テレビ君(前編)

通称「テレビ君」という新型ロボットが開発、発売されると世界中で話題になり、何百万台も売れた。

「テレビ君」は次世代の新型ロボットで、勿論テレビも見る事も出来れば、ゲームもでき、インターネットにも繋がるし、なにより人間の言う事をよく聞くロボットだった。
大人にも人気のあるロボットだったが、特に子供に人気のあるロボットだった。大人達は仕事で忙しかったので、テレビ君は子供の子守り代わりにとても重宝されたのだ。
テレビ君は子供の言う事を聞くようにプログラムされていたので、大人は安心をして子供を家に残し外で仕事をする事が出来たのだった。

「ねえ、テレビ君、とても退屈だよ」
と子供が言うとテレビ君は
「ぼっちゃん、じゃあこんな番組はどうですか?」と言い、子供の好きなテレビ番組を子供に見せるのだった。
特に兄弟の居ない一人っ子の子供はテレビ君をとても大事にした。
「ねえ、ゲームをしようよ」と子供が言うと、テレビ君は子供相手に人気のテレビゲームをして遊んであげるのだった。
なにしろ、テレビ君は人間のように疲れるということを知らず、電源さえあればいつまでも子供の相手が出来るのだ。
子供は次第に外で遊ばなくなり、家の中でテレビ君と遊ぶようになった。

数年経ち、次世代のテレビ君が開発、発売された。
新型のテレビ君は料理をする事も出来た。
データさえあれば、子供が好きな料理をなんでも作る事が出来たのだ。
次第に母親は家で料理をしなくなった。
世界中で新型のテレビ君は売れ、各家庭に一台のテレビ君が置いてあるのが当たり前になったのだった。

ある共働きの夫婦が居た。
夫婦はとても忙しかったので、テレビ君が子供の世話をしていた。
子供の父も母も家に帰ってくるのが夜遅いので、テレビ君が子供の食事を作り、テレビを見せたりゲームをして遊んであげていた。
子供は学校にも仲のいい友達が居なかったのでテレビ君が子供の友達だった。
テレビ君は毎日子供にアニメを見せたり、インターネットで世の中の面白い事を見せて過ごしていた。

ある日、事件は起きた。

テレビ君は子供に、外に出て冒険をする事がとても大事だと教えたのだ。
子供はテレビ君のことをとても信頼していたので、家を出て冒険をする事にした。
子供は家の近くの山まで冒険をしに行ったのだった。
それはとても楽しい冒険だった。
夕暮れ時まで子供は山で遊んでいた。
「もうそろそろテレビ君が食事を作っている頃だな」と考え子供は家路についた。
もうすっかりと暗くなりかけている時間だった。
子供は急ぎながら道を歩いていると、足を滑らせ道の脇に流れる川に落ちてしまった。
両親が家に帰ってくると、我が子が家に居ない事に気が付き警察に捜索願いを出した。

翌朝、子供は水死体となり町に流れる川で発見された。
マスコミを通じ、この事件は国中の話題となり、大問題へと発展していった。
ロボットが人を死に追いやったのは前代未聞だったのだ。
政府は「テレビ君調査委員会」を発足し、徹底的な調査をする事となった。

調査の結果、他のテレビ君には構造的にも内蔵ソフトにも不具合が無い事が分かり、調査委員会は問題のテレビ君に法廷に出廷するよう要請した。
裁判が開かれる事になったのだ。

被告人は、子供を死に追いやったとされるテレビ君だ。
国中が裁判の行方に注目した。
裁判の模様はマスコミを通じ全国に放送された。

裁判官は被告人席に座るテレビ君に言った。
「被告人、立ちなさい。君の製造番号を言いたまえ」
テレビ君は立ち上がり言った。
「はい、裁判長、私の製造番号はTC-0225897001、通称テレビ君です」

――――つづく


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