酒カス野郎 2/7話(出典:碧巌録第十一則「黄檗酒糟漢」)

黄檗和尚が初めて師匠の百丈和尚のところに来た時の会話です。

丈:「おやおや、こりゃまたご大層なヤツが来たな。いったい何処から来たんだ?」
檗:「ご大層にも山の中から来たんですよ!」

丈:「で、いったい何をしに来たんだ?」
檗:「いったい他に何があるというのですか?」

これを聞いた百丈和尚は久しぶりに鍛え甲斐のありそうなヤツが来たということで密かに喜んだのですが、なんと次の日になると黄檗和尚が別れの挨拶にやってきました。

丈:「来たばかりなのに忙しいヤツだな・・・ で、今度はいったい何処へ行くつもりなんだ?」
檗:「あの有名な馬大師を拝みに行こうと思うのです。」
丈:「・・・馬大師がお亡くなりになったというのは世界の常識だと思っていたのだが。」
檗:「なんと! 一度お会いしたいと思っていたのに残念です・・・ 馬大師はいったいどんな教え方をする人だったのでしょうか?」
丈:「ワシがかつて馬大師に会いに行った時のことだ。馬大師はワシを見ると黙って払子を立てて見せた。で、こう仰ったのだ。「オマエさんはコレを使うのか?それとも使わないのか?」、と。
ワシが黙ったままなのを見た馬大師は、払子を置いてしばらく黙っておられた。で、今度はこう仰った。「オマエさんはその唇をプルプル震わせることで何か人の役に立てるとでも思っておるか?」、と。
私が払子を取って立てて見せたところ、馬大師はまた「オマエさんはコレを使うのか?それとも使わないのか?」と仰った。
私が馬大師のマネをして再び払子を置こうとしたところ、馬大師はいきなりもの凄い大声でワシを一喝したのだ。で、ワシはその後三日というもの、全く耳が聞こえなかったというわけだね。」

この話を聞いた黄檗和尚がすっかり恐れ入ってしまったのを見て、百丈和尚が声をかけます。

丈:「なあオマエ、馬大師の芸風を継いでみないか?」
檗:「いや、お断りします。馬大師の芸風の凄まじさはよくわかりましたが、それをそのまま受け継いでしまったら、かえって伝統が途絶えてしまうと思うからです。」

丈:「うむ、流石だな。師匠をまるまる受け継いだのでは半分しか伝わらなかったと考えるべきなのだ。師匠を超えるぐらいでないととても後継者にはなれん。・・・オマエならやれるんじゃないかな。」

これって、ひょっとしたら黄檗和尚は馬大師が亡くなっているのを知った上でわざと話をふったんじゃないでしょうかね?

で、また別の日に黄檗和尚が百丈和尚に尋ねました。

檗:「後進の弟子たちを教え導くにはいったいどうしたらよいのでしょうね?」
丈:「・・・・・・」
檗:「教えが断絶しないようにすべきなのですよね?」
丈:「なんだ、ワシはオマエこそ後継者の器だと思っていたのだが、その程度なのか・・・」

で、百丈和尚は部屋に帰ってしまったということです。

―――――つづく

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