電気売りのエレン 第6話 by クレーン謙

僕は電気を売りながら、その男の事をチラチラと観察していた。
片腕がないその男の所には、少し裕福そうな客が訪れてきているようだった。
客たちは並べられた壺の中を物色して、それらの電気を買っていった。
どうやら、男は少し高級な電気を扱っているようだ。

僕は意を決して、その男の所へと向かった。
そして、いつものように商売仲間に気軽に話しかけるような口調で
「やあ、おじさん、景気はどうだい?」と話しかけてみた。
しかし男はジロリと僕の事を睨んで言った。

「なんだ小僧。要件があるなら、さっさと言え」

男の瞳は、とても黒く、僕の住む所では、まず見かけない顔立ちをしていて、白い顎ヒゲをたくわえていた。
その黒い瞳は、何もかもを見抜くかのようだった。
僕は男の発する気配に圧倒されながら、言った。

「山で電気が取れなくなって、困っているんです。どこでその電気が取れるのか教えてください!」
「フン。ワシも商売で電気を売っている。そんなに簡単に、おまえに教えると思うかね?」

やはり、そう簡単には聞き出せないようだ。
そこで僕は、さも気の毒な子供に見えるように、少し泣き出しそうな顔をしながら言った。
「・・・・僕のお母さんは病気なんです!なので、僕が電気を売らないと、生きていけません。
妹はまだ小さくて、お金がないと、学校にも行かせられません。お願いです、教えてください!」

しかし、どうやら相手が悪かったようだ。
「小僧、その手はワシには通用せんぞ。だが、商売人としては、なかなかうまい手だ。
そんな事より、何か交換条件はあるのかね?ワシの教える事の見返りとして」

僕が黙り込んでいると、男は僕がポケットに刺しているセラミックナイフを見て言った。
「そのナイフを見せてくれんかね?」
男が左腕を差し出したので、
僕は恐る恐ると、ナイフを取り出して、男に手渡した。

男はナイフを手に取り、強く握りしめ、左右に振った。
「・・・フム。これは、なかなかの物だな。ここまで上質なセラミックナイフを作る事の出来る鍛冶屋は、あまりいない」

男は片目をつぶり、ナイフを太陽の光にかざして、しばらくそれを見た。
「ここまで年季の入ったセラミックナイフは、自ら明かりを発し、電気をも切り裂く事ができる、と聞く。・・・・もしこのナイフをワシに譲ってくれるのなら、どこで電気が取れるか教えよう」

このナイフは僕のお父さんの形見だ。
でも、何の収穫もなく家には帰りたくはなかった。
背に腹は変えられない。
「分かった。電気の取れる所を教えてくれたら、おじさんに、そのナイフを譲ろう」
「おじさんと呼ぶのは、やめてくれんかね、エレン。ワシの名はフレムという」

フレムと名乗った片腕がない男が、僕の名を言ったので、僕はびっくりした。
「どうして僕の名を知っているんですか?」

フレムはそこで、初めてニヤリと笑顔を見せて言った。
「エレン、ワシはここの市場の事はなんでも知っておる。おまえが、とどろき山からやってきていて、『電気売りのエレン』と呼ばれている事もな」
どうやら男は僕なんかよりも、はるかによく市場の事を知り尽くしているようだった。

「エレン、もうひとつ条件がある。おまえの馬だ。最近、ワシの馬が高齢で死んじまってな。
あの馬をワシに譲るのならば、おまえを海まで連れて行き、電気の取り方を教えよう。
おまえの、あの馬はとてもいい馬だからな」

僕はそこで言葉につまってしまった。
馬のジョーは、僕の友人と言ってもよかった。
ジョーを人の手に渡すなんて考えられない事だったが、僕の帰りを待ちわびている、お母さんとレーチェルの事を思い、決心を固めた。
「分かりました。もし僕に電気の取れる所と取り方を教えてくれたら、ナイフとジョーをあなたに差し上げます。・・・・でも、全てが終わってからだ。
海で電気を取る事ができたら、その時にナイフとジョーを、あなたにあげます。それが僕の『条件』だ」

そう言いながら、本当に僕は泣き出しそうになっていた。

――――続く

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