兄さんは悪者になった3

小さな女の子に、そのように言われ悪党のボスはギョッとした。
「・・・・なんだと、どうして私が悪党だと分かる?」
「え~?いくら変装をしていても、それぐらい分かるわよ!」
「だとしたら、何故私のサインがほしいのだね?」
「だって、あなたはとても良い人だから・・・」

それを聞き、悪党のボスは顔を真っ赤にして怒り出した。
「私は悪人だぞ!!お前の親はいったい、どーゆー教育をしているのだ?!おじさんはな、とても怖い人なんだぞ!」
「私は怖くないわ。おじさんの顔はとても怖いけど、目がウチの犬と同じなの」
「・・・・犬、だと!?」
「私の犬がお留守番をしていて、私が帰ってきた時の目と同じよ。とても嬉しそうなの。おじさんは、誰かの為に悪い事をしているのね?そうでしょ?」

悪党のボスはその場を走りながら後にし、罵詈雑言、憎しみの言葉を叫んだ。
憎い!
にくい!
弟よ私はお前が憎いぞ!!
もっともっと、お前を憎んでみせよう!!

悪党のボスは町でテロを決行する事にした。
「テロで町の住人を恐怖のどん底に落としてやる! そしていかに正義が無力か、思い知らせてやろうぞ!」

悪党のボスは外国のテロリストから高性能小型爆弾を仕入れた。
悪党のボスは、夜中に子分を引き連れ、町の中心にそびえ立つ高層ビルに忍び込み、爆弾をビルの屋上に設置した。
爆発すれば、何千人もの市民が瞬時にして犠牲になる計算だった。
ボスが爆弾のタイマーを入れようとしたその時、空からヘリコプターだか飛行機だか見分けが付かない飛行物体が現れ、一味に向けサーチライトを浴びせた。
飛行物体からブーメランのような物が飛んできて、悪党の子分たちがそれになぎ倒された。

ボスは苦笑しながら言った。
「ヤツか!・・・現れたな!」

正義の味方は飛行物体から飛び降り、マントをひるがえしながら、ビルの屋上に着地した。
「ようやく会えたな、悪党のボス!
・・・今回のお前の行動はこちらに筒抜けだったよ。 お前にしては随分とずさんな計画だったな!」
「それ以上近づくな!!爆弾のスイッチを入れるぞ!」
「どうしてだ?何故こんな事をする?!」
「正義が憎いからだ!!」

その叫び声を聞き、正義の味方は悪党のボスの顔をじっと見た。
「お前とはどこかで会っているような気がするのだが?」
「お前は忘れているだろうが、私はお前の事をよ~く知っているよ。誰よりも、おまえの事を知っているぞ!」

屋上のドアが開き、テレビカメラを従えた人々が現れた。
テレビニュースのクルーだった。
リポーターが実況中継を始めた。
「全国の皆さまっ!見て下さい!とうとう正義の味方が、悪党のボスを追いつめたのですっ!
世紀の瞬間です!!せーきの大瞬間なのです!
あっ、あっ、あっ、あれはなんでしょうか?!
爆弾!!大変です!
悪党のボスが爆弾のスイッチを握っています!! 危機一髪!!
さあ、我らがヒーロー正義の味方はいったいどーするのでしょう か?!
しかし、なんだか地味です!!二人は戦う事無く、にらみ合って言葉を交わすのみです!!
映画のように、アクションが繰り広げられる訳でもありません!!
実に、実に地味です!!
あっ、あっ、あっ、悪党のボスがこちらに近づいてきました!!
なんでしょうか?いったい私に何の用なのでしょうか?
今っ、悪党のボスが私の目の前に止まりましたっ!!スイッチを握ったままです!!」

「・・・・おい、あんた。我々は今とても重要な話をしている。ここから消え失せな!さもないと、このスイッチを押すぜ」
「悪人のくせに、なんてかってな言い分なのでしょーか?!悪党が今私をきょーはくしています!!正義の味方、助けてください!!」

正義の味方はそれを聞き、リポーターを睨みつけて、言った。
「そのとおり、我々はとても重要な話をしている。ここから出て行ってもらおう!!」
リポーターは不審そうな表情を浮かべたが、正義の味方のいう通りに、その場を去る事にした。

強い風が吹くビルの屋上で、悪党と正義の味方は二人きりになった。
やがて、正義の味方が口を開いた。

「どうして私を憎む?いや、なぜ正義を憎むのだ?」

――――つづく

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