あなたの世界の大きさはあなたの想像力の大きさに等しい。見えないものを見る絵本『ボールガエル』(風木一人・文 平出衛・絵 福音館書店こどものとも年中向き)

見えないものを見るとか、描かずに表現する、ということにはいつも関心がある。人間は想像力だと思っているからだ。雄大な想像力を持つ人は雄大で、貧弱な想像力を持つ人は貧弱だ。

「ボールガエル」風木一人 平出衛

風木一人・文 平出衛・絵 福音館書店 こどものとも年中向き 2004年2月号

『ボールガエル』も見えないものを見る絵本である。何が見えないかといえば、ボールの中。
子どものころから不思議だったのだ、ボールという存在が。物だけれど、ただの物ではない、どこか命あるもののような気配を感じていた。
サッカーでもバスケットボールでも、上手な人があつかうボールは生きているようで、しかもその人と意志が通じているかに思えた。
不思議に思い続けて20数年、あるとき見えた。ボールの中に住む2匹のカエルの姿が。にやりと笑いかけられた気さえした。

そうだったのか!

『ボールガエル』は見えたものをそのまま書いた絵本である。まざまざと見えて、本当としか思えない、だからそのまま書いた。
直感はだいたい正しいもので、他の可能性を検討した結果でなくても、あとから見ればこれしかないということがよくある。
たとえばボールの中に住んでいるのがカエルなのは、跳ねるイメージでつながっているからだが、では他の跳ねるものはといえば、ウサギでは大きすぎるだろうし、バッタでは小さすぎるだろう。
2匹というのも、1匹ではさみしい感じだし、3匹以上では賑やかすぎて、やはり他ではありえない。
直感による判断はきわめて迅速かつ正確である。意識より無意識がフル回転しているからだろう。

見えたものだから、少し細かいラフを描いた。担当編集者がそれを見て、本番も描いてみないかと言った。しばらく取り組んでみたが、やはりプロに描いてもらう方がいいと結論した。
編集部と相談の結果、平出衛さんに絵をお願いすることになったが、そういうわけでいつもより完成度の高いダミーがあったので、それをそのまま見せてしまった。これはあるいは失敗だったかもしれない。
あくまで参考までに、とお渡ししたのだが、ていねいに描いたダミーだったので、なるべく尊重してあげなければと思われたのではないだろうか。結果的にかなり近い感じで仕上げてもらった。
当初のイメージに近いものが出来たし良いと思っているが、見せなかったら平出衛さんからどんなイメージが出ていただろうと考えると、そちらを見てみたかった気もする。

2004年の刊行時、折込付録「絵本のたのしみ」に書いた文章を以下に再録する。
これはある超有名文学作品のパロディだが、誰にも指摘してもらったことがない。気づいてもらえていないのか、気づいたがパロディの出来が悪いから無視されているのかは不明である。

☆     ☆     ☆     ☆

「ボールの中には」

ボールの中にはカエルが住んでいる。これは信じていいことだ。
なぜって、ボールがあんなにも弾むなんて信じられないことではないか。
重力などという言葉は知らなくても、子どもは知っている。落とした物は地面や床に激突し、そこにとどまる。運が悪いと壊れたりもする。それなのにボールだけは――跳ね返ってくる!
力学法則など習わなくても、子どもは知っている。物はちょっと押したらちょっと動く。大きく押したら大きく動く。それなのにボールだけは――軽く触れただけで遠くまで転がっていってしまう!
ボールというのは一種独特の物体である。それに惹かれるのは人間ばかりではない。子ネコや子イヌもボールで遊ぶ。アフリカのサバンナにボールはないけれど、もしあったならゾウやライオンの子だって遊ぶだろう。
子どものころから、ずっとふしぎだった。ボールにはなにか秘密があると感じていた。しかし今、ようやくわかるときが来た。
ひとつひとつのボールの中に、小さなボールには小さなカエルが、大きなボールには大きなカエルが、二匹ずつペアで住んでいると想像してみてほしい。
ボールが弾むとき、転がるとき、遊び好きで陽気なカエルたちが、飛び跳ね、回転し、笑い声をあげるのが、目に見えるようではないか。
彼らはボールの精であり、遊ぶことこそ彼らの生命なのだ。
退屈がなにより嫌いなボールガエルは、きっと今も、私たちを待っている。耳をすませばその声が、ほら、聞こえてくる。
「あそぼうよっ!」

「ボールガエル」風木一人 平出衛 福音館書店こどものとも年中向き2004年2月号

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