絵本の勉強法5「翻訳と創作は似ている」

ぼくが池袋コミュニティカレッジでやっていた講座にはときどき「絵本のお話を書きたい」という人が来た。そういう人にも「まずは絵と文両方の勉強をしましょう」と伝えた。絵本はあくまで絵と文の総合表現で、切り離して考えることはできないからだ。最終的に文の専門家になりたい人もコンテやラフくらい描けた方がいい(この際、絵の巧拙は問題でない)。

「絵は描けるけれど文章が苦手で」という人も多かった。「絵が描ける」と「絵本の絵が描ける」はちょっと違うがそれはおくとして、この人たちもおそらく、ぼくが絵本の文章作家であることに期待して来てくれたのである。
充分応えられたか自信がないが、ぼくの方針ははっきりしていて、絵本づくりの中で、絵といっしょに考えていこうということだった。

文章だけ勉強したいなら童話講座や小説講座に通う方がいいのだ。
絵本の文章が詩とも童話とも小説ともまったく異なるのは、つねに絵とからみながら機能するからで、そこを無視した勉強法は意味がない。
絵本の文章なのだから絵本を作りながら学ぶのが王道だ。

ただ教室ならともかく独学ではややハードルが高いかもしれない。まだ絵本を作ったことのない人に、「作りながら学びましょう」と言うわけだから。

そこでもう少しとっつきやすい方法を紹介しよう。英語絵本の翻訳だ。どこがとっつきやすいんだコノヤロー的な声が聞こえるが、どうかおちついてほしい。
絵本の英語は幼児が読むものだから当然やさしい。中学レベルの英語力で充分読めるし、わからない単語は調べればいいのだ。だいたいの意味が取れれば細かいニュアンスはわからなくていい。いや、勉強のためには「わからない方がいい」とも言える。
絵と、だいたいの意味から、その絵本にふさわしい日本語文を自分のセンスで作っていく。訳すというより作ると考えてしまっていい。意味がだいたいしかわかっていないと「作る」部分が大きくなるから勉強にはかえって好都合だ。

ぼくは翻訳の仕事をするとき、創作絵本の文章を推敲するのと極めて近い作業をしていると感じる。ストーリーがあり、それを表現する絵があり、言葉の細部だけがまだ決まっていない。絵を見ながら意味とリズムを調整していくとき、創作も翻訳もなく、ただ絵本の仕事の面白さがある。

絵本のお話を書いたことのない人も、翻訳してみることで、絵本の文章の特徴、絵本らしい文章とはどういうものであるかがわかると思う。直訳調からこなれた日本語にしていくのはまさに絵本の言葉のトレーニングだ。
すでに日本語訳が出ている絵本なら、自分で訳したものと比べてみるのもいい。きっと驚く点がいくつも見つかる。プロの技を盗むチャンスである。

英語でなく、まったく読めない外国語の絵本もいいかもしれない。言葉はちんぷんかんぷんでも絵が何か語ってくれるだろう。どんなキャラが登場し、どんな事件が起こるのか。どう決着がつくのか。絵だけ見てもだいたいわかるのがいい絵本だという考え方もある。

海外の絵本を探せる場所はけっこうある。

イチオシは目白にある「絵本の家」。厳選された絵本4000タイトル以上、英米だけでなく30ヶ国もの絵本が集まっている。オーナーの小松崎敬子さんには以前、社長インタビューに登場していただいた。

上野の国際子ども図書館は海外絵本収蔵数では日本一だろう。ただし貸出しはしていない。蔵書の大半がある「児童書研究資料室」は利用登録が必要。さらに資料請求して閉架から出してもらうという手間もかかるが、それでも行く価値があるのは海外の本が10万冊もあるから。歴史ある建物も魅力。

いたばしボローニャ子ども絵本館
毎年区立美術館でボローニャ国際絵本原画展を開催している板橋区が、姉妹都市であるボローニャから寄贈された約100カ国の絵本を収蔵している施設。威風堂々たる国際子ども図書館とはうって変わり、廃校になった小学校を改装した懐かしい雰囲気の図書室で、子供心にかえって海外絵本が楽しめる。ここも館内閲覧のみ。

東京ばかりでごめんなさい。

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「絵本作家の仕事」は毎週月曜更新予定です。

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