赤ちゃんから大人までの木版画絵本『はっぱみかん』(作・風木一人 絵・山口マオ 佼成出版社)

昔は大家族が多かったからだろうか。みかんやりんごを箱で買う、箱で送ってもらうことが珍しくなかったと思う。
みかんの詰まった段ボールをあけると中にひとつふたつ葉っぱつきのみかんがあったものだ。だいだい色にみどりが映え、子供心になんだか特別なみかんに思えた。取り合って3つ上の兄とけんかしたりした。

絵本「はっぱみかん」風木一人・山口マオ・佼成出版社

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今でもまれに葉っぱつきのみかんを見つけるとちょっと嬉しくなるが、あるとき「みかん自身はどう思っているんだろう?」とひらめいたのがこの絵本『はっぱみかん』の出発点。
たくさんのみかんの中で一つだけ葉っぱのついたみかんの気持ちを考えていたら「自分だけ人と違う」というテーマが浮かび上がってきた。
人と違うことはコンプレックスになることがある。優越感になることもある。同じ人の中に、特別でありたい気持ちとみんなと同じでありたい気持ちと、両方あるのがとても興味深いと感じた。
この絵本ではおもに特別でありたい気持ちにスポットが当っていて、3年後の『おやゆびさん』ではおもにみんなと同じでありたい気持ちにスポットが当っている。
大きなテーマは1作で決着がつくようなものではないから、ストーリー的にはまったく別個の作品でテーマの続きに取り組むケースはけっこうある。

「自分が人と違う」ことをどう考えるかは大人にとっても重要だが、子どもにとってはなおさらで、小学生から思春期にかけてはまわりとの違いがとても気になる年頃だろう。
そういう意味で『はっぱみかん』のメイン読者は小学生と思って作ったが、実際には小学生にとどまらなかった。中学生に読んだ、大人が自分のために読んだ、赤ちゃんに読んだ、と大変幅広い反響があったのがこの絵本の特徴である。

赤ちゃんに関しては、ぼく自身も何度か保育園等で読んでみて、よくわかった。1、2歳の子はテーマで楽しんではいない。みかんに顔がついていてしゃべる、というだけで面白いのだ。主人公がちょっと調子のいいキャラで、冒頭から「やあ!ぼくがどれだかわかる?」と読者に直接語りかけるのもいいらしい。
座っていた子が寄ってきて、「みかん~!」といいながら絵本のみかんにタッチする。代わる代わるやって来るからみんな終わるまで次に進めない(笑)
最後まで読めなくてもそれはそれでいいのだと思う。彼らなりのこの絵本の楽しみ方なのだ。
身近で美味しいみかんが、子どもたちに大人気なのがよくわかった。
触りたくなるのはもちろん、山口マオさんの絵がすばらしいからでもある。
山口マオさんは「版画は大変なんですよ」とおっしゃっていた。
絵本を作るとき、まずラフを描いて、下絵を描く。下絵はカラーでしっかり描くから、普通の絵ならだいぶ完成に近い状態だけれど、版画はそこからが長い。
彫りに手間がかかり、刷りにも手間がかかる。
それでも版画で作るのは版画でしか出せない味があるから、と話してくださった。
木版画の太い線と素朴な色合いは確かに『はっぱみかん』の大きな魅力になっている。見るだけでなく手で触りたいと思わせる温かさがこもっている。

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