宴のあと

アルブルタモン

「こんにちは。造園係のアルブルです。そしてこちらは、ティーラウンジのマスター、」

「……タモンです」

「今回は、お花見の翌日の、これまた楽しいイベントについてお話したいと思います。本当はタモンさんが担当だったんですが」

「…………」

「ご存知の通り、無口すぎてお話が進まないので二人で、ということになりました」

「さて、お花見の翌日ですが、空から落ちてきた花びらを朝からみんなで拾うのが恒例行事になっています。風のない日を選んで咲くのでしょうか、あんなに遠いのに、ちゃんと木の下に落ちてくるんです。拾った花びらは、主に乾かしてタモンさんがお茶を作るのです。このお茶が本当にえも言われぬ良い香りがして美味しいことといったら大変なんです。みんなこのお茶が大好きなので、張り切って花びらを拾います。ねえタモンさん」

「……ありがとうございます」

「今回は、当ホテルに長期ご滞在の猫丸様が、たくさん手伝ってくださいました。猫丸様、意外や意外、このお花見は初めてだったそうで、大層喜んでくださって何よりでした。『これは地球の有名な軌道エレベーターの木ですか』とお聞きになるので、よくわからずに逆に質問をしてしまいました。いろいろ教えてくださったのですが、実は難しすぎてよくわからなかったんです。タモンさん、軌道エレベーターってなんでしょう?」

「……静止軌道の…………」

「おや、ご存知でしたか、さすがです。でもそれ、どういう意味で……??ええと、そうですね。後でチヨさんかツボミさんに教わることにします。さて、花びらはたくさんあるので、主にお茶にしますが、お客様のご希望があれば差し上げますし、スタッフが何枚かずつ持ち帰ることもよくあります。猫丸様も2〜3枚お持ちになりましたが、何に使われるのでしょうかねえ」

「宴のあと」illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

「宴のあと」illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

「私も今回は1枚いただくことにしました。しばらく部屋に置いておくだけで良い香りがして、いいものなのです。その後はどうしようか、まだ考えていませんが、何か小さいものを作ろうかと思います。私は自分の体が大きいせいか、小さなものが大好きなのです。以前のお花見の際も、花びらの船を作ったり、花びらの上に小さな絵を描いたりしたことがあります。そうだ、小さく切って、花でできた小さな花を作るのなんて、どうでしょう?考えただけでかわいいですよねえ」

「とてもかわいいです」

「そうそう、タモンさんも小さなものが好きで、小さな模型なんかに目がないのです。趣味友だちというやつです。では、今度小さな花づくりをいたしましょうか。季節が変わる頃にはお茶もできるかと思います。みなさまもぜひ、マンネンジュの花茶、ご賞味くださいませ。アルブルと……」

「……タモンでした」


ホテル暴風雨の変わった「お花見」についてはこちらを

ホテル暴風雨の一大イベント、「お花見」。といっても、花が桜でないだけでなく、かなり奇妙なお花見なのです。

タモンさん初登場の回はこちらをご覧ください

今回も、国際色豊かすぎるホテルの様子をお伝えします。常連、**さんのコミュニケーション力が試される!?

※おまけの読書ガイド※

「軌道エレベーター」とは、地球の静止軌道より上まで届くような超高層エレベーターを建造して地上と宇宙空間とを行き来しよう、というアイディアのことです。「静止軌道」とは、地球の重力と遠心力が釣り合った状態で、地球の自転と同じ速さで地球を周回する物体の軌道で、地上から約35,000キロくらいの距離です。遠いです。そんなに高さに耐える強度のエレベーターを作るなど実際には無理なのでSFの中のお話、ということになっていましたが、丈夫な新素材が開発されて、もはや夢ではない、とも言われています(まだ実現はしていませんが)。マンネンジュの木は、総支配人が飛んで行けないほど高いらしいですから、さぞ、丈夫にできているのでしょう。というかこれ、軌道エレベーターの材料としてどうでしょうか?

軌道エレベーターを描いたSFで名高い作品といえば、

「楽園の泉」アーサー・C・クラーク著
あたりでしょうか。軌道エレベーターというアイディアを正面から描いた作品です。他にもたくさんのSF作品が書かれています。

まったく傾向が違いますが、新しい作品ですと
「天体の回転について」小林泰三著
こちらも面白いです。ひとつの文明が自動化した軌道エレベーターを残して滅び去った後の世界を描いています。


暴風雨ロゴ黒*背景白「ホテル暴風雨の日々」続きをお楽しみに!

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