花火師2

花火師は胸元のポケットから、ニコチン30mgのタバコを取り出し、火をつけた。そして花火師は深々とその煙を肺の奥深くまで吸い込み、煙を吐き出し言った。
「・・・お前にはまだ話していないが、今晩そのライバルと対決する事になるかもしれん」

弟子はきょとんとして師匠の顔をみつめた。
「今晩?その凄腕の花火師はここに来ているのですか?!」

弟子はトラックの最後尾に積まれている大きな箱を思い出した。
きっとその箱に勝負花火が入っているに違いなかった。

右手の指にタバコを挟みながら、花火師はニヤリと笑った。
「向こうの方から対決する場所を指定してくるはずだ。ワシは何十年もこの時を待っておった・・・・」

観客の盛大な拍手を受け、今宵も花火大会が終わった。
花火師と弟子は主催者から謝礼を受け取り、会場を後にした。

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花火師の弟子はハイウエイのサービスエリアにトラックを止め、師匠が電話ボックスから出てくるのを待っていた。

時計は丁度深夜0時を指していた。
夜空には月が無く、明かりといえば瞬く星とハイウエイを照らすオレンジ色の明かりだけだった。

電話ボックスを見ると、師匠が電話ボックスから出てきてトラックに向って歩いていた。花火師がトラックの扉をガチャンと開けると言った。

「場所を指定してきたぞ。ワシの言うとおりに道を走らせろ!」

トラックはハイウエイを出て、人里離れた山道を走った。
道の脇には、暗くて見えないが川が流れているようだった。
時計を見ると、深夜1時を回っていた。

「先生、どうしてこんなへんぴな所で花火を打ち上げるんですか?本当だったらもっと広い空間が無ければいけないのですが・・・・」
ガタガタと揺れるハンドルに気を取られながら、弟子は師匠に聞いた。

「分かっておる、分かっておる。しかしこれから打ち上げようという花火は十五尺の玉なのだよ」

「十五尺?!そんな巨大な花火は聞いた事ありませんよ!!」

「そう。だからなるべく人の目に触れたくないのだよ。なんせ違法だからな。ワシは密かにこの花火を5年がかりで作っていた。恐らくワシの最高傑作だろう・・・・・」

花火師はトラックの助手席から身を乗り出し、外の様子を伺った。
「お、この場所だ!トラックを止めたまえ」

弟子がトラックを道路の脇にに止め、ヘッドライトを消すと、暗闇が二人を包んだ。
花火師は何も言わず、トラックを降り十五尺玉と打ち上げ用の筒を背中に担ぎ、道路の脇にある獣道へ向かった。
弟子は慌てて、懐中電灯をつけ、師匠の後を追った。

人里離れた山道を花火師と弟子は歩いた。
しばらく歩くと、急に道が開け、周りの山々が見渡せる小高い丘の上に二人は居た。

花火師はハアハアと息を切らせ、腰を草むらの中に下ろした。
そして、性懲りも無くタバコに火をつけ、煙をくゆらせた。

しばらく休むと、二人はさっそく十五尺玉の花火を設置する作業に取りかかった。
その間、花火師はしきりに風向きを気にしていたが、無言で黙々と花火の玉を筒に詰め込んだ。
作業が終わり、懐中電灯の明かりを消すと周りは真っ暗になった。
まるで宇宙に浮かんでいるかのように、星空が見渡せた。

都会ではけっして見る事の出来ない満天の星空だった。
頭上を見ると天の川がくっきりと見え、大気の密度の影響で星々が揺らいでいるのが分かった。

しばらくその星空を眺めていた弟子は花火師に聞いた。
「・・・・先生、本当にこんな所までライバルは来るのですか?」

その日、38本目のタバコに火をつけ、花火師は言った。
「もうお前にはワシのライバルは見えておるよ」

「はい?先生、ここにには私たち以外には誰もいませんが・・・・」

しばらく間をおき、花火師はタバコの煙を吐き出した。
「君がさっきから見ておる、あの星空じゃよ。ワシのライバルはお前が見ておる星空だ」

「・・・・・ちょっと待ってください!さっき先生は電話ボックスで誰と話していたのですか?まさか先生は星空と電話で話していた、と言うんじゃないでしょうね?」

弟子の問いには答えずに花火師は言った。
「星空ほど、この世で美しい物は無い。優秀な花火師が何十人かかってもあの星空には及ばぬ。そうだろう?」

弟子は花火師になんと答えていいか、分からなかったので、相手の語るに任せた。

「・・・・幾千幾万と輝くあの星々に、若い頃、ワシは嫉妬した。
この宇宙の広大さ、美しさに比べれば、ワシの作る花火のなんとちっぽけな事か。
ワシはいつかは、あの星空を負かす程の花火を作ろうと心に決めたのだ! 」

弟子の顔は暗くて見えなかったが、きっと困惑をした表情をしていたに違い無い。
このまま、師匠をここに残し、山の麓へ帰るべきかどうか考えていると、花火師は静かに言った。

「この宇宙が作り出す星々の美しさに、人間は敵う事はないのか?それとも、人々の作りだした英知で、少しは宇宙を屈服させる事が出来るのか?
・・・・ワシは今日、その決着をつける!」

――――続く

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