電気売りのエレン 第13話 by クレーン謙

僕らは、馬車に揺られながら港町の雑踏の中へと入っていった。
港町は城壁の町とは違い、様々な人種の人々がいて、見た事もない魚や品物が市場で売られていた。

その時、急にフレムの顔が険しくなり、そしてあたりの様子をうかがうように、視線を巡らせた。
「フレム、どうしたんだい?」
そう聞くと、フレムは小声で言った。
「・・・・・誰かがワシらの事を魔術を使って、監視している」
「魔術?監視している?どうして?」
「シッ、静かに!今、相手の魔術を封じるでな・・・」
そのように言うと、フレムは聞いた事もないような不思議な言葉でブツブツと何か言い始めた。
これが「いにしえの言葉」なのだろうか?

その言葉を発する間、フレムは目をつぶっていたけど、しばらくして目を開き、僕の方を見た。
「これで相手の魔術を封じた。もう、相手は『遠見の術』を使ってワシらを追う事はできぬであろう・・・・・」
何が起こったか分からなかったけど、どうやらフレムは魔術を使ったらしい。
「フレムは本当に魔術師だったんだ!すごいな・・・。それにしても『遠見の術』ってなんだい? それに、どうして僕らは監視されなければいけないんだい?」

「『遠見の術』は相当に熟練した魔術師でなければ使う事はできぬ。この術を使うと、遠く離れた相手を見る事ができ、話も聞く事ができるのじゃ。
魔術を使った相手は気配を消していたので、その魔術師の事までは分からなかったよ。
・・・・しかし誰がワシらの事を邪魔に思っているのか、おおよその事は見当がついている」
フレムは港に浮かぶ大きな船を指差した。
「あそこに浮かぶ船を見なされ」

僕は青い海に浮かぶ大きな船を見た。もちろん僕は海を見るのも初めてなものだから、あんな大きい船なんか見た事もない。
船の横側には、大きな大砲がいくつも付いていた。
「あれは、軍艦なのかい?」

「いや、軍艦ではないよ。ああ見えてもあの船は商社が所有している商船なんじゃ。
彼らはワシらの国に豊富にある電気を狙っておるのだ。今ので分かったが、どうやら彼らは腕利きの魔術師を雇っているのだろうな・・・・・」

なんだか次第に予想外の事になってきた。
僕はただ、海で電気を手に入れ、市場で売ってお金を稼いで家に帰り、そのお金でお母さんをいい医者に見せたかっただけなんだ。
僕は先行きに不安を感じて、フレムに聞いた。
「彼らは、もしかしたら僕らを狙っているのかい?どうして?」

しかしフレムはそれにははっきり答えずに口を濁した。
「・・・・・まあ、いずれにしても、この旅は危険を伴うじゃろう。エレン、そこの路地裏に入るようにジョーに言ってくれ。この先に漁師たちが住まう一角があるでな」

どうやら、もう後には引けなさそうだ。
僕はジョーに路地裏に入るように言った。
僕とフレムを乗せた馬車は、狭い路地裏へと入っていった。

しばらく路地裏を進むと、次第に町の雰囲気が変わっていった。
日焼けをした目つきの鋭い男たちが増えてきて、魚の匂いも次第に強くなってきた。
彼らは全く遠慮する事なく僕らの事をジロジロと見た。
どうやら、この一角はよそ者はあまり入ってこない所らしい。

魚の匂いが漂う石畳の上をパカッパカッと音を立てながら馬車が進んでいくと、急に視界が開けて、いくつもの小さな船がとまっている海の目の前に着いた。
きっとあれは漁船なのだろう。
屈強そうな男たちが、怒鳴り声をたてながら漁船から荷下ろしをしているのが見えた。

その先には、水平線が広がる青い海。
その水平線の上には灰色の荒々しい雲が見えた。
その灰色の雲がピカリと光り、稲妻が海の上に落ちた。
しばらくすると、稲妻のゴロゴロゴロという音が響いてきた。

すると、今まで仕事をしていた漁船の船乗りたちが、仕事の手をとめ、稲妻が光った方に向かって膝をつき、頭を下げ始めた。
「フレム、あれは何をやっているんだい?」

フレムは馬車を降りながら言った。
「祈りを捧げておるのじゃよ。かれら漁師にとっては稲妻は海に恵みをもたらす神なんじゃ・・・」

――――続く

☆     ☆     ☆     ☆

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>


スポンサーリンク

フォローする