『ちゃっくりかき』(中澤智枝子・再話 五足萬・著 保立葉菜・絵 大隅書店)

『ちゃっくりかき』はぼくが初めて編集を担当した絵本である。
五足萬(ごたりまん)さんは絵本の文を書くのは初めてだったし、保立葉菜(ほたてはな)さんは絵本の絵を描くのが初めてだった。初めてばかり3人、どれほど困難な航海であったかと思われるだろうが、じつはそうでもなかった。ぼくはともかく、お二人は初めから高いパフォーマンスを発揮してくださった。2016年1月から10月にかけての制作期間をふりかえりながら、うまくいった理由についても考えてみたい。

絵本『ちゃっくりかき』より

ある日、中学以来の友人、大隅直人君から連絡があった。彼は滋賀で小さな出版社をやっている。用向きは「絵本を作る。手伝ってくれないか」であった。
大隅直人君は人文書に強い出版社で経験を積んだのち独立し、自分の出版社(注1)では様々なジャンルの本を手がけているが、絵本は初めてだったためぼくにお鉢が回ってきたわけだ。
以前、酒を呑みながらかお茶を飲みながらか「編集やりたい」と言ったのを覚えていてくれたのだと思う。口に出せばかなうというのはある程度本当だ。

彼の上京を待ち、打合せした。五足萬さんの原稿はすでにあった。
初めて書いたにしてはずいぶん完成度の高いものだったが、執筆の背景を聞くと、理由はわかった。
「ちゃっくりかき」という昔話は、五足さんが幼いころ母親から寝物語に何度となく聞いたもので、自ら母親となってからは二人の息子さんにやはり何度となく語り聞かせたものだという。
語りとしてすっかり自分のものになっているから、展開にも言葉にも無駄がないのだ。絵本において重要なリズムも自然と備わっていて、大きく直すべきところはなかった。数度細部の相談をしただけで、文はほどなく完成となった。

続いて画家探しである。これは作家として自作の絵を依頼する場合とほぼ同じだった。頭の中に膨大な絵描きさんの情報が蓄えられていて、そこから今回の企画にぴったりの人を探し出してくる。もちろん絵本、作品ファイル、ポストカード等、頭の外の資料にも当たる。
絵そのものの他に、納期や画料のことも考えた。できれば新しい人を起用したいとも考えた。
第一候補として浮かんだのが、保立葉菜さんだった。
何で保立さんの絵を知っていたかというと年賀状である。保立さんのお母様は、ぼくがお世話になったことのある絵本編集者で、くださる年賀状の絵はいつも保立葉菜さんの木版画なのだ。ふとい線とおさえた色が昔話のおおらかさにぴったりだと感じた。
おりよくブックハウス神保町(注2)で保立さんの個展があったので見に行った。作品が良かったのはもちろん人物的にも信頼できる印象を持った。そう、お会いするのは初めてだったのだ。
その場ではまだ「ちゃっくりかき」の話はしなかったが、その後五足さんと大隅君の快諾を得て、保立さんに依頼、無事引き受けてもらえることとなった。

――――続く

※注1 当時「大隅書店」、現在の社名は「さいはて社」
※注2 現在は「ブックハウスカフェ」

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