将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第41回

「みんな、おちつくんだ」
シュウイチは言った。
「何もあわてることはない。相手は、ふつうにやっちゃ勝てないと思って、当て馬なんか使ってきたんだ。いいかい。勝負は弱気になった方が負けだ。うちは堂々といくのに向こうは逃げてきた。こういうときは戦う前からもう有利だと思っていい。それに―ー」
シュウイチは手招きしてみんなの頭を集めた。
「大きな声じゃ言えないが、王将ジュニアはたいしたことない。二回戦を見物させてもらった。大将やってた子だってそれほどじゃない。おちついてやること。それから、トモアキくんとカズオは相手が弱いからって油断しないこと。それだけ気をつければ勝てる。負けるわけがない。オーケー?」
「オーケー!」
五人は気合いを入れ直して対局に向かった。

次鋒のジュンは、一二回戦に続き、まよわず棒銀戦法をとった。毎度おなじみといっても、この一カ月でずいぶん改良されている。今回のは角交換型だ。本も読んだし研究もしたのだ。
シュウイチは負けるわけないと言ったが、ジュンは不安だった。
おそらくトモアキとカズオは勝つだろう。だから、アサ子、ジュン、トオルのうち一人が勝てばいいのだが、三人の相手はいずれも強そうだった。
ジュンは両どなりをちらちら見た。どちらも苦戦のようだ。
トオルは中飛車から一直線に攻めこんだが、しっかり受けられてコマ損している。アサ子はどこでへまをやったのか、敵の飛車に暴れられて守り一方の形勢だ。
(こりゃだめだ。おれが勝つしかない)
ジュンはまわりを気にしないことにした。
盤面だけを見つめ、一球入魂ならぬ「一手入魂」で指した。
ここで負けたら野球やめた意味がないぞ。トモアキや佐野と半年がんばってきたのもパーだぞ。ぜったい勝つ。勝ってと金倶楽部とやるんだ。春にぼろ負けした屈辱を晴らすんだ。こんなやつに負けてたまるか。負けてたまるか――。

ジュンには会心の一局だった。気がつくと相手が頭を下げていた。集中してたせいで、あれ? 終りか、って感じだった。

――――続く

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