ワインシュタイン博士の長い一日<9> by クレーン謙

森の中から響き渡るライオンの遠吠えを聞いたオウムは、ワインシュタインに告げた。
「作戦は成功したようだ。今のうちに、侵入しよう!」

ロケット発射台が見渡せる高台に潜んでいたワインシュタインとオウムは高台から降り、 銀色にそびえ立つロケットへ向かった。
途中、動物の襲撃を受け息絶えていた兵士がいたので、ワインシュタインはそばに落ちていた自動小銃を拾い上げた。

ロケットを取り囲んでいた兵士たちは皆、森の中へ行ったので、警備は手薄になり、誰もワインシュタインの侵入に気がついていないようだった。
ワインシュタインがロケットを見上げると、そこには「カネスキー宇宙財団」というロゴが書かれていた。
側には、液体燃料をロケットに注入しているタンクローリーが停まっていた。

ワインシュタインはオウムに言った。
「もし、おまえの言っている事が本当だとすれば、この日に備えて動物たちは自ら化石燃料になり、ロケットの推進剤になったのだな」

「博士、そのとおりだ。だから何も無駄にはできないのだよ。死んでいった動物たちの為にも、私たちは隕石をなんとかして、地球を救わなければいけない」

ワインシュタインは半信半疑でオウムの話を聞いていたが、しかしここまで来たからには作戦を成功させなければいけない、と覚悟を決めていた。
ロケットから30メートルほど離れた所には、管制塔らしき建物が建っていて、最上階では明かりが灯っており人影が動き回っていた。

オウムは羽ばたき、中の様子を見る為、管制塔の最上階まで飛んだ。
ワインシュタインの元に戻ったオウムは言った。
「2名いる。そのうちの一人は恐らくカネスキーだ」

ワインシュタインは自動小銃を握りしめ、管制塔の中へと入っていった。
ワインシュタインとオウムは最上階まで駆け上がり、管制室の扉を開けた。
管制室にいた二人は驚いてワインシュタインの事を見た。

もう一人の男は恐らく、管制官なのだろう。
管制官とカネスキーは、ロケット打ち上げの最終打ち合わせをしている最中だったのだ。
カネスキーはすでに宇宙服に着替えており、顔だけを宇宙服から覗かせていた。
ワインシュタインは二人に自動小銃を向けて言った。
「カネスキー君、ワシもロケットに同乗させてもらうよ」
「お、おまえは誰だ!外の傭兵たちは何をしているのだ!」
「みんな死んだよ。外の傭兵と動物達はおまえが殺したようなものだ。責任をとって、ワシと一緒に来てもらうおうか」
ワインシュタインはポケットからスタンガンを取り出し、管制官に当て気絶させた。
そしてオウムに言った。
「君はここに残って、人間達が邪魔をしないように管制塔で見張っていてくれ。ワシはカネスキーと一緒にロケットに乗る」
オウムは目をパチクリさせながら、ワインシュタインを見て言った。
「・・・・・・・・分かった。私はロケットが無事に打ち上がるまで、ここで見届ける事にしよう。博士、健闘を祈るよ」

ワインシュタインは自動小銃をカネスキーに突きつけ、「亜空間転移装置」が入ったアタッシュケースを携え、司令塔を出てロケットへと向かった。
操縦席に入ったワインシュタインは自動小銃をカネスキーに向け、命じた。
「ロケットの向かう座標軸をワシの言うとおりに再設定をしろ」
カネスキーはワインシュタインの告げる座標軸の数値を操縦パネルに入力した。
「こ、この座標軸は隕石の軌道と同じだ!いったいおまえは何をしにいこうとしている?」
「カネスキー君、逆に聞こう。きさまは何故宇宙へ行こうとしていたのだ?」
カネスキーは青ざめた顔で答えた。
「私は他の誰よりも、少しでも長生きをしたいのだ!たとえ1分といえども!そしてできる事ならば地球の最期をこの目で見届けたかったのだ!」
ワインシュタインはスタンガンをカネスキーに当て、気絶させ、通信回線のボタンを押した。
「ワインシュタインから司令塔へ。聞こえるかね?」
オウムが答えた。
「司令塔からワインシュタインへ。よく聞こえる。今のところ妨害者は現れていない」
「了解。秒読みを始めたまえ。打ち上げの準備は整った」
「了解。秒読みを開始する。・・・・10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、・・・・・発射せよ!」

ワインシュタインがロケットの発射スイッチを押すと、地響きのような轟音を上げながらロケットは火柱を上げた、そしてゆっくりと空へと昇っていった。
強烈な加速度を全身に浴びながら、ワインシュタインの頭の中であの曲が再びループを始めた。
・・・ワインシュタインはようやく曲名を思い出した。

デビッド・ボウイ「スぺース・オディティ」

地上管制塔からトム少佐へ
地上管制塔からトム少佐へ
カウントダウンを開始する

10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、発射!
エンジン始動
神のご加護がありますように

地上管制塔からトム少佐へ
君は見事に目標を達成した
準備ができたかね?
カプセルを切り離す時間がきた

トム少佐から地上管制塔へ
いま外へ踏み出したところだ!
そして、なんとも言えない気分でここに浮かんでいる
空に浮かぶ星々が全く違って見える!

地球は青かった
僕にできる事は何もない
10万マイルも越えてきたけど
気分は落ち着いている

宇宙船はどこへ行くか知っている
妻に愛していると伝えてほしい
彼女はそれを知っているだろうけど

地上管制塔からトム少佐へ
回線が死んでしまったようだ
どうかしたかね?

トム少佐応答せよ
トム少佐応答せよ

僕はいま、月のはるか上を漂っている
地球は青かった
そして僕にできる事は何もない

――――続く

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