魔の虫(3)

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この凄まじい名前。いったい誰が思いついたのだろう。いまとなってはとても不思議に思う。近所のガキ共がマジに真剣に恐れていた魔の虫。それがチンポキリだった。この虫は隠れ家である石をひっくり返さたりしていじめられると、いじめた子の顔をちゃんと覚えている。夜中になるとお尻についた大きなハサミをふりふりその子の家に侵入し、その子の布団にもぐりこんで、チョキンと切ってしまう。なにを切るのかは言うまでもない。じつに恐るべき復讐の虫なのだ。
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「おまえら、ミヨちゃんのこと、知ってるか!」
ガキ仲間のひとりが言った。ミヨちゃんというのは近所に住んでる少女で、当時、4歳とか5歳だった。少々「頭があったかい子」で、幼稚園にも行ってない。親はなにをしている人だったのか記憶にないが、いつもだらしない格好でガキ共と一緒に遊んでいた。よくバカにされたり小突かれたりしていた。しかしそれは「いじめ」ではなかった。少年たちはなんだかんだ言って、この知的障害少女を愛していた。ぼくはぼくで、彼女をバカにしたり小突いたり絶対にしなかった。理由は極めて明快で、彼女はぼくよりも絵が上手だったのだ。

当時、父は中学校の美術教師をしていた。土曜日になると、自宅アトリエに近所の子供たちを集めて絵画教室をしていた。ミヨちゃんはどうやら学費を払わない生徒らしく「ただ遊びに来ている」という感じで、スケッチブックも絵の具もなにも持たないで、いつも手ぶらで来ていた。それでも父はこの少女を愛し指導した。自分のクレパスやクレヨンを与えて絵を描かせていた。「どうだこの魚は!」と言って、笑顔でミヨちゃんの作品をみんなに見せたりした。ぼくにとっては羨望の生徒だった。ぼくはいまでも目を閉じると、そのようにして父が喜んで生徒たちに見せたミヨちゃん作品を、4点は脳裏に描くことができる。実際は、その2倍3倍はあった。まさに羨望だった。そのようにしてぼくの作品が取り上げられたことは、ただの一度もなかった。ただの一度も。
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少々脱線した。話を元に戻そう。
「おまえら、ミヨちゃんのこと、知ってるか!」と叫んだ少年は、自分の股間を指差した。
「ミヨちゃんには、ない!」
重苦しい沈黙が漂った。少年たちはみな顔面蒼白だった。じつはみなうすうす知っていた。彼女はタチションをしない子だった。なにをして遊んでいる時でも、さっさとパンツを下ろしてその場でしゃがんだ。シャーッと気持ち良さげにやっている様子をじっと見ているガキ共は、みな気がついていた。あるべきものが、彼女にはなかった。
かろうじて元気をふりしぼったひとりが言った。
「きっとアイツにやられたんだ!……みんなでやっつけよう!」
しかしだれも同意しなかった。復讐の復讐は、成立しなかった。

………………………………………(つづく/次回最終回)

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