第5回「夫子のこの邦に至るや、必ず其の政を聞く」新しい世代の登場と求心力の低下、分派の予感

子禽(しきん)、子貢(しこう)に問いて曰く、夫子(ふうし)のこの邦(くに)に至るや、必ず其の政(まつりごと)を聞く。之を求めしや。抑(そもそも)これに与えしや、と。子貢曰く、夫子は温、良、恭、倹、譲、以って之を得たり。夫子の之を求むるや、其れ諸れ(それこれ)人の之を求むるに異なるか、と。(学而編十)

孔子が魯国で失脚し、仕官先を求めて各国を遊説して回っていた時の話だろう。
子貢は孔子の有力な弟子の一人。子禽は若い弟子。子貢の弟子であって、孔子から見れば孫弟子にあたるらしい。その若造が、「大先生はこの国に来て、お偉方と政治の話をしてますが、これは大先生が求めているのですか、先方が望んで相談をされているのですか」と、自分の師匠の子貢に質問している。

もちろん孔子は、政治家として召し抱えてもらうために、自分を売り込みに各国を回っているのである。弟子たちも、その孔子を支えるために同行しているのだ。なのに、「政治の話をするのは先生が求めているからか、先方が望まれているのか」とわかりきったことを聞くのだから、はっきり言って無礼な質問である。
子貢も驚いたのだろう。返事の仕方に狼狽ぶりが表れている。「先生は、温、良、恭、倹、譲といったあらゆる徳を備えた方だ。先生が求めたとしても、他の人のような卑しい売り込みとは違うのだ。」

孔子は、子貢たち古参の弟子たちにとっては偉大な師(学問の、かつ人生の師)でも、若い孫弟子たちから見れば、すでに政治家としての地位を失った、ただの爺さんである。直弟子たちがそれぞれ弟子を取るようになると、孔子の求心力が次第に衰えても仕方がないかもしれない。子禽の言葉に、後の儒家の分裂の兆しがすでに窺えると言っては、穿ち過ぎだろうか。
ちなみに子禽は後日、子貢に向かって「孔子なんかより先生の方がずっと偉いですよ」と言う意味のことを言って子貢からたしなめられている(子張編二十五)。

それにしても、自分たちが尊敬する孔子を一生懸命支えようとしているときに、事もあろうに自分の弟子が孔子を軽んずるようなことを言い出すとは、困ったものである。それでも孔子一門の一翼を担う子貢としては、若者の質問にはきちんと答えなければならない。“You’re fired!”と叫んで終わりにするわけにはいかない。
弟子もなかなかつらいのである。