『ちゃっくりかき』から『子どもを信じること』(田中茂樹著)へ

『ちゃっくりかき』(中澤智枝子・再話 五足萬・著 保立葉菜・絵 大隅書店)

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前回に続き『ちゃっくりかき』(中澤智枝子・再話 五足萬・著 保立葉菜・絵 大隅書店) の話を。

2016年5月、保立葉菜さんに絵を依頼した。
この時点では保立さんの絵がいいのはわかっていたが、絵本への適性がどのようであるかはわかっていなかった。だからラフの前に、まず、大ラフをお願いした。ひょっとしたら絵本の基本を全然おさえていないものが出てくるかもしれないから、そのときは大幅に構成に口を出さざるをえないと考えたのだ。

とんでもない考え違いだった。保立さんは短期間で見事なラフを届けてくれた。ひと目で絵本のセンスがあるとわかるものだった。
たとえば主人公が町に農作物を売りに行くシーンが3回あるのだが、これを単調にならないようアングル・サイズを大胆に変えて描き分けている。1枚1枚のことだけでなく、1冊をトータルに考えて構成するという絵本でもっとも大事なことが充分できていた。
出版はしていなくても自分で絵本を作った経験があるか、お母様の仕事を横で見るうちに絵本の勘所を自然と吸収したか、であろうと思う。

あとはぼくが中継する形で、五足さん、保立さん、大隅君の意見をまとめ、ラフをブラッシュアップしていった。この工程はいつも面白い。いろいろな意見が出るし、それぞれに根拠がある。自分と違う感じ方や考え方にふれることこそチームで取り組む仕事の良さだろう。
作家・画家・編集者の打合せでは、立場を超えて発言したほうがいいと思う。作家は文のことだけ、画家は絵のことだけ考えるのではなく、全員が全体のことを考える。
ぼくの感覚としてはチームに作家として参加しているときも編集者として参加しているときも大きな違いはない。同じような頭の使い方をする。

2016年11月に絵も文も完成し、デザインを経て、2017年1月に『ちゃっくりかき』は刊行された。
じつは1月刊行には意味がある。再話の中澤智枝子さんは著書五足萬さんのお母様で、2015年1月に102歳で大往生されている。五足さんはお母様の思い出を形に残したいとの思いからこの絵本を作り、三回忌に捧げたのだ。
中澤智枝子さんはさらにそのお祖母様から「ちゃっくりかき」を聞いたそうだ。何代にも渡って一つの物語が、おそらく語り手によって少しずつアレンジを加えられながら語り継がれていく――なんと温かく豊かなことであろうか。布団の中で両親や祖父母の体温を感じながら聞いた物語は一生涯の宝物である。

『ちゃっくりかき』は働き者のとっさまと、ぬるさくの息子の物語だ。いるのかいないのか他の家族は出てこない。
たよりない息子の失敗に、とっさまは決して怒らない。いつもにこにこ笑っている。
単におだやかな父親像という以上の大事なメッセージがそこには込められているのではないか。
時が来る、ということ。
子どもにはみずから成長していく力がある。今日できなかったことが明日はできる。明日できなくてもいつかできる。そう信じられる者はあせらない。
現代はまわりが気になる時代である。まわりと比べて早く早くとあせってしまう親も多いことだろう。
そんなときこそ、このおおらかな絵本を読んでほしい。昔話には長年語り伝えられてきただけの意味がある。いつの時代にも古びない知恵がある。
子どもも一人の独立した人間であり、親の思うようにはならないのが当然だ。子どもの将来を左右できると思い、左右しようとする子育ては苦しい。
子育てとはにこにこ笑って待つことではないのか。
どんな子もみんな持っている「成長する力」を信じて。

☆     ☆     ☆     ☆

※「子どもにはみずから成長していく力がある」は『子どもを信じること』(田中茂樹著 大隅書店)からの受け売りである。この本は親子関係を考えてとても納得できるものだった。表紙と挿絵は来月のイベント「心しか泊まれないホテルへようこそ」にも参加される岡田千晶さん。このイベントには保立葉菜さんもご参加です。

「子どもを信じること」田中茂樹 岡田千晶 大隅書店

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