みんなと違うと仲間はずれ? 手と指の絵本『おやゆびさん』(風木一人・作 ひろかわさえこ・絵 鈴木出版)

「おやゆびさんは ちょっと違う。
他の指とは ちょっと違う。

違うと仲間はずれなのかな?
いいえ。
違ってもいいんです。
違うからこそいいんです。
おやゆびさん、よかったね!」

絵本『おやゆびさん』風木一人 ひろかわさえこ 鈴木出版

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この絵本が出たとき日本児童図書出版協会の冊子「子どもの本」に書いた文章が今もネット上で読め、創作のきっかけや込めた想いなどはわかりやすく説明してあるので、ここでは別のことを書きたい。

絵本になるお話とならないお話がある。連続した絵で表現するのに適しているかどうかということで、お話として面白いかどうかとは別問題だ。
『おやゆびさん』を書いたとき、面白さには自信があったが、絵本にするには難しい点があることも自覚していた。
この話には手しか出てこない。本当に最初から最後まで手だけ、おやゆびさんを初めとする5本の指が擬人化され会話しているが、他に動物も子どもも出てこない。
絵本の第一の楽しさはめくると絵が変わっていくことである。次はどんなシーンが現われるかというドキドキである。それなのにずっと手。
指を動かすことで手の形は変わっていくが、それでもいろんなものが登場するのと比べれば変化に乏しい。色彩的にも地味である。
これをどう絵本にするか?
背景に何か描くというやり方もある。メインがずっと手でも、背景が変われば見た目の変化は出る。しかし、これの場合、指たちの気持ちのやりとりで完結する話なので、バックに何を描いたとしてもストーリー的には意味がない。意味がないばかりか、読み手の気を散らすじゃまものになってしまう可能性が高い。

1、手だけで画面が単調になる。
2、色彩に乏しい。

この2点を解決しなければいけないことはわかっていたが、ぼくにはいいアイデアがなかった。
どうしたか?
ひろかわさえこさんにお任せすることにした。文章作家のぼくが悩み続けるよりも、絵のことは絵描きさんに解決してもらう方がいい。
絵本の文章作家は、絵で解決できることとできないことの区別がつかなければいけない。そうでないと絵描きさんに無理難題を押しつけてしまう。あるいは絵に任せた方がいいことまで言葉にして書きすぎてしまう。
具体的な解決策はなくてもいい。必要なのは絵で解決できるかの判断だ。絵で解決できない場合には文で解決しなければならない。

初めての打合せのとき、ひろかわさんはにっこり笑って「難しいテキストをありがとうございます」とおっしゃった。
絵本のテキストは絵描きさんへのラブレターであると同時に挑戦状なので「しかと受け取った。受けて立とう」と言われたわけである。
結果的にひろかわさんは、ぼくがまったく想像もしなかったようなアイデアで上の課題2つを解決された。できあがってみると、もうこれしかなかったと思えるエレガントな解決であった。
ぜひ絵本をご覧になって確かめてほしい。あまりに自然なので、ひょっとしたら「何を工夫したの?」と気づいてくれない読者もいるかもしれない。

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「絵本作家の仕事 by 風木一人」は毎週月曜更新予定です。
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