電気売りのエレン 第15話 by クレーン謙

僕とフレムが馬車を降りると、少し年をとった日焼けをした男がやってきて言った。
「フレム様、よく戻ってきなすった」

フレムは、その男のほうを見ると、少し顔をほころばせた。
きっと、昔からの知り合いなのだろう。
「長老どの、城壁の町では電気が高く売れましたぞ。やはりここで採れる電気はとても質がいい」

長老と呼ばれた男は歩み寄り、フレムと握手を交わした。
「フレム様のおかげで、我ら漁師ギルドはとても助かっております。なにしろ、あなた様は城壁の町での電気の販売権を持ってますからな。・・・・ところで、フレム様、少々顔色が優れぬようですが、いかがなされましたかな?」

長老がそのように言うので、僕はフレムの顔を見た。
確かに、そう言われると、フレムはさっきよりも元気がないように見える。
「長老どの、今、魔術を使っておるのです。それで少々体力を消耗しておるのじゃ」
「魔術?どうかされましたかな?」
長老は心配そうな顔でフレムを見た。

フレムは港に浮かぶ巨大な船を指差して長老に言った。
「彼らから身を隠しておる。『結界』を張って、ヤツらに見つからぬようにしておるのじゃ」
長老は目を細めて、その船を憎々しげに見た。
「我々の電気を奪おうとしているヤツらの船ですな・・・。彼らは数日前にこの港にやってきて、何か忙しげに動き回っております。フレム様、今宵は私の邸で休まれるとよい。積もる話もあります。ところで、その子は?」
長老は僕をチラと見てフレムに聞いた。

「この子はエレンという。一緒に電気クラゲ漁に出たいのじゃが、よいかね?まだエレンは子供じゃが、こう見えて、一人前の電気売りなのじゃ」
僕はフレムに「一人前」と言われて少し誇らしい気持ちになった。
長老は僕の事をジロジロと観察するように見て、言った。
「フレム様の願いとあらば、喜んで。ではお二人は今宵は私の客人です。どうぞ、おいでください」

僕はジョーを引っ張って、フレムと長老の後をついていった。
漁師たちの掛け声や、酒を飲んで騒いでいる男たちの喧騒の中を進んでいくと、少し大きめの邸宅が見えてきた。そこがどうやら、長老の家らしい。
僕はジョーを邸宅の庭先に休ませ、フレムと一緒に家の中へと入っていった。

日が沈み、騒がしかった漁師の町は急に静かになった。
とどろき山の電気売りと同じで、きっと漁師たちの朝は早いのだろう。
長老が電気クラゲから取れた電気をランプに注ぐと、部屋の中がパッと明るくなった。
やはり、ここの電気はとても質がいい!

長老は僕たち二人のために、食卓に海の幸を並べ始めた。
虹色に輝く魚や、海藻のスープなど、いままで食べた事がないものばかりだ。
僕は、それらのご馳走を食べながらフレムと長老の話を聞いていた。
なんだか随分と「大人」の話なものだから、僕は何も口を挟む事もできずに、ただ黙って二人の話を聞いていた。

「フレム様、我ら漁師ギルドの間でも、ヤツらの事が話題になっております。・・・・いったい彼らは何を企てているのでしょう?」
「ヤツらは南からやってきた、ヴァイーラ伯爵が率いる商社の船じゃ。そなたが懸念しているとおり、ヴァイーラは我らの電気を狙っておる」
「ヴァイーラ?魔術の世界を滅ぼした、あのヴァイーラですか?しかし確か、あなた様が魔術でヴァイーラを石に変えたのでは?」
「その息子じゃよ。ヴァイーラ二世じゃ。ヴァイーラ二世は商売に熱心なようでな。
いく先々の土地を植民地化して巨額の富を得ておる。しかし恐らくはヴァイーラの狙いは電気だけではない。何か良からぬ事を企てておるようじゃ」
「やはりそうですか。これは漁師ギルドの情報なのですが、彼らはここから500海里の『忘却の海』に浮かぶ、海鳥しか住まわぬ島を買い占めたようなのです・・・・」

フレムは長老がそのように言うのを聞き、口元まで運んでいたワイングラスの動きを止めた。
「ほう?『忘却の海』で島を?」
長老は虹色の魚の煮付けを口に頬張りながら、話を続けた。
「はい。そこの島の周囲は武装した軍船が取り囲んでいて、何人たりとも、そこの海域に近寄る事ができません。・・・・漁師仲間の話によれば、彼らはそこで何か巨大な建造物を作っているようです。
何を建造しているのか、近寄る事ができないので、見る事ができないのですが。
フレム様、この所、電気クラゲの収穫量が減っているのは、それと関係はありますまいか?
もしそうであるならば、我らの神である雷を奪っている彼らの行為は我らギルドにとって、許されざる行いです。・・・・・・それは、我らの神への冒涜といっていいでしょう」

――――続く

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