将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第38回

日曜日、トモアキとジュンはそ知らぬ顔でカズオのうちに現れた。
「おれ、野球やめた。これからは毎日曜、将棋やる」
「ええっ? 将棋やめるって話は?」
「あれはじょうだん」
「ジュンがやめるわけないじゃん、な?」
アサ子はあぜんとした。
「あんたたち、頭おかしいんじゃない?」
人をさんざん心配させて。腹が立つ。でもよかった。

アサ子はこっそりカズオに合図してろうかに出た。
「そんな深刻なことじゃなかったみたい。ごめんね。冷たいだとか言って」
「いいよ、別に。気にしてない」
「男の子ってどうもわからないとこがあるなぁ」
つぶやいたアサ子に、カズオは笑って言った。
「女の子だって」
アサ子はふと考える。新庄くんは電車に乗って通ってる小学校でどんな生活してるんだろう。わからないとこのある女の子とつきあって、悩まされたりしてるのかな?

それからの一カ月、トモアキたちは充実した日々を過ごした。

十一月二日、大会前日、カズオの家に集合し、最後の特訓をした。晩ご飯もごちそうになって、そのあと、大会での順番を決めることになった。大将戦でも先鋒戦でも一勝の価値に変わりはないが、やはり大将から強い順に並べるのが常識というものだ。

1級のカズオ、3級のトモアキで、大将と副将はもんくない。ジュン言うところの「左右の両エース」だ。
残りの三人は同じ5級だから並べ方が難しかった。歳の順に四年生のトオルが先鋒としても、ジュンとアサ子はどうするか。

「佐野、中堅でいけよ」
と、ジュンが言った。アサ子は意外そうにジュンを見た。これは、少なくとも形の上では、アサ子の方が強いと認めることになる。
「そう。じゃあ、えんりょなく」
これで決まった。
「よく眠れよ。睡眠不足じゃいい将棋が指せないぞ」
玄関でシュウイチはそう言ってみんなを送り出した。

――――続く

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