作家にとっての編集者2「絵本で何をしたいのか?」

ぼくはじつは編集者でもある。といっても編集した本はまだ1冊だけ。現在進行中が2冊。駆け出しもいいところだから、編集者として編集を語るのは100年早い。作家の立場から見た編集なら少しだけ語れる。

ぼくは新しい企画を思いついたら、誰に見てもらおうか考える。つきあいのある編集者の顔を思い浮かべ、この企画はあの人が面白がってくれるのではないかと感じた人に提案する。依頼された順番とかはあまり考えない。

前提として、いくらかなりとその編集者の好みを知っていることが必要だ。すでに一緒に仕事したことがある人ならその過程で山ほど意見交換するから問題ない。問題は初めての仕事のとき。
編集者の側に具体的な企画があって頼まれる場合以外は、会って、いろいろ話しながら、一緒に何ができるか考えていくことになる。そこでぼくが知りたいのは、相手の絵本観だ。どんな絵本をいい絵本だと思っているのか。これまでどんな絵本を作ってきて、これからどんな絵本を作っていきたいのか。誰のために絵本を作っているのか。何のために絵本を作っているのか。

作家の絵本観は作ってきた絵本を見ればわかる。しかし編集者の絵本観は直接聞かせてもらわないとわからない。前回「作家が編集者を選ぶのではなく編集者が作家を選ぶ」と書いた理由はおもにそこだ。

個人的には「自分はこういう編集者であり、こういう本を作りたい」ということをはっきり言ってほしい。新しい絵本の構想が浮かんだとき「あの人にぴったり!」と判断できるように。
しかし意外とそうでない方が多くて、逆に「風木さんが今作りたいのはどんな絵本ですか」と聞かれたりする。
作家に何を作りたいか聞くのはふつうのことだろう。親切でもあるかもしれない。それでもどこかもやもやするのは、ぼくは手の内ぜんぶ明かしているのに、相手は表面しか見せてくれていないと感じるからだろうか。

こう言った人もいた。「こういう絵本がほしいと言うことで限定してしまいたくない。自分には想像できないような絵本が風木さんの中にあるかもしれないのだから」
なるほど、と思わなくもない。しかしぼくが開示してくれと言っているのは、これから作ろうとする絵本の具体的な形ではなく、どんな精神をもって作るか、つまりは、繰り返しになるけれど「絵本観」なのである。
そこが見えない編集者にはどんな企画を提案すればいいのかわからない。「あなたでいいかもしれないけれど、あなたでなくてもいいかもしれない」そんなあやふやな気持ちでは大事な作品を託せない。

ややこしいことを言っているように見えるかもしれない。本当はそうではなく、単に「絵本について本音でがっつり話しましょう!」と言っているだけなのだ。
思いの一致する点、一致しない点を知っておけば、いずれ一緒にやるべきことは見えてくる。時間はかかるかもしれないが、それはしかたない、そういうものだろう。

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小さい書房の安永則子さんから「大人向けの絵本を」と依頼されて書いたのが『青のない国』(絵・長友啓典&松昭教)。安永さんは「どういう本を作りたいか」明快に情熱を持って語ってくれたので、初めての「大人向け」には不安があったが引き受けることになった。このときのことはいずれ詳しく書いてみたい。 ◆関連コンテンツ「長友啓典インタビュー」

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