命のつながりをやさしく伝える絵本『おおきな木のおはなし』(メアリ・ニューウェル・デパルマ/作 風木一人/訳 ひさかたチャイルド)

2009年からの数年間、かなりたくさんの洋書絵本を読んだ。上野の国際子ども図書館に開館から閉館まで詰めてランチ休憩以外読み続けたりした。その結果わかったことがある。「翻訳したい!」と感じる絵本はめったにないということだ。
100冊見て1冊くらいだろうか。100冊読んで、ではない。表紙とタイトルだけで好みでないとわかるものも多いからそれは外し、残りを読む。

翻訳版を出すまでのハードルはけっこう多い。
まずはもちろん、ぼくが読んで良いと思うかどうかだ。良いと思わないものを人に薦めるわけにはいかない。
「これは!」と思っても調べるとすでに翻訳されていることもある。翻訳絵本も毎年数百点は出るので、すべて知っておくことはできない。
日本人の好みに合うかも重要だ。特に絵の好みは国によってずいぶん違うと感じる。お話は素晴らしいのに、主人公のビジュアルがどうにも魅力的でないことがある。たぶんその国では愛される顔なのだろうけれど、日本ではあきらめるしかない。
とても面白いけれど翻訳できないものもある。たとえば言葉遊びがメインの絵本だ。言葉の意味は訳せても、音の面白さは消えてしまう。

絵本「おおきな木のおはなし」メアリ・ニューウェル・デパルマ作 風木一人訳 ひさかたチャイルド

【amazonで見る】

『おおきな木のおはなし』(原題 ‘A Grand Old Tree’ )の場合は、まず同著者の別の作品を図書館で読み、興味を持った。
メアリ・ニューウェル・デパルマは日本で翻訳されたことのない作家だったので、まずはネットで調査した。作家自身のホームページとアメリカのamazonが一番役に立った。中の絵も何枚か見られたし、読者によるレビューも参考になった。
「A Grand Old Tree」と他2冊を取り寄せた。読まずに買うと外れることも多いが、これは当たりだった。
1本の大きな木の一生が描かれている。小さな芽から、季節を繰り返しながらだんだん大きくなり、たくさんの生き物の住みかとなり、いつか枯れて倒れるときがくるけれど、あとには大きな木の子どもや孫の木たちが育っている――。
絵もお話もとてもよかった。
テーマは有名な『葉っぱのフレディ』に近いが、『葉っぱのフレディ』が絵本としては対象年齢が高かったのに対し、これは本当に小さな子から楽しめるのもいいと思った。美しい絵と優しい語りが、理屈ではなく、心に沁みるようなかたちでテーマを伝えている。

「葉っぱのフレディ」

【amazonで見る】

タイトルは『おおきな木』としたかったが、シェル・シルヴァスタインに同名ベストセラー絵本があるので少し変えた。今となってみればこの絵本にはこれでよかった気がしている。

「おおきな木」シェル・シルヴァスタイン

【amazonで見る】

ぼくの1冊目の訳書『とりとわたし』はあすなろ書房のYさんが紹介してくれた本なので、自分で見つけだした絵本を翻訳するのは初めてで嬉しかった。
もう一つ嬉しかったのは、前記のように、メアリ・ニューウェル・デパルマが日本で未紹介の作家だったことだ。
すでに日本で有名な作家の作品や、海外で大きな賞を取った作品ではなく、どちらかというと目立たない、自分ががんばらなければ日本の読者に届かない作品を翻訳することこそ本当に価値ある仕事だろう。
注目度の高い作品はぼくがやらなくても誰かがやるのだから。

☆     ☆     ☆     ☆

「絵本作家の仕事 by 風木一人」は毎週月曜更新予定です。
ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内> <公式 Twitter


スポンサーリンク

シェアする

フォローする

トップへ戻る