将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第37回

同じころ、トモアキとジュンも会っていた。ジュンがトモアキのうちの前で待っていたのだ。
「おれはサイテーかもしれないけど、誤解は解いておきたいんだ。これだけは信じてくれ。トモアキに抜かれたから将棋がいやになったんじゃない。そこまでサイテーじゃない」
「じゃあ、なんだ?」
ジュンはウッとつまった。トモアキはじっと待った。

「……佐野に負けたくない」
「なんだよ、それ」
トモアキはふいをつかれた。アサ子は今月6級になっている。ジュンとの差はもうわずか、勝ったり負けたりだ。でも、おれに負けるのはよくて、佐野に負けるのはいやだって、どういうことだ?
トモアキははっとした。
「ジュン、まさか?」
佐野のこと好きなのか?
いや、まさかじゃない。佐野はまあ美人だ。めちゃくちゃよくできる。性格だって悪くはない。好きになる男子がいたってふしぎはない。でもジュンがそうだなんて……想像もしなかった。
うなずいたのか、うなだれたのか、ジュンは下を向いた。
「……だれにも言うなよ」
やっぱりそうなんだ。
親友としてはもちろん応援してやりたい。しかし相手が悪い。ジュンが「好きなんだ」と言って、アサ子が「わたしも!」とか言う可能性はほとんどないような気がする。
やっかいだ。おまけに将棋大会までからんでいる。

「……あいつおれたちより大人だろ。勉強はぜんぜんかなわないし。将棋でも負けたらいいとこなしじゃないか」
へんだ。そういうのへんだぞ。言ってやりたい。でもどうすればへんじゃないのかトモアキにもわからない。
「――そうだ。佐野言ってたぞ。おまえのかわりにだれか入れて大会出る気はないって」
ジュンが顔を上げた。どうしていいかわからないって表情だ。
トモアキにはもう、一つしか言うことが思いつけなかった。
「とにかく将棋やれ」

――――続く

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