いくつものドア

みなさま、こんにちは。

ホテル暴風雨客室係チーフ、チヨです。

年末年始の賑わいがおさまらないまま、いよいよ羊豆の試食会でホテルはますます賑やかになっていますよ。楽しみです。

ハア〜イ!チヨさんいるかしら?

チヨ:「おや、クラーラさんじゃないかい。どうしたの」

クラーラ:「ちょっと聞いてくれる?ほら、この間、アルバート様に小箱の鍵が送られてくる事件があったじゃない」

チヨ:「ああ、不思議なことがあったって、アルバート様から聞きましたけどね」

クラーラ:「あの後、アルバート様をびっくりさせようと ええと、アルバート様にご挨拶しようと、ダイオウイカのコスプレでお部屋の前に行ったわけよ」

チヨ:「……まあいいでしょ、それで」

クラーラ:「そしたら、アルバート様の方が、お願いがあるとおっしゃって、わたくしのことを待っていらしたのよ!」

チヨ:「ダイオウイカのコスプレなのにねえ」

クラーラ:「それはいいのよ!で、そのお願いっていうのが、大切なものを小箱に入れて鍵をかけたらしいんだけれど、その鍵をわたくしに預かって欲しいってことだったのね。それで、適当な頃合いにそれをアルバート様に送って欲しいとおっしゃって」

チヨ:「話は真面目に聞いたんだね、ダイオウイカのコスプレだけど」

クラーラ:「鍵をもう一度ご自分にお送りになれば、と私が言ったのを覚えていらしたみたいなんだけれど、今すぐ送るのもどうかと思うし、かと言って後で送るにしても、ここでのことを忘れてしまうかもしれない以上、手紙をちゃんと送れるか心配だと」

チヨ:「もっともな話じゃないの」

クラーラ:「わたくしもそう思ったからお引き受けしましたよ。わたくしが送ればきっと最適な時に自分のところに届くと信じる、とまでおっしゃるものだからね。で、アルバート様の真似をして、お預かりした鍵を小箱に入れておいたんだけど」

チヨ:「嫌な予感がしてきたよ」

クラーラ:「さっき見たら、鍵が増えてるの!」

チヨ:「あーあ、他の鍵と一緒くたにして、どれだかわからなくなったと。それは正直にお話しして、どれがアルバート様の小箱の鍵だか今のうちに確かめていただかないと」

クラーラ:「それでもいいんだけどね、って、違うんだってば!箱には他に何も入ってなかったの。それに、そっくり同じ鍵が何本にも増殖してるのよ!ちょっと調べてみてくれない、この鍵」

チヨ:「妙な話だねえ。どれどれ……ふーむ、確かに全部同じ鍵だね。同一のDNAを持っているようだよ」

クラーラ:「DNAって、これ、生きてるの!?」

チヨ:「冗談だよ。型で取ったように同じ鍵だね。傷まで同じ位置についてるから、時間を超えてやってきた同じ鍵かもしれないねえ。間違いなく同じ鍵穴にはまるだろうよ」

クラーラ:「ああ、やっぱり」

チヨ:「どうする?ここでは時間が歪むような奇妙なことは珍しくはないとはいえ」

クラーラ:「アルバート様の周りで奇妙なことが起こりすぎてるのよね」

チヨ:「やっぱりそう思うかい」

クラーラ:「ああ見えて台風の目のような方なのかしらね。ご本人に何でもお伝えすればいいってもんじゃないし、そうね、この鍵は、一年に一つなり、季節ごとに一つなり、分けてお送りしてみようかしら」

チヨ:「定期的に同じ鍵が届けば、いつか何かを思い出してここへ戻ってこられると?」

クラーラ:「定期的に送ったからって定期的に届くとは思ってないけど、そうね、生きるのは毎年、いいえ毎日違うドアを開けるようなもの。鍵がちょっと多くたって困りはしないでしょう」

チヨ:「ほ〜う、詩人みたいなことを言うねえ」

クラーラ:「伝説の詩人、女王タコのクラーラとはわたくしのことよ、ふふふふふ……チヨさんありがとう、それじゃあまたね、ごきげんよう!」

……やれやれ、あのクラーラさんがわざわざ相談に来るなんて、相当驚いたと見えますねえ。それにしてもアルバート様とは、やはりこのホテルにとって重要なお方なのでしょうね。長い滞在を終えてもうすぐ帰られるとなると、ホテルも少し変わるのでしょう。

でも、いつかきっと戻ってこられるような気がしてきましたよ。みなさまはどう思われますか?

チヨでした。


アルバートさんの秘密の小箱についてはこちらを
https://hotel-bfu.com/hibi/tsubuyaki/2017/11/23/clara-4/

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「ホテル暴風雨の日々」続きをお楽しみに!暴風雨ロゴ黒*背景白


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