昔話的な繰り返しの絵本『おうさまになったネズミ』(風木一人・作 せべまさゆき・絵 PHP研究所)

力は正義だろうか?
ネコがネズミに言う。「オレの方が強いからオレの家来になれ」
ネズミはネコのツメが怖いからしかたなく「はい、ネコの王様」と答える。
つづいてキツネが、さらにトラが登場し、やはり強いからという理由で王様になる。
ところがそこに山のような怪物が現われて「王様はどいつだ。オレと勝負しろ」と言ったものだから様相は一変する。さっきまで王様になりたがっていた動物たちが「私は違いますよ、このひとですよ」と王様を押しつけ合う。

やれやれ。現実にあっちこっちでありそうな話で、人間だと生々しすぎてやや書きにくい。その点動物だとマイルドになっていい。とはいえ中身は結局一緒なのだけれど。

絵本『おうさまになったネズミ』風木一人・せべまさゆき・PHP研究所

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『おうさまになったネズミ』はぼくの8冊目の絵本で、このときの最大の課題はオーソドックスに行くということだった。
見るからに新奇な大技を使うのが好きだったが、あえてそれを封印し、よくある手法の組合せだけで面白い絵本を作れないかと考えた。
骨格は「くりかえし」である。昔話の王道パターン、3度のくりかえしを「王様の取り合い」と「王様の押しつけ合い」で往復2度使ったのがささやかな工夫。
怪物の登場で転調し、活劇で場を揺り動かし、一番小さなネズミが王様になる意外性で締めくくる。
今読んでもとてもきれいに教科書どおりだ。

オーソドックスな話をオーソドックスな絵で語ると丸くおさまりすぎる。せべまさゆきさんは大胆なデフォルメと鮮やかな色彩で、この絵本の個性を創り出してくれた。せべさんは「動物ではネズミに似ている」と言われることがあるそうで、愛着を持って描いてくださったと聞いた。
怪物のビジュアルは完全にお任せだが、ラフを見たとき笑ってしまった。鯨が陸に上がって進化したらこうなるかと思うような独創的で憎めない姿かたちである。

刊行の翌年、NHKのてれび絵本になった。以後10数年、だいたい年に1度放映されているから、絵本は読んでいないけれどテレビで知っている方も多いと思う。

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この本の制作途中、担当編集者のOさんがPHP研究所を退社された。編集者は会社員なので、異動することも退社することももちろんある。とりかかり中の仕事は他の編集者に引き継ぐこともあるが、このときはすでにだいぶ進んでいたので、Oさんが外注スタッフとして最後まで面倒を見てくれた。
制作はそれでまったく問題なかったと思う。ただ、本は作って終りではなく売らなければならないものだ。
出版社は多くの本を刊行するがそのすべてを同等に一生懸命売るわけではない。人手や予算が限られているからだ。
力を入れる本とそうでない本がある。それを決めるのは社内に応援団がいるかどうかだろう。その本を愛し、評価し、売りたいとがんばる人がいるかどうか。
一番の応援団が担当編集者であることはいうまでもないから、その人がすでに社内にいないのは本にとってかわいそうなことだと思う。
作家にどうこうできることではないので、しかたないのだが。

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「絵本作家の仕事 by 風木一人」は毎週月曜更新予定です。

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