将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第1回

大人はダテに長生きしてるわけではない。からだは大きいし、力は強いし、いろんなことを知っている。だから、子供が大人に勝てることなんて、そんなにはない。
でも、まったくないかというと、そうでもない。

青葉小学校六年二組の林トモアキはさっきから将棋を見物している。
場所は西公民館二階の第二和室。しょうじが大きく開けはなたれ、さしこむ春の日に暖められたタタミの匂いがしている。
足つきのぶあつい将棋盤をはさんでいるのは、一人は宮原さん。将棋同好会の副会長で、もちろん大人、トモアキは何度か将棋を教えてもらっている。
もう一人は、歳はトモアキと同じくらいのようだが初めて見る男の子で、ざぶとんに正座し、背筋をしゃんとのばしている。
ちょっと首をかしげると、左手でコマ台の金をとり、きれいな手つきでピシッと打った。左利きらしい。

「いやあ、強い。負けたね」
宮原さんが言い、男の子はていねいに一礼した。
「ありゃあ、宮原さんも負けたの? ほら、やっぱり強いでしょ」
窓側で指していた近藤さんと小野寺さんがよってくる。二人とも、宮原さんの前にこの男の子とやって、完敗しているのだ。
「今日は強い人来てないし、勝てるのいないなぁ」
宮原さんたちは男の子の強さに感心しながらも、やはり少しくやしいようだ。思わぬ道場破りにあった気分かもしれない。

「そうそう、林くん。この子は新庄カズオくん。きみと同じ六年生だそうだ。やってみるかい?」
トモアキはあわてて手をふった。
「ダメですよ、ぜんぜん力が違うもん。ぼくはいいです」
男の子がトモアキの方を向いた。目が合うと、どうも、って感じに頭を下げた。なんだかおちついた子だな、とトモアキは思った。

「じゃあ、おじさんともう一局指そうか」
「はい」
また宮原さんと指し始めた男の子、新庄カズオの横顔を見ながら、トモアキは一つのことを考えていた。
(ひょっとしたらいけるかもしれない)
トモアキが考えたのは「こども将棋大会」のことだ。

――――続く

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※この作品は第46回毎日児童小説コンクール最優秀賞を受賞し、平成9年「毎日小学生新聞」に連載されたものです。一部加筆修正を行っています。


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