「こら! なぜ黙っている!? なんとか言ってみやがれ!!」

盧陂長老がマゴマゴしていると、風穴和尚は払子で引っ叩きながらどやしつけました。

穴:「そもそもワシらは何の話をしていたんだ!? さぁ言ってみろ! オラオラオラっ!!」

必死に何か言おうとする盧陂長老に対し、さらに払子でツッコミを入れる風穴和尚。

それを横で見ていた地方長官が言いました。

長官:「ほう! 仏法って国家を統治するのと同じやり方をするんですね!」

風穴和尚は言いました。

穴:「ほう、きいた風なクチをきくじゃないか。なんで仏法が国家統治と同じなんだ?」
長官:「適切なタイミングで処理しないと、トラブルが大きくなるところが同じです。」
で、それを聞いた風穴和尚は黙って演台から降りて帰ってしまったとか。

さてさて、絵に描いたような「岡目八目」ですが、この長官は果たして本当にわかっていたのでしょうかね?


―――――つづく

☆     ☆     ☆     ☆

※超訳文庫が電子書籍化されました。第1弾は『超訳文庫アングリマーラ Kindle版』(定価250円)です。どうぞよろしくお願いいたします。〈アングリマーラ第1話へ〉