塵ひとつ 2/4話(出典:碧巌録第六十一則「風穴若立一塵」)

風穴和尚は臨済和尚の弟子筋ですので、まわりくどいことは一切言わずに真実をズバリと指摘します。

で、さらにこう仰るのです。

「たとえ塵ひとつのような小さなものでも、それがしっかりと定まったならば、厳然と統率のとれた法治国家のごとき世界が成立する。
で、田舎のジイさんは顔をしかめるというわけだ。」

「整然と統率の取れた法治国家」自体はもちろん悪くないですが、住み心地がよいかといわれると、あるいは人により色々あるかも知れません。

伝説によれば、麒麟や鳳凰が出現するようであれば、その世界は真に素晴らしい太平の治世だと証明されたことになるのだといいますが、都市部ならいざ知らず、新聞もTVもないようなド田舎で自由気ままな生活を送る老人にとって、そんなこと知る由もありませんし、正直なところどうだってよいことです。麒麟も鳳凰の出現も、むしろ迷惑なことでしょう。

真の自由人にとっては、「法や国家の枠組」など余計なお世話以外の何ものでもありません。

「塵ひとつですら定まらず、整然と統率のとれた法治国家が成立しない」世の中の、なんと清々しく爽やかなことでしょうか!

洞山和尚の門下では、これを「転変」と呼びます。

この境地に到ると、「仏」もなければ「衆生」もなく、「是」なく「非」なく、「好」なく「悪」なく、「音」もたたなければ「響」もなくなります。

黄金は有り難いものですが、眼に入ったらかえって物ごとが見えにくくなりますし、高価な宝玉であっても服の襟元に縫い付けられたらジャマなだけです。

自らを縛る「頑なな自我」を粉砕して自他の区別をなくすることこそが禅の大目的ですが、はて、そうなった時にはもはや「仏」とか「祖師」とかの概念は成立しないんじゃないでしょうかね?

―――――つづく

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