絵本の文章を書く3「絵と文の使い分け。基本だが全てでもある」

絵本の文章の特徴は「全部は書かない」ということだ。詩人や小説家なら表現したいことのすべてを言葉で表現するが、絵本の文章作家は違う。あえて一部しか言葉にしない。絵が活躍するためのスペースを空けておくためだ。

「表現したいことのうち、文で表現した方がいいことを文で、絵で表現した方がいいことを絵で表現する」
これが絵本の一番の基本だが、そのためには絵と文それぞれの特性を知らなければならない。

登場人物の顔を言葉でこまかく説明する必要はないだろう。絵を見れば一発なのだから。
では声は? か細い声と低音のよく響く声を絵で描きわけるのは難しい。キャラクターがどんな声質でしゃべっているかは文章で伝えよう。
雰囲気のある古いお城の外観は絵でしっかり描きこんで、100年前ある王により築城され10年前から無人となった経緯は文で語る。
当り前のようだが、絵本に慣れない書き手はしばしば絵で描いた方がいいことを文で書いてしまう。とくにキャラクターや風景の描写はほとんどの場合省くか最小限にとどめた方がいい。描写はまさに絵が得意とする、力を存分に発揮してくれるところだからだ。

ぼくは絵本を作り始めるまで美術館もギャラリーもめったに行かない人だった。絵について何も知らなかった。これではいけないと思って最初は絵本関係の展覧会から通い始め、そのうち絵を描く知り合いが増えてきて、毎年200枚の個展やグループ展の案内状をもらうようになり、そのうち100くらいは実際観に行った。そのころには興味の範囲が広がって絵本とはかけ離れた現代アート作品なども面白いと感じるようになっていた。

絵で何が表現できて何が表現できないか。それを知るためにはいい勉強だった。というか絶対必要な勉強だった。
嬉しい顔も悲しい顔も描ける、では嬉しいと同時に悲しいような複雑な感情をどこまで描けるのか? 二つ以上の時間を1枚の絵で表現するにはどんなやり方があるか? 物理的にありえない「丸くて四角いもの」を描けるか? 顔をつけたり手足をつけたりしないで物に命を吹き込めるか?

絵本の文章作家は絵が描けなくてもいい。しかし「絵で描けることと描けないこと」の区別はある程度つかなければいけない。そうでないと画家に不可能なことをお願いすることになる。

順番が後になったが、絵本から多くを学んだのはいうまでもない。毎年100冊の絵本を買い、図書館ではその数倍借りて読んだ。
優れた絵本には絵本創作の秘密のすべてがあるといっていいだろう。カルチャースクールで教えていたとき、学期の初めには必ず「半年で100冊以上読んでください」と言った。そしてノートに記録を残してもらった。200冊読む人もいれば、50冊の人もいた。
絵本が好きなら100冊くらい苦もなく読めるはず、だと思うのだけれど……どうなんでしょうね?

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「絵本作家の仕事」は毎週月曜更新予定です。
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