将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第22回

「ちゃんとした手にはぜんぶ意味があるんだよ。ねらいと言ってもいい。敵のコマをとろうとか、自分のコマがとられないようにしようとか、ね。
おたがいに敵のねらいを外しながら自分のねらいを実現しようとする、それが将棋の戦いなんだ。自分のやりたいことばかり考えててもうまくいかない。相手のやりたいこと、相手が何を考えてるかを見抜かなきゃ」

「でも人の考えてることはわかりません」
アサ子は抗議した。超能力者じゃないんだから。

「自分だったらどうするか、って考えるのさ。飛車と銀に両とりをかけるとする。敵がどっちを逃げるか予測するには、自分ならどっちを逃げるかを考えればいい。もちろん外れることもあるけれど、強くなればだんだん外れなくなる。
そうやって相手の手を予測しながら先へ先へ考えていくのを『手を読む』っていうんだ。将棋の強い弱いは結局これで決まってくるね。強い人ほど多く正確に手を読める」

トモアキとカズオの将棋も終わって、さっきから二人も話を聞いている。トモアキが横から質問した。
「将棋のプロはどれくらい読めるんですか?」
「数え方にもよるけど、百手や二百手は楽に読んじゃうらしいね」
「そんなに!」
「すごいよ。でもきみたちはまず三手からだ。自分がこうやる、それに対して相手はこう来るだろうから、そうしたらこうやろう――そこまでだけ考えるくせをつけよう」

この日、組み合わせを変えて何局か指したあと最後に、シュウイチが二枚落ちの三面指しをした。トモアキ、アサ子、トオルの三人と同時に対戦するのだ。
二枚落ちは上手が飛車と角を落とす。大ゴマと呼ばれる最強のコマが二つないのだからたいへんなハンディだ。

しかしトモアキたちは、アマチュア四段がどれくらい強いか、思い知ることになった。シュウイチのコマは生きていた。コマの持つ性能を存分に発揮しているのだ。だから歩でも銀くらいの強さに見えるし、金なら竜くらいの強さに見える。
シュウイチは、危ないところの一つもなく、かんたんに三人をかたづけてしまった。

――――続く

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