真夏のナンセンス絵本『ぷしゅ~』(作・風木一人 絵・石井聖岳 岩崎書店)

「ナンセンスが好きですよね」と言われることがある。好きではある。しかし本格的ナンセンス絵本(?)はじつは1冊しか作っていない。それがこの『ぷしゅ~』だ。他は「ナンセンスの味を生かした絵本」くらいだろう。

「ぷしゅ~」は遊び終わって浮き輪やビーチボールをつぶすときの音。ぱんぱんだった形が崩れ、へにゃ~となるさまは妙におかしい。面白い。
もっと他のものも「ぷしゅ~」となったら面白いのに、というのが発想の原点で、「ぷしゅ~」といくはずないものが次から次へ「ぷしゅ~」といき、最後はいったいどうなるの?という絵本だ。

絵本『ぷしゅ~』風木一人 石井聖岳 岩崎書店

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絵本の文章を書く人の中には「完成原稿だからもう一字一句変えない。絵は自由にやってもらっていい」というスタンスの人もいるらしい。作家が文を書き、画家が絵を描く、完全分業の考え方だ。すでに亡くなった作家の文章作品を絵本化するときは必然的にこうなる。亡くなった方とは相談できないから。

ぼくは全然違って、分業ではなく共同作業だと考えている。絵描きさんと何度かキャッチボールしながら作るのが楽しい。最初の原稿を書いているときから何らかのビジュアルイメージはあるが、絵描きさんから戻ってくるラフとぴったり重なることはあり得ない。そのずれをよく考えて、絵の修正をお願いすることもあれば文を修正することもある。
やりとりの中で2人のセンスが混ざったりぶつかったりして新しい発想が飛び出してくる、そこが共同作業の面白いところだろう。

『ぷしゅ~』も絵が石井聖岳さんでなかったらだいぶ違う絵本になっていたと思う。
最初ぼくの頭にあったのはもう少し不条理感のあるイメージだった。石井さんが(たぶん石井さん自身よくわからなかったので)理解可能な世界に寄せてきて、ぼくもそれに乗った。
「わからなくてわからない世界」から「わからないけどわかる世界」になった。
絵の細部についてもキャッチボールで変わっていったところがいくつもあった。

本編がほぼ完成したころ編集者のHさんから「カバー裏に印刷する予算が取れたから何かオマケつけましょう」と提案があった。
カバーの裏はふつう真っ白だ。ぼくがこれまでに作った絵本でカバー裏に印刷したのは『ぷしゅ~』だけ、他に1冊もない。
時間もないし、どうしようと思ったが、石井さんがワンシーンだけに描いていた猫から閃いた。
海水浴に行き、晩ご飯を食べ、一日たっぷり楽しんだ4人家族が帰ってきた家には猫がいる。文章には登場しない、石井さんがアドリブで描いた猫で、こいつがひと癖ありそうな顔をしているのだ。
家族が楽しんでいるあいだ、この猫はうちで何をしていたんだろう?と考えると想像が走りだした。
同じ日のアザーサイドストーリー「るすのうちでネコは」をたぶん一日で書き上げた。石井さんもわりとあっという間にマンガを描いてくれて、無事カバー裏のおまけができたのである。

『ぷしゅ~』をお持ちでもカバーを外したことのない方がひょっとしたらおられるかもしれない。もったいないですよ! ぜひ一度ご覧ください。
図書館ではカバーは外してしまうか、本体と貼り付けてしまうので、どちらにしておまけマンガは見られない。残念である。

☆     ☆     ☆     ☆

※石井聖岳さんがぼくの不条理テキストをどう理解可能な世界に引き寄せたかを考えるのは「絵本深読み遊び」としてはかなり上級の課題で、腕に覚えのある方には楽しいと思います。

「絵本作家の仕事 by 風木一人」は毎週月曜更新予定です。
ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>


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