ホテル暴風雨の歴史は古い。

このところやや騒がしい。
ホテルスタッフも妙に浮き足立っている。
ホテル暴風雨は本来そういうホテルではないのだ。

まあ、いろいろなことは起こる。
世間の常識からすれば「とんでもない」と表現すべきことがじつに空気のようにさりげなく起こってくれるのだが、それをそういうものとして、淡々と、かつ楽しみつつ受け入れるのが、テンペストさんはじめ暴風雨スタッフの、そしてわれわれ常連客の習いであったはずだろう。

それがどうしたことか。
いやいや理由はわかっている。

サイトのせいだ。

4月1日、ウェブサイト「ホテル暴風雨」がオープンした。
サイトは正にできたてだが、ホテルそのものは昨日今日できたものではない。
むしろいつからあるかわからないくらい古い。
わたしが初めて訪れたのだって20年前だ。

わたしには叔父がいた。
叔父は真の意味でメトロポリタンであった。
彼には国境も人種もなかった。
宗教も言語も彼の自由をさまたげはしなかった。
少なくとも20ヶ国語を話し、すべての海を渡り、すべての大陸で暮らした。
生涯、定まった家を持たなかった。
いや世界中が彼の家だったというべきだろうか。

その叔父が唯一いささかなりとも執着を見せた場所、世界中どこにいても同じではなく、そこにいることに何か特別な意味があると認めた場所が、

ホテル暴風雨だ。

叔父がいなければ、わたしがこのホテルを知ることはなかっただろう。

ホテル暴風雨はその長い歴史を通じて、宣伝の類をしたことがなかった。
訪れた客の口コミだけが、その存在を知る糸口たりえたが、あまりにも風変りなホテルのため、口コミは自然と怪しげな風味を帯び、妄想か冗談と思われ、宿泊客増加にはさほどつながらなかった。

まさに、知る人ぞ知るホテルだったのだ。

今になってなぜウェブサイトなど作ったのか、わたしにはよくわからない。

まあ、これも時代というものだろうか。

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